・僕と彼女と・
〜だいはちわ〜
〜だいはちわ〜
話題とは、唐突に振られるものである。
「なぁなぁ、橘」
とある休み時間。
クラスの中じゃそこまで人としゃべらない俺に話しかけてくる一人の男子生徒。
知らないわけじゃない。
何度か話したことはあれど、そこまで仲が良いわけでもない。
つまりは、一クラスメートってワケ。
で、その彼は俺に何を言ってきたかというと……
「すんげー突然だけどさ、新川先輩って良くねぇ?」
「は?」
一瞬何を言ってるのか理解できなかった。
え、なに? 新川先輩だ?
新川先輩って……ひょっとしなくてもあの、ミー先輩?
「な、なにが?」
「いやーだからさ、美人って言うか可愛いって言うか。さっきあっちの連中と話しててさ。それで、同じ図書委員の橘だったら何か知ってるかと思って」
「…知ってるって、何を?」
「彼氏いるかなってさ〜。流石にしらねぇか」
……ふむ、そういう事か。
しっかしまぁ、ミー先輩そんなに人気があったのか?
それともあの中で誰か惚れた輩でも…?
でも、ねぇ?
知ってるも何も俺は……
うーん、何と言ったらいいものか。
「んでまぁ、もしいなかったら橘のコネで紹介して欲しいなって、さ。……で、どうよ?」
俺は橋か何かにされそうなのか?
って言うかそんな目で彼女を見ないで欲しい。
……仕方がない。
「一つだけ言っとく」
「お、なんだ?」
「新川先輩は……いや、ミリィさんは、俺の彼女だ」
もちろん、この言葉にクラス全体が注目し、沈黙したのは言うまでもない……
「ふぅ〜ん、そんな事があったんだ」
「えぇ、まぁ」
放課後、今日も図書室で委員会の仕事をする。
その時にミリィさんにさっきのことを話してみたわけ。
「しっかしせーちゃん、ずいぶん直球勝負だね」
「……と、いいますと?」
「ハッキリ彼氏だって言っちゃって、相手驚いてなかった?」
「驚いてたといいますか……開いた口が塞がってなかったといいますか。まぁ、驚いてたって事に違いはないですね」
「でしょうね〜。だって“あの”せーちゃんだもんね」
「…あの、ってなんですか。あのって」
「だって〜大人し〜いせーちゃんが、しっかりあたしと恋を育んでるなんて、誰も知りもしないでしょ」
は、育むって……これはまたこそばゆい感じが。
「せ、せんぱい……」
「………………」
「あれ?」
「…あたし、先輩って名前じゃないもん」
あ、あははははは…。
しっかりとしてますな。
あの時……告白した後の俺、結構先輩って言ってたのに。
やっぱ、状況が状況だけに気がつかないか。
でも名前で呼び捨てにしちゃったときは気がついてたけど……ま、いいか。
「ミリィさん。でしたね」
「うん。そうだよータチバナクン」
「あらら。にしてもせ……あいや、ミリィさん」
「ん、なに?」
「場所が場所だけに、この間のコト思い出しますね」
そういった瞬間、ミリィさんの頬が赤く染まった。
先日我らが行った場所は、現在誰も知ることなく座られている。
誰も知らない、俺とミリィさんだけの記憶。
でも、なんだかそこをマトモに見れないんですけど……
「せ、せーちゃん……! ここでそんな事言わなくてもいいのっ。あ、あたしだって…まだ、恥ずかしいんだから……」
「…すいません」
「せーちゃんって、意外と積極的だったんだね」
「ま、まぁ……その、俺も男ですから……ははは」
「…今度は、布団の上がいいかな」
「ミリィさん…」
「何が布団の上なの?」
突然声を掛けられた。
二人して慌ててその方向を見ると、そこには桜城先輩が。
どうやら、返却図書を棚に戻し終えたらしい。
「何かあったの?」
「えっ!? い、いやーその……お昼寝するなら、やっぱり布団の上だよね〜ってせーちゃんと話してたトコなの。……ねっせーちゃん?」
「そ、そそそうですね。固い床や机の上で寝たらそりゃ痛いですyぐふぅ!!」
み、ミリィさん……なんで肘打ちっすか……。
しかも…み、鳩尾に……!!
「あらら、橘君どうしたの?」
「い……いえ、ちょっと」
「あ、あははははーっ」
俺たち三人以外にあまり人気の無い図書室に、ミリィさんの乾いた笑い声がやけに大きく聞こえた。
そんな訳で、時間は放課後下校の時刻。
流石に今日は桜城先輩がいるからコトには及べない。
そんな事言いもすればたちまちミリィさんに撃沈されてしまう。
「あー今日も終わりは誰もいないのね〜。変化のない現実って感じかな」
「まぁ平和に終わって良かったじゃないですか」
「ミリィも橘君もお疲れさま。そろそろ閉めて帰ろうか」
終わりに軽く掃除をして、電気を消して鍵を閉めてから図書室を後にする。
いつものように、先に昇降口にたどり着く俺は別の昇降口から歩いてくる二人を待っていた。
ふと空を見れば、オレンジ色が深まってやや赤紫色になっている。
そろそろ一番星も輝きだす時間。
それでも運動部はまだ活動を続けてる。
グラウンドの方から声とか聞こえてくるし。
元気いいなぁ。
「おまっち〜」
「橘君、どうかしたの?」
「いえいえ、ただちょっと感傷的になったつもりでいただけです」
「おっ詩人だね〜」
「そ……そうすか?」
感傷的になると詩人なんだろうか?
俺にはよく分からない。
「じゃねミリィ、また明日」
「うん、バイバイ〜」
今日も元気よくミリィさんが手を振ってる。
ここから先は俺たち二人だけ。
最初は何も話さないでいたけれど、どちらからともなく手を繋いだあたりから会話が始まる……。
「なーんかさ、あんまり変わらないよね」
「え?」
「付き合う前と、今のあたし達。せめて呼び方が変わったくらいかな」
「ミリィさんは変わってないですけどね。俺が変わりました」
「恋人に、先輩も後輩もないからね。対等に付き合わないといけないと思うんだ」
「恋愛は分からないって言ってますけど、しっかりした意見を持ってるじゃないですか。ミリィさん」
「ん〜、意見って言うよりも、あたしの願望かなぁ。こうして欲しい、こうなって欲しいって言う」
それ、意見とも言うんですよ?
「基本的には前と変わらないけど……細かいところで、変化は起きてるよね。その…しちゃったし」
「……ですね」
「あたしとせーちゃんは、今繋いでる手とお互いの心以外に、身体でも繋がっているのです〜」
「うっ……は、恥ずかしくないんですか? ここ外なのに」
「誰も聞いてないから大丈夫でしょ」
「は、はぁ……」
「せーちゃんは恥ずかしい?」
「ま、まぁ一応は。誰が聞いてるかわかりませんからね」
「うぶだにゃ〜」
に、にゃ? にゃ〜って……ミリィさん…。
いや、そんな招き猫みたく手を丸めなくてもいいですから。
「うにゃーんと……。 ねーねーせーちゃん」
「な、なんですか?」
「腕組んでいいかにゃ?」
「えっ…う、腕?」
「うん。心・身体・手と来たら、次は腕じゃないかなって思って……ダメ〜?」
「そ、それは……俺としても是非お願いしたいというかなんと言うか……」
「やったっ。じゃ、組んじゃいまーす。えいっ」
ぎゅっ。
ミリィさんの細い柔らかな腕が俺の右腕にまきつく。
なんだか手を繋いでる以上に密着感が。
まだ半袖制服なものだから、お互いの肌が直接……少し恥ずかしいな。
俺ミリィさんの言うとおり初心かも…はぁ。
それにしても、突然こうして腕組むとはね。
……本当にこの人の行動は読めないなぁ。
でも、こういう事なら喜んで受けるけど。
「……ん? どしたのせーちゃん。あたしの方じっと見て」
「いえ、ミリィさん可愛いなと思いまして」
「わっ。せーちゃんお世辞上手くなったね。でも何もでないぞぅ」
「見返り欲しくて言ったわけじゃないですって……」
「…………でも、今日はこれが精一杯、かな」
ちゅっ。
「あっ……」
「えへへ〜。 じゃ、帰ろっか」
「…ですね。 帰りに駅前のパン屋でサンドイッチ奢りますよ」
「えっいいの? やったーっ」
俺のすぐ隣で、本当に嬉しそうな笑みを浮かべるミリィさんを見ていたら、たまにはこういうのも悪くないかと、そう思えた日であった。
ミリィさんと恋人同士になってまだ二日…。
まだまだ始まったばかりだ。
つ ぎ へ も ど る