・僕と彼女と・
〜だいよんわ〜
〜だいよんわ〜
知り合って、
仲良くなって、
一緒にいることが多かった。
だから、か――――――
新川ミリィ。
それが先輩のフルネーム。
名前はカタカナだけどハーフじゃない。
だけど、誰もが一度は気になったはず。
俺も例外なくその一人だった。
あれは彼女が俺のことを“せーちゃん”と呼ぶようになってまだ日が浅い頃…。
つまりは俺たちがまだ中学生の時のこと。
俺も“ミー先輩”と呼ぶようにはなったけど、気になることがあった。
それが……さっきの事だ。
「ミー先輩」
「は〜いなんでしょうせーちゃん」
「あー、その……ちょっと言いにくいことなんですけど、いいですか?」
「え、言いにくいこと? 愛の告白とか?」
「いやいやいや、そんなんじゃなくてですね!」
「冗談だよ〜」
「あわあわあわ」
「じゃあなんだろう? 身体の事とかは教えないとして……まぁとにかく、場所移動した方がいい?」
「いや、特に意味があることじゃないんですけどね」
「じゃああたしが屋上に行きたいって事で」
「は、はぁ……」
その日は委員会をサボってしまったわけだ。
普段は入っちゃいけない学校の屋上。
こっそり侵入するのが好きなんだそうな。
中学一年の、ある日の夕方のこと。
「さてさて、用件はなんざんしょ?」
「気を悪くしたらごめんなさい。あの、先輩って……ハーフなんですか?」
「は?」
「いや、名前が……外人っぽいから、ひょっとしたらって」
一瞬、先輩の目が見たことないくらい哀しそうな感じだったけど、すぐに戻ると笑顔で言った。
「あちゃー。やっぱりせーちゃんもそう思っちゃったか」
「ちがう……ですか?」
「残念ながら、あたしはれっきとした日本人ですっ。お父さんもお母さんも日本人」
「………………」
「みんな言うんだよね。外人なの? ハーフなの? って。でもね、あたしは違うから」
「先輩……」
「実はね、あたし自身も……この名前、好きじゃなかったんだ」
「え?」
自分の名前が、好きじゃない?
「だってさ、カタカナの名前だよ? 外国人ってワケじゃないのに。それでみんなに同じコトいわれるから……嫌になっちゃった時もあってね」
「………………」
「どうしてカタカナの名前つけたのって、怒ったこともあったんだ……」
目を閉じて、どこか懐かしそうな感じで話す先輩。
俺はただ黙って聞くことしかできないでいた。
「まぁ、あの頃はあたしも小学生だったからね。と言ってもつい3年位前の話。今では好きだよ。ミリィって名前。だって、他に埋もれない名前だもの」
「他に、埋もれない……?」
「うんっ。どこにでもあるような一般的な名前だったら、あたしもその中の一人だけど、ミリィは……このカタカナの名前は、全然ないからね。だからみんなの中に埋もれないでいれる。あたしだって、すぐに分かる名前だもの」
自分の胸に手を当てて言う。
先輩の表情に曇りはない。
きっと本当にそう思ってるから。
心からそう思っているから。
嫌いだった名前を、好きになれたから。
だからこうして笑顔で言えるんだろうな。
「……すいませんでした」
「えっ? なんで?」
「いや、そんな過去があったのに、俺……こんなこと聞いちゃって」
「だから、もう気にしてないから。ね? せーちゃんも知らなかったことだし」
「でも……」
「それに、怒るようなことなら今頃あたしはせーちゃんと険悪ムードだと思うけど〜?」
「は、はぁ」
「まぁそういうことだから。せーちゃんは何も気にしなくてオッケー。あ、でも……」
顎先に人差し指を当てて、考えるしぐさをする先輩。
やっぱり何か言われるんだろうか?
「どうしてもって言うのなら、サンドイッチで許してあげる」
「えっ? サンド……イッチ?」
「うん。あたしサンドイッチ大好きなんだ〜」
ニッコリ笑って言う先輩。
「せーちゃんがどうしてもって言うなら、謝る代わりにサンドイッチを買ってくれたら、許すどころか笑顔で喜んじゃうかも?」
「……じゃあ、先輩には思いっきり喜んでもらいますね」
「いいのっ? やったっサンドイッチだ〜!」
あの時の先輩、とても嬉しそうだった。
何故だか俺も、嬉しい気分だった。
そして月日は流れ……先輩が中学を卒業する時。
誰もいない図書室に、先輩はいた。
名残を惜しむかのように、全体を見回しながら…。
「あっ先輩、こんな所にいたんですか」
「せーちゃん……」
「先輩も卒業ですね。なんだか、あっという間です」
「そだね。あたしも、あっという間だったよ。三年間なんて、小学校に比べれば半分だもんね」
「どうもお世話になりました」
「いやいや、こちらこそ……お世話しました」
「あらら……」
そう言って目元を指で撫でる先輩。
やはりと言うか、その目は涙で潤んでいた。
「あーあたしももう高校生かぁ。ここともお別れだー」
「高校に入っても図書委員はやるんですか?」
「もちろん。本好きだからね。あれば絶対に続けたいよ」
「さすがですね」
「あたしが行く高校、図書室が結構広いんだ。だから楽しみ」
「へぇ、そうなんですか。それは俺としても興味ありですね」
「ならせーちゃんも同じトコ来る? 来年一緒に行けるよ」
「しかし、それだと先輩の後追っかけてるみたいですね」
「ストーカー」
「ぐっ……それを言われてしまうと……」
「冗談だけどね」
「せ、先輩……」
こんな時でも、ミー先輩はミー先輩らしい。
それが例え涙で潤んでいたとしても、だ。
「まぁせーちゃんでも問題ないと思うよ。だってそこまで偏差値高くないもん。数学と英語苦手なあたしでも入れたし」
「……俺も理数系は壊滅です」
「同じだね」
「ですね……」
お互い頑張ろうね、みたいな感じでポンと肩を叩かれた。
「じゃあ俺も同じトコ目指してみようかな」
「うん、おいでおいで〜。そしたらあたしが楽できるから」
「な、なんでですか?」
「せーちゃんの自転車の後ろに乗っていく」
「ま、またですか……いつも駅行く時乗ってるでしょう」
「それはそれ〜。これはこれ〜」
「まったくもぅ」
「あははははっ。…………さて、と。じゃあ、あたしはそろそろ行こうかな。これでも卒業生ですから。クラスのお友達とお別れ会があるのだよ〜」
「そうですね。じゃあ鍵閉めます」
「うん。せーちゃんもすっかり先輩だね」
「来月には俺も三年生ですから」
「うん。大きくなったなぁ」
ぎゅっ……
「えっ……せ、先輩!?」
「たまには連絡しろよぉ〜」
「わ、わわわ分かりました」
「……うん、よろしい。今のは最後のオマケなのだ!」
にはは、と先輩が笑顔で言う。
逆に俺は心臓バクバクの身体ガタガタの状態。
い、いきなり抱きしめられるから……。
最後まで先輩の行動が読めなかった。
「じゃ、いくね。せーちゃんも頑張れっ」
「は、はい」
「高校で待ってるからねー」
先輩達三年生が卒業して、その翌月には俺が三年生になって。
俺にも受験のシーズンがやってきて。
先輩と同じ高校に行こうと頑張る日々。
別に約束したわけでもない。
もしかしたら、試験で落ちるかもしれない。
それでも、俺は同じ高校へ行きたかった。
この時はそれに関して特に何も思ってなかったかもしれないけど……
休みの日には、ホントたまーにだけど先輩が家にやってきて勉強を教えてくれた。
でも、大体は勉強をする前に息抜きと言われて何処か引っ張りまわされたけど……。
見事一年後には今いる高校へ受かったわけだ。
そしてミー先輩がいる図書委員にも入った。
ミー先輩は副委員長。
それ聞いたときはビックリした。
そこまで忙しいってワケじゃなく、意外と普通にしていたり。
でもまぁ、また先輩と行動することになったのだ。
なんとなく、そこにいたい自分がいた。
憧れというか何と言うか……。
最初はそんなのだったのかもしれない。
でも、ある日考えてることが全部変わった。
キッカケは桜城先輩の一言。
そう、あの日…図書室での掲示物張り替えの時だ――――
『やっぱり二人はいいコンビだね。そのまま付き合っちゃえばいいのに〜』
あれから、妙に先輩のことを意識して見るようになった。
意識してなくても、自然と頭が考えてしまう。
何故自分は今でもここにいるのか。
何故同じ高校へ来たのか。
何故……自分は彼女と一緒にいたいんだろう。行動したがるんだろう。
楽しいから? そりゃ楽しい。
仲がいいから? まぁ数少ないマトモに話せる人ではある。
なんか違う気がする。
確かにそれもあるんだけど……
でも何かが違う。
もっと、根本的な部分が違う気がする。根本的な――――――
――好きだから――
すき、だから?
ミー先輩のこと、好きだから、か?
だから俺、中学の頃からずっと一緒にいたのか?
だから俺、高校に入っても隣にいるのか?
無茶苦茶なこと言われても、先輩だから、笑って返せるから――。
もし、先輩が別の男子といたら……
前はなんとも思わなかったかもしれないけど、今だと……きっと、嫌かもしれない。
いや、嫌だろう。
じゃあ、俺が隣にいたとして、これからも後輩として見られるのは……
それも……嫌だ。
確かにミー先輩と俺は先輩後輩って間柄。
だけど……だけど、いつまでも一歩後ろに居続けるんじゃなくて、同じ場所に。
ミー先輩と同じ場所に、同じ場所で、同じ場所から……歩んでいきたい。
俺は、俺は……
ミー先輩のことが、好き……好きだから――――
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