僕と彼女と
〜だいきゅうわ〜



そりゃ、誰だって驚くだろうよ。


目が覚めた。
カーテン閉めずに寝たせいか、外の明るさがダイレクトに起きたての目に入り込んでくる。
一瞬目が痛かったけど、すぐに慣れて身体を起こす。
今日は嬉しい休日だ。週末の土日は常に楽しみ。
今日もこうやって10時過ぎまで寝れたんだから。
もう一眠りしようとも思ったけれど、丁度お腹が食べ物を要求してきた。
まったく、起きたばっかなのになんとも元気な腹だ。
半ばボーっとした感じで布団から起き上がると、着替えもせずにそのまま居間へと降りていく。
どうせ自分の家だし。休日だし。両親は相変わらず休日でも仕事に行ってるだろうし。

「……………?」

ふらふらと一階に降りた所に、ふと何やら匂いが漂ってきた。
これは食べ物の匂い?
何でこんな時間に。お袋今日は家にいるのかな。
まぁちょうどいい。ついでに俺もご飯を食べるか。

「…………おはよ〜」
「あっ。おっはよー。よく眠れた?」
「ん〜……メシ」
「はいはい。ちょっと待っててよせーちゃん。今出来るからね」
「ん〜…………ん?」

なにか違和感が。
お袋にしてはどーも声が若い。
もちろん本人に直接言ったら締められるが……。
それにお袋俺のことせーちゃんなんて…………んん?

…せーちゃん…?

じっと、台所に立ってるはずの“お袋”を見てみた。
第一に、髪の毛が短い。
第二に、洋服が若者向け。
第三に、って言うかこっち向いてるのミリィさんだし。

………………え? みりぃ…さん?

「ん? どしたのせーちゃん」
「――って、えぇっ!? み、ミリィさん?!」

朝から俺、元気だなって思えるくらいに大きな声が出た。
そりゃあもうミリィさんがビクッてするほど驚くくらいに。
一応俺、寝起きだぜ…?



「どう、美味しい?」
「良くも悪くもミリィさんの味ですね」
「うわ、朝から辛口だねー。せっかく作ったんだからもっと褒めろー」
「いやぁそうは言われても……」
「うーん、やっぱ昔から料理やってるせーちゃんには敵わないかぁ」

バンザイするような格好のまま床に倒れこむミリィさん。
ちなみに食べてる所はちゃぶ台な。
まさか椅子座ってるまま倒れこんだら……ねぇ?

「俺だって好きでやってるわけじゃないですからね。 それに、ミリィさんだって俺と同じ境遇じゃないですか」
「ウチの場合は、お母さんが朝に作っていってたからね。自分で料理はほとんどしてないのだ」
「さいですか」
「よぅっし、今度は絶対せーちゃんを唸らせるぞ〜!」

寝たままの姿勢でミリィさんが意気込んだ。
いや、これでも十二分に美味しいですよ?

「ミリィさんの愛情が詰まってる分、俺が自分に作るよかはずっと美味しいはずですよ」
「そう言ってもらえるのはすっごく嬉しいんだけど……実際問題料理の腕はせーちゃんが上だし。…はぁ、ここは女として彼女として、哀しいところなのです」
「俺はあんまり気にしませんけどね」
「う〜む……あ、そう言えばさ。せーちゃんいつもお昼のご飯はどうしてるの?」

ガバッと起き上がった先輩がそう尋ねてきた。

「昼ですか? 買いに行くのも大変ですから持参です。お弁当を」
「そのお弁当、お母さんが作ってる?」
「いや〜ほとんど自分ですよ。たまーに、作っていってくれますけど」

親父が弁当持ちの時。俺のはあくまでついで感覚でな。
悲しいかなオマケ扱いだ! もちろんオマケといえどしっかり作ってあるが。

「じゃ、じゃあせーちゃんは朝からほとんど毎日台所に立ってるわけだね…?」
「そう、なりますね」
「がーん……負けた」

そしてまたポテッと倒れこむ。
朝から元気ですねミリィさん。
俺なんてようやくエンジン始動ですよ。

「あたしなんか、お弁当作ってもらえなかった時は購買にダッシュなのに……ぐすん」
「混んでるでしょ?」
「戦争よ。あれは。生き残るための!」
「だったら俺が作りましょうか? ミリィさんの分のお弁当」
「うぅ…それは非常に嬉しい提案なんだけど〜。彼氏に言われる彼女の立場は……とほほ」
「そうですか? ご希望なら毎日サンドイッチでも構いませんよ」
「じゃあよろしく!!」

は、はや…………。

「ま、まぁ。頑張りますよ」
「サンドイッチに勝てるあたしじゃないからね。もう進んでプライド捨てまーす」
「じゃあ来週当たりから……」
「うんっよろしくね。せーちゃん☆」

ニッコリ笑顔のミリィさん。
これを見たら妙に可愛く感じてしまった。
こう、ギュッとしたくなった。

「ミリィさんミリィさん」
「ほいほい」
「抱いていいですか?」
「……えっ?」
「ぎゅーっとしたくなりました」
「えぇっ?! わわわ。まだ朝なのに」
「別にそれ以上はしませんて……」

そっと招きよせて、後ろからミリィさんを包み込むように抱きしめる。
俺はこの姿勢が好きだ。
前に伸びた俺の手に、ミリィさんの手が重なった。

「ミリィさんの手、柔らかいですね」
「余分な肉がついてるわけじゃないからね…」
「分かってますよ。女の子として柔らかいって意味です」
「ん、ありがと」
「いえいえ」
「ねぇ、キスしてくれる?」
「もちろんよろこんで…」

少し首を傾けて、抱きしめた姿勢からミリィさんと唇を重ねる。
軽く触れるだけのキスとか、少しついばむ様な感じのとか。
まぁ朝だからそんな深いのはしない。
これだけでも、十分幸せだ。

「んっ……はぁ」
「ミリィさん…」
「…ねぇ、二人っきりの時はさ。この間みたく…ミリィって呼んでよ」
「えっ? で、でも……」
「学校じゃ、さん付けでも、最悪、先輩でもいいけどさ……こうして誰もいないときは、ミリィさんよりもミリィって言うのを優先して欲しいな」
「そ、そうですか……?」
「うん」

ミリィって呼び捨てにするのは……あの時以来。
しかもあの時は勢いあまってというか、俺も気が他に向いてたから出たのかもしれない。
他って言ったってアレだけどさ…。
まぁとにかく、さんがないだけでも結構抵抗はあるものだ。

「じゃあ……ミリィ」
「うん。それそれせーちゃん」
「恥ずかしいですね」
「慣れだよ、慣・れ・。その為にも今日はミリィで通してねっ」
「が、頑張ります……」
「うんっ。頑張れ、せーちゃん」

ふたたびニッコリ笑顔のミリィ。
…いや、すんなり言おうと思えばいえるさ。
恥ずかしさとか、何にも気にしなければ。
でも正直ミリィさんって呼ぶほうが好きだなぁ。
なんか呼び捨てってのは……。
先輩後輩だからじゃなくて、どうにも違和感があるんだ。
まぁ、そんなこんなで、午後まで掛かって俺は何とかミリィって言うのに慣れていった。
そんな、土曜日の昼下がりだった。



――ちなみに、何故ミリィが朝から我が家にいたのか。
ずっとそれを聞くのを忘れてた俺は聞いてみた。
すると……

「ん? なんとなく」

…だ、そうだ。
でも、来た時には本当にお袋は居たらしく、ミリィに朝ごはんを頼んだんだそうな。
二度目のちなみにだが、お袋も親父もミリィの両親も、俺たちが付き合ってるってことはまだ知らない。
でも、お互いの家を何度か行き来してるから顔なじみにはなってる。
だからお袋がこうして頼んだんだけどね。
そして最後に……ミリィはこんな事を言った。

「あっそうそう。せーちゃんのご両親ね。今日は仕事の都合がつかなくなりそうだから帰ってこないって」

あーらま。休日なのに会社に泊まりこみっすか。
二人とも大変だな〜。

「だから、ちょうどあたしのところも同じ具合だったから、今日はせーちゃん家に泊まるね」


………………は?






つ ぎ へ      も ど る