僕と彼女と
〜だいごわ〜



思い立ったが吉日ってよく言うけれど……
なかなか上手くはいかないものかも。
こんな時に限って……

頭が痛い。
目が回る。
寒気、嘔吐感。その他その他。
なんでこんな状態になったんだろう。
たった一晩寝ただけで、見事に体調が崩れた。
正直言って、起き上がることすらためらいたい位だ。
でも、俺は起きないといけない。
そして連絡しないといけない。
何故なら……そう、何故なら、毎日自分の家の前で俺のことを待ってる人がいるから……
ミー先輩、が……

トゥルルルル……トゥルルルル……
呼び出し音が頭の中でぐるぐる回る。
本当ならメールでもいいかなって思ったけど、気が付いてもらえなかったら大変だから連絡に。
数回の呼び出しで、ミー先輩の元気のいい声が聞こえてきた。

『おーっす。どしたのせーちゃんこんな時間から。自転車でもパンクした?』
「……いや、そうじゃ……なくてですね」
『あれ、声が聞こえにくいな……もしもし?』
「すいません……用件だけ手短に言います」
『え、あーうん。どしたの?』
「風邪引きました。今日は、どうやら学校へは行けなそうです」
『えぇ〜っ。せーちゃん風邪引いちゃったの?!』

ミー先輩が驚いた感じそのままに大きな声を上げる。
いつもなら平気でいられるけど、今回ばっかりは厳しい。
あ、あたまが……シェイクされてるみたいだ……
思わず受話器を耳から放してしまった。

「まぁ、そういう訳ですので……」
『うー、そっか……せーちゃん風邪引いちゃったか。うん。分かったよ。じゃあお大事にね』
「……すいません」
『ううん。気にしないで。それじゃ』

ピッ

「………はぁ」

電話を置いて、再び布団に寝込む。
あー、俺ダメダメかも。
ミー先輩に心配掛けちゃダメじゃないか……
せっかく昨日いろいろ考えてて…………

「………………」

あ。
そう、か…。
そんなだから風邪引いたのか……
はぁ、半袖のまま風呂上りでベランダに出るんじゃなかった。
湯冷め、かなぁ。
……とにかく、家には俺のほか誰もいない。
大人しく寝てるか……寝てれば、昼には起きれるくらいにはなるかもしれない。
そういえば……家に薬はあったかなぁ……


どこかの部屋。
大き目の布団。
男の子が苦しそうに寝込んでる。
これは……
小さい頃の、俺?
じゃあこれは夢、か?
小さな俺が布団で大汗かいてうなされてる……
そういえば、小さい頃はよく熱を出してたなぁ……
今の自分も熱があるせいか、まるで伝わってきてるみたいだ。
廊下を歩く音が聞こえてくる。
きっとお袋が様子を見に来たんだろうな。
今思えば、迷惑掛けっぱなしだったかも。
部屋に入ってきたのはやっぱりお袋で、辛そうにしてる小さな俺に何かを話しかけてる。
夢だから、都合よく俺にも聞こえてきた。

『まったくもう……タオルくらい当ててないと……』

洗面器に張った水にタオルを浸して、ギュッと絞った。
そうだ、そういえばよくやってもらってたなぁ。

『…うなされてる……でも、まさかホントに誰もいないとはねぇ。来て正解だったかも』

誰もいないって……何を言ってるんだお袋は?
って言うか子供の看病を誰にやらせようと?
流石夢だ……俺もうなされつつ冷静な事言えてる。
そしてお袋がタオルを小さな額の上に載せて――――――

ピトッ

……冷たっ。


「…………んっ…」

頭部に刺激を感じて、意識が戻ってくる。
ゆっくりと視界が広がってきた。
ぼやける中で、俺を覗き込んでる一つの人影を見つけた。
………誰? お袋…か?

「あーほら、起きちゃダメだよせーちゃん。タオルが落ちちゃう」
「…………え?」

視界が開けた時、俺は起きかけの姿勢のまま固まってしまった。
額にのせられたらしいタオルがずり落ちて、俺の片目を塞ぐ。
な、なんで……ここに……?
だって、今は……

「ほーらぁ。病人はキチンと寝てなさい」

両肩を掴まれて、再びベットに寝かされる。
ずり落ちたタオルも額にのせられ、めくれ上がった掛け布団も首元まで掛けられた。
されるがままになってた俺。
やっと口を開けた。

「なんで……ミー先輩が、ここに?」
「ん? 見ての通りほら、お見舞い〜いや、看病かな」
「学校は……?」
「途中で抜け出してきちゃった。もうすぐお昼の時間だから……学校の時間で言うと4時間目が始まった頃かな」

確かに、ミー先輩は学校の制服を着たままだ。
みれば、ドア横の壁には俺の鞄と一緒に先輩の鞄も立て掛けられてた。

「先輩……俺と一緒で、無遅刻・無欠席・無早退を狙ってたんじゃ……?」
「あーうん。でも今じゃ、無遅刻・無欠席“無断”早退、かな? あはは」

なんてこともなく言うミー先輩。
気にしてる度ゼロパーセントに違いなかった。

「そんな事より、どう具合の方は?」
「……まぁ、良くはないですね。寒気とかも多少しますし」
「じゃあ寝てないと。あたしの事は気にしないでいいから。ね」
「は、はぁ……」

そうは言われても……

「今日はせーちゃん自分の意思で動くの禁止」
「えー」
「文句ダメ〜。ちゃんとあたしの許可を取ってね。病人は大人しく寝てるのが一番なんだぞ〜」

お昼はあたしが作るからねっ、と言って先輩は部屋を出て行った。
途端に静けさを取り戻す俺の部屋。
うーん、先輩が居るのといないのとじゃ全然違ってくるな……

「……ふぅ」

まぁ、正直なところ辛いことに変わりはないので…
先輩の言うとおり、しっかり寝ることを貫きますかな……



…すこぉしだけ話を戻して…



『……すいません』
「ううん。気にしないで。それじゃ」

ピッ

電話を机に置いて、ふぅと一息。
なぁんだ、せーちゃん風邪引いちゃったのかぁ。
じゃあ今日は一人で登校か。
あ、それじゃ自転車乗っていけない。
うわぁ……大変になりそう。
仕方がない……自分で自転車漕いでいこ。

……と思って外に出てみたら……

「あれぇ〜?」

自転車がない。
なんで、どうして?
盗られた? うそぉ。
慌てて今度はお母さんに電話。
そしたら…

「えぇ、お母さんが自転車乗ってったの!?」

聞けば、今日はお父さんと一緒に出なかったみたい。
だから今日は……徒歩……?
なんでこんな時に限ってーっ!
はぁ……

「せーちゃん、ちょっとだけ恨んじゃいそうだよ」

駅までの道。
いつもなら自転車ですぃ〜っと行けるこの道も、歩いてみれば意外と長い。
しかも話し相手なんていないからずっと黙ったまま。
なんか、つまらない事この上ない。
せーちゃんはよく景色見ながら歩くのは楽しいって言ってたけど、あたしはそうは思えないなぁ。
あー、足が痛くてもステップの上がいい。
そう思ったとき、二人乗りした自転車が追い越していった。
男の子が自転車を漕いで、後ろに女の子が乗ってる。
ちょうどいつものあたし達みたいな感じ。
あっという間に坂を上っていって、そして見えなくなった。

「はぁ……」

ほ〜んとに、面白くない。
…そう言えば、一人で登校なんて一体どれくらいぶりだろうな〜。
なんか去年までは当たり前だったのに、久しぶりにするととんでもなく暇。
それだけせーちゃんと一緒にいたってコトかねぇ?
やっとこ駅についても、一人なのは相変わらずで。
知らない人に囲まれながら、一人で電車に揺られてガタンゴトン。
もーね、結局のところ学校に着くまでが長かったこと長かったこと。
あたしの“つまんないゲージ”がマックスをはるかに上回ってたよ。
その所為か、授業が始まっても全然集中できなくて……
先生の言葉が、右から左に流れていくって感じ。
頭になんか残ってやしない。
机に片肘ついたまま、ボーっと外の景色を見てる。

「(せーちゃん今頃何してるかな〜)」

カツカツ…カツカツ……

遠くの方で、黒板を走るチョークの音が聞こえてくる。

「(熱出てるのかな。うなされちゃったりしてるのかな〜)」

さっきからこんな事の繰り返し。
もちろん、周りの声も全然気にしてないわけで……

「おーいミリィ。ミリィってば」
「………………」
「ちょっと〜。ミリィってばっ」
「えっ……あ、美里…」

気がつけば、あたしの前には美里が立ってた。
あれ、授業もう終わってたんだ……

「どうしたの? 今日はやけに元気がないね」
「う〜ん…そかもね。だってねぇ」

――理由説明中…――

「ふぅ〜ん。橘君休みなんだ」
「暇すぎて死にそう」
「ミリィ、すっかり橘君気に入っちゃってるね」
「だってせーちゃんで遊ぶと面白いじゃん。反応良いし」
「それはちょっと彼に失礼なんじゃ……。あ、だったらお見舞いにでも行ったらどうかな?」
「え?」
「橘君喜ぶんじゃない? そしたらきっと…………あれ?」

ガタッと席を立つ。
美里が不思議そうにあたしをみた。

「ど、どうした…の?」
「帰る」
「えぇっ?」
「と言うか、せーちゃんトコ行って来る」
「行って来るって……今から?」
「うん」

パパパッと机に入れた教科書類を鞄にしまって、あっと言う間に帰る準備を整えた。

「で、でも今はまだ学校が……」
「先生には上手く言っといて、それじゃ!」
「あ、ちょっと! ミリィ」

困惑状態の美里を残したまま、あたしは急ぎ足で教室を後にした。
靴を履き替えて、学校を出て坂を下っていって……
自分でも信じられないくらいの速さで駅まで着いた。
丁度よく入ってきた電車に飛び乗って、いつもの駅まで揺られてく。
ここまでの行動力、我ながらすごいね。
時間的に学校の制服着たあたしが乗ってるのは少し目立つけど……ま、気にしない。
そしていつもの駅に到着。改札をくぐって、また徒歩で家まで向かう。
朝と違って、足取りも軽く感じる。
そりゃせーちゃんで遊べる…………あいや、お見舞いに行くんだからね。うんうん。
いろいろと世話を焼いてあげようって、ね。
なんかよく分からないけど、せーちゃんにだったらこういう事しても嫌にならないんだよね〜。
他の人だったらメンドクサくてやらなそうだし。
んー、なんでだろうね。……ま、いっか。
さてさて、それじゃあ制服のままってのもアレだし一旦帰ろうかな?
でももし家にお母さんとか居たら大変だしなぁ。
このまま行っちゃおうか。
だったらついでにお買い物も……
せーちゃんのコトだからお昼食べてなさそうだしね。
風邪って言ったら、やっぱお粥かなぁ?
あれこれ悩んで考えてるうちに、気がつけば片手に袋一杯の荷物を持った状態でせーちゃん家の前にいた。
ドアノブに手をかける。
当然ながら鍵が掛かってた。
でも、ミリィさんはこのくらいじゃあ挫けませんっ。
せーちゃん家の合鍵の隠し場所くらいお見通しなのです!
くるりと回れ右して、郵便受けに手を伸ばす。
葉書やチラシなどと一緒に、一つ金属製っぽい硬いものが指に当たった。
うん。ビンゴ。
目的の合鍵を取って、今度こそドアを開けた。

「……お邪魔しま〜す……?」

静かな家の中。
誰かいるようには見えない。
買ってきた荷物を居間のテーブルの置いてから、音を立てないように静かに廊下を歩いていく。
せーちゃんはきっと二階の自分の部屋だろう。
トントンと階段を上って、上りきったところのすぐ左側にあるドアに目を向けた。
“正樹”と書かれた木製のプレートがぶら下がってる。
運がいい事に、ドアが閉まりきってなかった。
うんうん。せーちゃんポイント高いよぉ。
ノブを捻ることなくそっとドアを開けて、部屋へと侵入。
目的の人物は額に汗を浮かべながらベットで眠っていた。
もしかしたら気がついちゃうかもしれないけど、汗で張り付いた前髪を掃って、額に手をのせてみた。

「(熱、結構あるな……)」

こんなにあるのにただ寝てるだけなんて……
熱があるときは冷やさないと。
こういう時は濡れタオルの出番。
あたしはすっと立ち上がって部屋を出ると、一階の洗面所へと歩いていった。

他人の家なのにどうしてこんなにテキパキ動けるかって?
そりゃあもちろん、勝手知ったるせーちゃん家、だもん。
伊達に何年も遊びに来てないよ。
……まぁ、そんな頻繁には来てないけど、ね?
そんな、恋人とかそんなんじゃないんだから〜。
あははは……………とと、そんな事言ってる場合じゃなかった。
タオルタオルっと。
洗面所に入って、棚から小さめのタオルと桶を一つ取り出す。
そして桶に水を溜めて、タオルを浸して準備完了。
後はこれをせーちゃんの額にのせれば……
って事で、再びせーちゃんの部屋に戻った。

「まったくもう……タオルくらい当ててないと……」

そんな言葉を呟きながら桶に浸したタオルをギュッと絞る。
せーちゃんは辛いのか、時々苦しそうに声を漏らす。

「…うなされてる……でも、まさかホントに誰もいないとはねぇ。来て正解だったかも」

お母さんとかには連絡してないのかな。
これは美里の言うとおりだったね。
お見舞い……と言うよりは、看病しに来てまさに正解だったよ。
絞ったタオルを折りたたんで、そっと額にのせた。
その時せーちゃんの眉根がピクッと動いて……
半分くらい開いた瞳が、あたしを捉えた。
せーちゃん起きちゃった……
でもまぁ、起き上がっちゃ困るよね。
半ば起きかけたせーちゃんを。両手で肩を押さえて静止した。

「あーほら、起きちゃダメだよせーちゃん。タオルが落ちちゃう」



…そして元に戻る…



「で、どうかね? 良くなった?」
「……先輩。それさっきも言いました」

お昼にと作ってくれたおかゆを食べて、薬を飲み終えてから俺はまた布団の中。
ミー先輩は傍らで椅子に座ってこっちを見てる。
んー、薬飲んだとはいえすぐには効かないからな……

「どうしてこんな時期に風邪引いちゃったのかね? この間出掛けた時はピンピンしてたのに」
「まぁ……人間引く時は引くものです」
「あたしもうつっちゃうかな?」
「…ここにいる段階で既に王手では?」

俺としては先輩に風邪をうつしたくない。
だからどちらかと言えば帰ってもらったほうが幸せだ。
でも、先輩は俺の意図を読もうとしないというか、逆にまったくのマイペースぶりを発揮した。

「そだね〜。そしたら今度はせーちゃんに看病してもらおっかな?」

ニコッと笑顔でそんな事をのたまってくれました…。
頬が熱くなるのを感じる……
まぁ元から赤いだろうからバレやしないと思うが……

「あ、せーちゃん顔赤くなってる。ハズかしかった?」
「…そ、そんな事は……」

……しっかりとバレてました……

「ん? ひょっとしてせーちゃん……あたしを看病するとか言って、いろんなトコ触ろうと考えてたな〜?」
「え、えぇっ?」
「風邪引いて動けないあたしをせーちゃんが…………て?」
「そ、そんなこ……ごほっげほっ!」

偶然喉が詰まって咳が出た。
でも先輩は、自分がからかいすぎてやってしまったのだと思ったんだろう。
いきなり表情が変わって俺の元へ来た。

「だ、大丈夫?!」
「ごほっごほっ……だ、だいじょぶ……す」
「ごめん……調子にのりすぎた」

さっきの勢いなんてこれっぽっちも残ってないくらいに、しゅんとうな垂れる。

「大丈夫ですよ……ただちょっと、詰まっただけです」
「でも、やっぱりせーちゃん風邪引いてるんだもんね。ついいつもの感じで話しちゃった……気をつけます」
「まぁまぁ……」

そしてしばらく静かになる。
カッチコッチと聞こえる時計の音。
なんだか、ミー先輩が来るまでは静かな方が良かったのに、今じゃ静かだとどうも不安になる。
なんでだろうな。この気持ち。
そして、この沈黙を作ったのも先輩ならば、破ったのもまた先輩だった。

「ねぇ、せーちゃん……」
「なんですか?」
「今、まだ寒気とか残ってる?」
「そりゃ、まだ少しは……」
「そっか……」
「………………」

なんだろう?

「………………」
「じゃあ、さ……向こう側、向いてもらえる?」
「え?」
「向こう側。窓の方、向いてもらえる?」
「は、はぁ……」

先輩に言われるがまま、首を先輩とは反対側の窓側へ向けた。
体ごとだよ、と言われて、寝返りを打つように横向きになる。
ホント、なんだろう?
そう思ったときだった。
一瞬、背中がひんやりして布が擦れるような音が聞こえた。
そして……

「せ、先輩?!」
「………………」

柔らかな、そして落ち着くような温もりが背中全体に広がる。
腰には上と下から細い腕が巻きついていた。
これって、先輩が俺を抱きしめてる…?
どうしてこんな事に…。

「な、なな何で、こっこんな……」
「……熱」
「え…?」
「身体、熱い……まだ熱あるね」
「そ、そりゃまぁ……はい」
「汗びっしょり掻いちゃってる……シャツ、濡れてるよ」
「え、えぇ……そ、それより先輩。先輩こそこのままじゃ……」
「引いちゃったっていいよ」
「えっ?」

ミー先輩の、細くて小さな声がかろうじて聞こえた。

「引いちゃっても構わない。あたしの服が濡れちゃっても構わない。ただ、しばらくこうしていたいの……」
「ミー先輩……」

一つのベットの中で、俺は先輩に抱きしめられたまま。
俺の心臓はさっきから大きく打ちっぱなしだ。
熱とは違った熱さが体中を駆け回ってる。

「………………」
「………………」

そしてまた、無言の空間。
俺は一体どうしたらいいんだろう。

…結局、どうしたらいいかを考えてたのか考えてなかったのか。
ただ時間だけが流れていったのだった。
ずっと窓のほうを向いてたから、時間がわからない。
ほんの少しだけ空が青っぽくなくなってきたような気もする。
腰に巻かれたままの腕を気にしながら、そっと先輩のほうを向いて見た。

「すー……」

先輩は寝ていた。
こんなときでも、ミー先輩はミー先輩だなぁ。
そう思うと少しだけ笑えた。
おでこにうっすら汗をかきながら眠る先輩。
普段あんなに元気いっぱいでも、寝顔は穏やかだ。
ふと体を動かしてみると、巻かれていた腕がするりと解けた。
眠ったから力でも抜けたのかな……
先輩を起こさないように、そっと布団を抜け出す。
ん…、朝よりだいぶ体が軽い。
寒気もほとんどないし、頭が痛いのも気にならなくなってる。
薬が効いてるのか、それとも治って来てるのか。
この分なら、もう動いても特に問題ないだろう。
明日にはきっと治ってるはず。
ミー先輩のおかげ、かな。
それにしても……
学校があるのに、途中抜けてまで来てくれて。
ちょっと強引なところもあったけれど、しっかりと看病をしてくれて。
そして今は穏やかな寝息を立ててる。
本当に、マイペースというかなんと言うか。
振り回されることも多々あるけど、ぜんぜん嫌とは思わない。
一緒にいても、一度として飽きたと思ったことがない。
それどころか、一緒に楽しんでしまう自分がいた。
この人といると、とても安らぐような感じがした。
やっぱり俺、先輩のこと……

「……ん」

もぞっと布団が動いて、先輩の目がうっすらと開いた。
しばしそのままの後、ベットのそばに立ってる俺を見据える。
だから俺は、笑顔を作ってこう言った。

「おはようございます。先輩―――――」



「それじゃ、今日も元気にいこっか」
「ですね」

滑るように走り出す自転車。
いつもの様に、住宅街を走り抜けてく。

「これこれ。やっぱ二人乗りが一番だね。歩くなんてメンドクサイや」

俺の後ろで先輩がそんなことをのたまってくれた。
やっぱり、自分で漕ぐ気はないらしい。

「せーちゃん風邪治ってよかったよ〜。一人で歩くの詰まらないもん」
「俺は暇潰し要員ですか?」
「ん〜、秘密かな」
「あらら」
「まぁまぁ。やっぱりこういうのが一番ってコトだよ」
「左様ですか」
「うんっ。左様です」

グッと足に力を入れる。
二人乗りの自転車が坂を上り始めた。
この坂を越えれば、駅はもうすぐそばだ。

「そういえば先輩」
「なに?」
「あの後風邪引きませんでしたか? 場所が場所で、服も俺の汗でだいぶ濡れてたみたいですし」
「大丈夫大丈夫。あたしこう見えても頑丈だから。それに……」

と、ここで言葉を止めた。

「それに、いざとなったら今度はせーちゃんに頼むからね」
「…了解。そうなったら最大限頑張りますよ」
「ご飯はサンドイッチでお願いね」
「………………」

やっぱり、どんな時でもミー先輩はミー先輩だった。






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