・僕と彼女と・
〜だいろくわ〜
〜だいろくわ〜
そして、ここからはじまる物語――――
「では、返却は十日後ですのでよろしくお願いします」
ここは本屋……なワケがない。
だいたい本屋に返却なんてないし。
返品とか交換ならあるけど……おっとと。
改めて、ここは学校の図書室だ。
放課後の委員会としてのメインの仕事の一つ。
それが貸し出し図書の受付役だ。
「これ、返却お願いします」
「あっはーい。ありがとうございます」
隣ではミー先輩が笑顔で接客(?)してる。
今日の当番は俺と先輩。
あともう一人いたんだけれど、残念ながら学校そのものを欠席だそうで……。
まぁ一人減ったくらいでどうにかなるわけじゃないから、二人で仕事をしてるんだ。
今でさえそこそこの人入りだけど、これが完全下校時刻に近づくにつれて少なくなる。
だからいつも定時に鍵が閉められるわけだ。
残業? そんなのないない。
「今日も平和ですね」
「だね〜。これだから図書委員は楽なのだよ」
「それ、副委員長の言うセリフじゃないですよ?」
「気にしないで〜。あたしはまったく気にしてないから」
「さいですか……」
相変わらずまったりムード。
俺も同じか……。
時々やってくる人がいるものの、基本的に図書室利用者は少ない。
中には寝に来る奴だっているんだから……家で寝ればいいのにご苦労なこった。
特に忙しいまでもなく、放課後の時間はあっという間に過ぎていった。
ガラガラ……バタン。
出入り口のドアが閉まる。
ちなみに今のが最後のお客さん。いや生徒。
もう俺と先輩の他だ〜れもいない。
時間的に、これからやってくる人もまずいないだろう。
最終下校まであと30分ちょっと。
いつもとほとんど同じ感じだ。
さて……どうしたものかね。
「せーちゃん、ヒマ」
「俺もです」
「みんな最後まではいたくないんだね〜」
「家のほうがいいでしょうからね。そんなものかと」
「ねぇ、早く閉めちゃおうか?」
「……せめて15分くらい前にしませんか? もし今用があって来たいと思ってる生徒がいたら大変ですよ」
「むぅー……それを言われると閉めるに閉められない……はぁーヒマだ〜!」
カウンターにだらしなく倒れこむ。
そして足をバタバタを動かしてる。
これを見たらみんな何と言うだろう?
少なくとも、こんな先輩を知ってるのは俺くらいだろうなぁ。
桜城先輩の前でも同じことしてるかもしれないけど……。
カチコチカチコチ……
誰も生徒はやってこない。
廊下からの足音すらない。
もっとも、この辺で他にある部屋といえば図書準備室くらいか。
特に目的があってくるところじゃないし。
校内探検以外じゃまず来ることは無いだろう。
んー、もう誰も来ないかな……
「……せーちゃん」
「なんですか?」
「今度こそ閉めよう〜。もう誰も来ないって〜」
「…そうですね。そろそろ帰りましょうか……結局誰も来なかったことだし」
早めの戸締りもいつものことだし。
カウンターの上を片付けてから、出しっぱなしの椅子や汚れた机を直していく。
これを怠ると、明日問題になる。
前日の人掃除しっかりしてない! と。
今日のゴミは今日片付ける、だな。
………………。
……片付けるといえば、俺自身の問題にも言えることがある。
今日、蹴りをつけてしまおうか。
この前からずっと胸の中にあるもの。
俺の気持ちというか思いというか。
言うべきか。言わぬべきか……。
いや、言うべきだ、な……。
今をおいてこれ以上の瞬間はない。
逆にこれを逃せば、もう言えないかもしれない。
どうなるもこうなるも、結果次第――――
「先輩」
「ん〜? どったの」
片づけが終わって、さぁカウンターまで戻ろうとするときに、俺はミー先輩に声をかけた。
「何か見つけたの?」
「い、いや。そうじゃなくてですね……」
「?」
心臓ドキドキ。
身体が震えてくるのが分かる。
握った手に汗が滲んできた。
「どう、したの?」
先輩がやってきて、俺を覗き込んだ。
うわ、目の前に来ちゃったよ……。
どうする……どうする……。
「おーい、せーちゃ〜ん。黙ってちゃ分からないぞー。それともテレパシーすか? むむむ……」
目の前で先輩がころころ表情を変えていく。
ミー先輩って、本当に喜怒哀楽がハッキリしてるなぁ。
思ってることとか、そのまま顔に出るタイプだろう。
なんかそれを見てたら、急に落ち着きを取り戻した。
それどころか、心の中の自分はこれを見て笑っていた。
「せーちゃ〜んってば〜。ど〜う〜し〜た〜の〜?」
「……まだ、この間の風邪の影響とかあるかもしれないですね」
「え?」
「先輩……」
「あっ……!」
言葉よりも先に、手が動いた。
ぎゅっ…
「ちょっ……せー、ちゃん…?!」
両腕の中に納まる先輩。
どうしていいのか分からず、戸惑ってるようだ。
右手に持っていた鞄が、ドサッと床に落ちた。
「先輩……すいません」
「や……すいませんはいいけれど……一体、どうしたの」
「俺、もうミー先輩の後輩でいることに疲れちゃいました。いや、疲れたというより……嫌って言うんでしょうか……」
「え……あの、どういう事?」
「俺、ミー先輩……いや、ミリィさんのこと好きです」
「えっ!? せ、せーちゃん?!」
「先輩後輩じゃなくて、ミリィさんとして、一人の女の人として好きです」
「う、うぁ……せーちゃんが……凄いこと言ってる……」
「冗談なんかじゃありませんよ。遊びでもありません。本気です。本気じゃなかったら……今頃、こうして一緒の高校にきたり、何より抱きしめてなんか、いません」
「せーちゃん…………」
もし答えが拒否を示すものなら、すぐに手で押されて距離を開けられてしまうだろう。
そうなったら……もう元に戻ることは出来ない。
修復することも出来ない。
何より、もう話すことも……できないかもしれない。
でも、何もしないで流れていくより言葉にしたほうが自分にとっていい事だ。
自分に逃げないことって、決めてたから。
「…………………」
「…………………」
言葉が返ってこない。
シーンと静まり返ってる。
ただ判るのは、俺の心臓の鼓動と、俺の胸から伝わってくる先輩の鼓動だけ。
俺が先輩を抱きしめたまま、しばらく時間が過ぎていった……。
「………………」
「………………」
「……ねぇ、せーちゃん」
「は、はい…」
「あたし、前にも言ったよね。恋愛とかそういうの、よく分からないって……」
「え、えぇ……」
「付き合うとかそういうのも、正直分からないんだ……どうしていいのかさ。だから、過去に一回だけ他の男子に告白されたことあったけど、ゴメンって断っちゃった」
「そう、ですか……」
まさか、俺も………か?
「恋愛とかは分からない。もし失敗したら、ツライだけだもんね。そう思ってた」
「………………」
「でも、ね……」
そっと、先輩の腕が動いて、そして……
「あたし、せーちゃんとなら、いいなって……そう思ってました」
きゅっと、控えめに俺の背中に腕が回された。
「先輩……」
「本当に、あたしでいいの?」
「も、もちろんですよ。じゃなかったら告白…なんて……」
「実は遊びだった、とかだったら……今から本気で命奪っちゃうからね?」
「さっきも言ったとおり、遊びでもシャレでもありません。本気、です」
「他の人にも同じコト言っても、同じ結果になるからね?」
「しません」
「あたし、知ってるかもしれないけど結構我がままだよ? せーちゃんに迷惑とか掛けちゃうかもしれないよ?」
「掛けてください。今も、そしてこれからも。俺はそれも含めて、ミリィさんに伝えたんですから」
「せーちゃん……」
先輩がじっと俺のことを見つめる。
「じゃあ……あたしの唇、奪ってもいいよ……あたしも、せーちゃんの奪っちゃうから……」
「ミー先輩…」
「…違うよ。さっきも言ってたでしょ、ミリィさんって。そう呼んでくれないと怒っちゃうぞー」
「う…すいません。今までのが染み付いちゃってて。以後気をつけます……ミリィさん」
「ぅん…。頼んだぞ〜……正樹くん」
軽く先輩を抱き寄せて、どちらともなく目を閉じた。
そして……そっと触れる二人の唇。
それは俺の想いが叶ったということ。
ん、そういえば、今先輩……俺のこと名前で呼ばなかったか…?
まぁ……いいか。
これからもよろしくお願いします。せ………ミリィさん。
そんな意味も込めて、俺はぎゅっと抱きしめた。
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