・僕と彼女と・
〜だいじゅうわ〜
〜だいじゅうわ〜
二人だけで過ごす夜……いや、何もしないってば。 たぶん。
「ふっふふ〜ん♪」
台所から聞こえる楽しそうな声。
いま、ミリィが料理をしてる。
午前中に言っていた“リベンジ”をはやくもやっているのだ。
ちなみに、お昼は俺が作っていたり。
もう完全に慣れてしまった事を、嬉しいのか悲しいのか認めるしかない。
ある意味、俺は何処に出てもおかしくない“主夫”になれてるかもな…。はぁ。
「今度こそせーちゃんを唸らせるんだからねぇ。負けないぞっ」
「いや、勝負じゃありませんから」
「女の子のプライドなの。OK?」
「はぁ……そういうものですか」
「それに、あたし自身も練度が上がるし、一石二鳥だとは思わない?」
「そんなものでしょうかね?」
「そう言うものなの。だから、さっきの買い物だってあたしが全部選んだんだからね」
さっき出かけた時の事。
スーパーに行ったはいいものの、食材等すべてミリィが選んだもの。
俺は完全に荷物持ち。
まぁ悪くはないんだけどね?
買った材料からすると……夕飯はハンバーグか何かだろうか。
「まぁ楽しみにしてますよ」
「うんうん。しちゃって〜。それまではせーちゃんまったりしてていいから」
「そう言うのも逆に暇になるんですよね。何か手伝いますか?」
「だめ〜。今日のせーちゃん食べる係。手助け禁止」
「あらら」
「その代わり、残さず食べてねっ」
「それは言われなくとも、ですな」
しょうがない。居間でなにかしてるか。
んー、午後はミリィとごろごろしてたせいか、コレといってする事がない。
新聞なんて、スポーツ欄とテレビ欄位しか見ないし。
かと言ってテレビは……この時間は面白いのはやってない。
ゲームなんて俺ほとんどしないしな〜。
本も、今読みたいって気分でもない。
こんなだから、俺に残された道はひたすらごろごろする事だけ。
ゆっくりするのは嫌いじゃないけど、なんかこう落ち着かないな。
ソファーに沈み込むように寝転んで、ボーっと天井を眺めてみる。
カーテンの隙間から入り込んだ夕方の光が入り込んで、白いはずの天井がオレンジ色になってる。
これももう少ししたら見えなくなるか。
「ねぇねぇ、せーちゃんせーちゃん」
と、ここで俺を呼ぶミリィの声。
「なんすか〜?」
「塩と胡椒がないよ」
「えぇっ? そんなはずは……」
起き上がって、いつも入ってるビンを見てみれば……入ってない。
お昼で使い切っちゃったかな? 換えはどこにやったかな。
「あれーおかしいな。塩なら見つかったけど胡椒がないや」
「ない?」
「ここになければ、後は気まぐれで棚に入ってるくらいしか……」
そう言って、お皿とかが入ってる棚を指差す。
あそこの小さな引き出しに、調味料の買い置きとかが稀に入ってるときがある。
「ありそう、せーちゃん」
「うーん……ブラックペッパーならあるんですがね。胡椒はどうやら切らしちゃってるみたいです」
「そっか〜。無いんじゃしょうがないなぁ」
「すいません」
「ううん。せーちゃんが悪いんじゃないよ。胡椒が悪い」
「こ、胡椒ですか……」
「どうしてこんな時になくなっちゃうのかねぇ」
「それは俺が昼で使い切っちゃったから……」
「……あれま」
どうしようもない時は、はてしなくどうしようもないもの…。
そんな事もあったけど、無事に夕飯は完成。
ミリィはいろいろ言ってるけど、そこまで料理素人ってワケじゃないからね。
俺には心配は何も無い。
「さささ、食べてみてくださいなせーちゃん」
「頂きます」
「わくわく」
湯気のぼる出来立てのハンバーグ。
口に入れた瞬間広がる肉汁。う〜ん、これはまた……って俺、解説しちゃってるよ。
しかも、ミリィはコレでもかってぐらいに俺を見てるし。
「じ〜…………」
「あ、あの。ミリィ…さん?」
「せーちゃん、味……どう、かな?」
「むぐむぐ……うん、いけますよ。申し分ありません」
俺がそう言ったとたんに、ミリィの表情がふっと和らいだ。
「ホント? 良かった〜そう言ってもらえて。でも、やっぱりそう簡単には上手にならないよねー。まぁ、今回は結構自信あったしあたしとしては満足してるんだ」
「それが一番いいと思いますよ。誰かに美味しいって言って貰うのも大事ですけど、自信がなければ意味ありませんからね」
「過信してもダメだけどね」
「ですね。慢心、おごりは最大の敵ですから」
「うん。だからこれからもあたしの修行は続くのだ」
まだまだ頑張るぞ、と言って自分の分を食べ始めるミリィ。
んー、まだまだって言ってるけど、俺はこの味好きだけどね。
ミリィの一生懸命さが伝わってくる感じが、暖かいような感じが。
人それぞれの目標ってやつなのかな。
でも、これ以上美味しくなってもらうのも俺としては嬉しいわけで。
自分で料理しなくなるかも? なんてね。
「せーちゃん的にさ」
「はい?」
「今日のあたしの出来栄えは何点頂けるのかね?」
「え、点数ですか?」
「うんうん」
「点数……そうですね、70点ってところでしょうか」
「ん〜、低くなく高くなく、かぁ。微妙なトコだね」
「いや、そうじゃないですよ」
「えっ違うの?」
「個人的にはいつでもミリィの作ってくれるご飯は100点あげたいです。でも、ここで100点付けたら今後上手くなった時に困りますからね。 ですから、100点は絶対に付けられないんですよ」
「せーちゃん、嬉しいこと言ってくれるねぇ。こうなったら、ミリィさんせーちゃんのために更に頑張っちゃうぞ!」
「期待してますよ」
「まっかせといて!! せーちゃんを必ずメロメロにしちゃうからっ」
片目をつむって、ブイっとピースサイン。
顔もニッコリ笑顔だ。
「それじゃ、締めのデザートは俺から……」
「ん、デザート?」
「はい。冷蔵庫に入ってますので、いま取りますね」
「あれ、あたし何か買ったっけかな? それともせーちゃんいつの間に購入?」
「いやいや、既製品じゃないですよ。俺が作ったんです」
「え、いつの間に作ったの?」
「さっきミリィが寝てるときに作ったんですよ。俺途中で目が覚めちゃったもので」
「あれま、そうだったの」
「材料なかったんでそんなにいいもの作れませんでしたけど、フルーツゼリーです」
「おー流石せーちゃんっ。いい仕事してるねぇ」
俺の作ったフルーツゼリー、ミリィは美味しいといって食べてくれた。
やっぱり、誰かのために作って、それを美味しいって言って貰えるのは一番嬉しいな。
さて、夕飯が済んだことだし、これから何をしようかなんて考えてれば……
「せ〜ちゃんっ」
ソファーに座ってる俺の背後からミリィの声が聞こえてきた。
ついさっき、自分でお風呂を掃除するんだーと言って風呂場に向かったのだが、それが終わったんだろう。
「はいはい、なんですか」
「まだお風呂が出来るまで時間があるんだにゃ〜」
と、この間みたく手を丸めて猫のマネ。
そのままソファー越しに後ろから抱き付いてきた。
「なんだか今日はずいぶん行動派って感じですね。ご飯を作ってくれたりとか」
「んとねー、今日はせーちゃんの役に立ちたいなって思っちゃって。それに、今日はずっと二人っきりでしょ? 何ていうかさ、新婚さん夫婦ってヤツ?」
「し、新婚さんですか……」
「そーそー。まさにそれだよね」
「な、なんだか恥ずかしさ満点のセリフですね」
「えぇ、そうかな。あたしは平気だけどね」
そう言って今度は頬擦り……。
ふと思う。ヒゲ、全然生えてなくてよかったと。
俺は親父に似てとても薄いんだそうな? そんな事はさておき。
「み、ミリィ……」
「ん〜、猫っぽいでしょ?」
「今日は本当に行動派ですね」
「せ〜ちゃ〜ん」
「いつものミリィは何処へやら、かな」
そんな事言いつつも、このまったり感というか、二人の間に流れてるムードを俺自身も気に入っていたり。
ミリィに隣においでと囁いて、ソファーのスペースをあけた。
ぽふっと座った所で、軽く、触れるような感じのキスを。
「んっ……」
寄り添うように、額と額をくっつけて、お互いの吐息さえも感じられる距離で、ふっと笑顔になる。
「ねぇ、せーちゃん」
「なんですか」
「えっとねぇ〜」
そのまま顔をずらしていって、俺の耳元でふぅと息を吹かれた。
思わず全身がゾクゾクッと震える。
それを見てふふっと笑ったあと、何かをねだるような感じのトーンでささやいた。
「お風呂、一緒に入ろっか――――」
つ ぎ へ も ど る