僕と彼女と
〜だいさんわ〜



何気ない週末を過ごす予定だった。

「じゃあせーちゃん、明日は10時にウチに着てね。それから、街に出よう!」
「…………は?」

先輩の意見って言うのは、毎度毎度突拍子もないのだ。
じゃあ……から繋がっていたのも存在しない。
さっきまで別な話をしてたのに、まったく関連のないことを普通に話しだす。
今回もそれだったのだ。

「せーちゃん、明日ヒマでしょ?」
「え? ……えぇまぁ何もありませんし暇と言われれば暇ですが……」
「じゃあ問題ないね。うん。せーちゃんの土曜日の予定はあたしが予約します」
「は、はぁ……」
「あれ? なんだかやる気なさそうだね」
「いや……なんか急に言われたものですから、まだ処理しきれてないモンで」
「別にムズかしい事じゃないってば〜」
「まぁ俺は先輩の家に向かってから街に……ひょっとして運転手役っすか?」
「うーんそれもあるけど、この間図書室の掲示物張替えを手伝ってもらったでしょ? そのお礼も兼ねようかなって」
「あーあの時の。別に気にしなくてもいいですよ。俺も同じ委員会なんですから」
「まぁまぁ。ここはあたしの顔を立てるって事で、ね?」
「了解しました」

まぁ、そんな訳で先輩と出かけることになったのだ。
……以上、回想終了。
俺がコレを思い起こしてる時にはすでに当日になってるのだ。
そして今、俺は朝から自転車を引っ張り出して空気を入れてる。
いつもなら休みは乗らないんだけどなぁ。
なんかこれ見てると休日出勤するみたいな気分だ。
一応、たまに手入れって事で空気入れたり油注したりしてるけど……
う〜む、それでいて更に先輩後ろに乗せるからなぁ。
やっぱり学校に通う気分に。
何せ電車に乗る部分まで同じとくれば……。
まぁ今日はいつもより更に先に行くんだけど。

「っし、自転車の空気入れ完了。後輪軸にガタは……きてないな。フレームもゆがんでないし。うむ、問題なしだ」

臨時車検完了。
それじゃそろそろ先輩の家へ向かうかね。
歩いて20分掛かるところも、これなら5分ちょいだ。
天気も穏やか。気温も秋らしく過ごしやすく、もうある意味でサイクリング日和だな。
っと、財布忘れるところだった。
取りに帰ろうとドアノブに手をかけたところで、ポケットに入ってた携帯電話が震えだした。

「ん〜、誰だろ」

ディスプレイを見てみれば、メール受信のアイコンが点滅してる。
見てみると……おやま、先輩ではないか。
なになに……

『ヒマだ〜。せーちゃん早くカモ〜ン!! ~\(TдT;)』

………………。
パタン。
無言で折りたたむ。
先輩…10時じゃないじゃないですか。
まだ9時半ッすよー。
どうやらすでに準備を終えたらしく、ヒマをもてあそんでるらしい。
足をバタつかせながら椅子か玄関に座ってるのが思い浮かぶ……。
まぁ、俺も準備できたことだし、財布取ってから向かいますか。

勢いよく…ってワケでもないけど、自転車は遊歩道をひた走る。
すれ違うは、お年寄りでも元気がいいランナーか、犬の散歩をしてる人くらい。
周りの音は風の音くらいしか入ってこない。
後はカンペキじゃないにしろイヤホンから流れてくる音楽で塞がってるし。
それでも、一曲聴けるか聞けないかくらいで先輩の家に着いちゃうんだけど。

「あーやっときた〜。おっそいぞぉせーちゃん!」

俺がすぐに来る事が分かってたのか、それともずっと外にいたのか、先輩は家の前で頬を膨らませていた。
いや……俺遅刻してないっすよ?

「まだ10時になってませんが……」
「こういう時は、10時の予定でも9時半ごろには着てないとダメなんだぞっ」
「そ、そんなもんですか…」
「まー今回はあたしが急かしたって事で許してあげるけど、次はダメだからね」
「り、了解です」
「じゃあ、今日のお昼ご飯はせーちゃん持ちね☆」
「……え? な、なんですか」
「遅刻したバツ〜」
「いや、今許すって……」
「それとこれとは話がべ・つ・も・ん・だ・い。せーちゃんには漏れなく、あたしにサンドイッチを奢っちゃう権をプレゼント〜♪」
「うそ〜ん」
「残念ながらこれは返品もクーリングオフも受け付けないので。あと、消費期限は今日までねっ」
「なんか腑に落ちない部分もありますが……そういう事にしておきます」
「やったっ! じゃぁじゃあ、早速行こうー」

いつもの1.5倍速(俺の中比べ)でステップを取り付けた先輩が、勢いよく後ろから飛び乗る。
その衝撃で先輩の胸がふにゃっと俺の背中に押し付けられた。
場所は違えど、この間の感触が蘇る。
しかも制服と違ってかなり生地が薄いから感触もより鮮明に……

「準備オッケ〜。せーちゃんごー」
「………………」
「……あれ?」
「…あっハイ。行きます」

一瞬フリーズしてたなんてのはヒミツです…。

さてさて、二人乗りに進化した自転車はいつも通りに、いつも通りの道を、これまたいつも通りに走っていく。
つまりはそれくらい何もないって事。
あえて言えば車道を走る車の数が多いことだろうか。
家族で出かけるとか、多いんだろう。

「そういえば、ミー先輩は家族で出かけるって事しないんですか?」
「えっウチ? うちは共働きだからねぇ。なかなか家族全員が揃うってことないなぁ」
「そう言えばそうでしたね。俺のところと一緒でした」
「だからこうしてせーちゃんと出かけてるんだけどね〜」
「一種のデートってやつですか?」
「うん、そうなるね」

…なんの迷いもなく普通に言い切る先輩。
反応ないから俺のほうが逆に動揺した。

「まぁあんまり気にしないで行こうよ。別に初めて一緒に行くってワケじゃないんだし」

確かに、ミー先輩と二人で出かけるのは今回が初めてってことじゃない。
初めては……もう中学の頃だ。
俺がミー先輩って呼ぶようになって、何かと行動を共にするようになってから。
ある日誘われた遊びに行くって話に……
思えば、それから出かけるときは必ず俺が先輩を後ろに乗せてる気がする。
お陰で最初こそ危なげだった二人乗りも、今じゃずいぶん上手くなったものだ。
相手のことを考えて走れるようになったんだからきっとそうだろう。

「先輩、自分で自転車乗ろうとは思わないんですか?」
「え、何を藪から棒に?」
「いやーちょっと過去を思い出してまして。先輩と別々の自転車で何処かへ行った記憶がないから…」
「だってせーちゃん乗れるし。あたしも当然乗れるけど、何より楽できるし〜。足が痛いのはしょうがないけどね」
「それがホンネですか」
「うん」
「まぁ俺も足の力とかつきましたし、嫌じゃなかったですけど……先輩が自転車乗れないんじゃないかって思ってましたよ」
「乗れます〜。でも楽したいだけなの〜」
「さいですか……」

ミー先輩、きっと車の免許とっても助手席に座り続けるタイプだ……。
そんな話をしながら駅へと向かって、久しぶりにお昼の時間帯に電車に乗った。
さすが休日ともなると電車は結構人がいる。
普段の朝ほどじゃないにせよ、まんべんなくと言った所か。
当然座れないので、ミー先輩と開かないドア側に寄りかかりながら話をしていた。
学校のこととか、授業のこととか委員会のこととか。
それからいつも降りる駅を通り過ぎて、大きな川に掛かる橋へと通りかかった。
ここを越えれば急に景色は変わる。
郊外住宅的だった風景が、都会的な模様へと変わっていく。
大きめのビルとか、おっきな商業施設が軒を連ねる商業都市といったところか。
都会といえば都会だな。
駅前には結構高いマンションも建ってるし。
やがて電車は目的地の駅へと到着する。
おっきな駅だけあって降りる人もたくさんだ。

「あー久しぶりに来たなぁ。やっぱり賑やかだ」
「先輩、どこに行くんですか?」
「えっとね〜、まずはショッピングモールかな。買い物があるのだ。それからご飯ね」
「りょうかいっす」
「じゃあ、れっつご〜!」

ごくごく自然な流れだった。
先輩が俺の腕に自分の腕を絡めたのは。
一瞬ドキッとしてしまった…。
きっと俺の顔は今少しだけ赤いだろうな。
ま、いいかぁ。

「おっよさげな服発見!」

先輩がとある店の前で足を止めた。

「ん〜この色のシャツって一枚しかないんだよなぁ。それにこれだったら今来てるのと色も合いそうだし……せーちゃん、どう思う?」

自分の着てる服に重ね合わせるようにして、俺に見せた。
白い無地のシャツに、今日はいてるチェックのスカート。
俺がどうこう言えるのじゃないけど、似合ってると思う。

「まぁいいんじゃないですか」
「でしょっ? じゃあこれ買っちゃおうかな〜。あ、よく見るとこれこのスカートとの色合いいいなぁ」

また次のターゲットを見つけたらしい。
先輩が店の中へと入っていった。
結局ここではさっきのシャツとスカートを購入。
もちろんお金は先輩だ。
俺が払ってどうする……
でもその荷物はしっかりと俺が持ってるのだが。

「ん〜久しぶりにいいもの見つけちゃったなぁ。しかも割り引きやってたから助かっちゃった♪」
「先輩、嬉しそうですね」
「もちろんだよ。いぇ〜いっ」

ぶいっとブイサイン。
もちろんもう片方の腕は俺の腕に巻きついている。
何と言いますか……これって、完全にデートモードじゃあないですかな?
無意識のうちにこれを考えてしまう俺がここに……。
それにね、腕を組んでるわけだから、そこから伝わってくる服越しの柔らかめな感触が……
秋とはいえ、まだ服も厚手にならないからね……うん。
……俺、バカッすな。

「さて次は……っと。あ、イヒヒヒ」

急に先輩が変な笑い声を上げた。
な、何か嫌な予感が。

「せーちゃんせーちゃん」
「な、なんでしょう?」
「もう一つ買わなきゃいけないモノを思い出したんだけど、付いて来てもらえる?」
「え、えぇ…いいですよ」

思えば、これが悪魔との契約とはね……

「言ったね。せーちゃんうんって言ったね!」
「え、えぇ?」
「じゃあじゃあ、行こう〜」

ぐいっと先輩が腕を引いて、お店に入っていこうとする。
この店は……色鮮やかな、なんか服にしては面積が小さい水着っぽいようなモノがたくさん……って、はぁ!?
いやいやいや、この店ってば!

「す、すとーっぷ!」
「ん、どしたの?」
「いくらなんでもここはムリです。ってか嫌です」
「えー、せーちゃん付いて来てくれるって言ったじゃん〜」

嘘つきーっと言いたそうに頬を膨らませる。
でも何故かその目は笑ってる……
わざとだ。先輩わざと誘ったんだ〜っ!

「それとこれとは話が別ですよ。な、何で俺までこんな……し、下着売り場に!」
「だってぇ、新しいブラとかが欲しかったんだもん〜。最近キツク感じてきて……」
「と、とにかく俺はムリです。激しく勘弁してください」
「むうぅ〜。まぁ、せーちゃんがそこまで嫌がるなら、あたしとしても本意じゃないし」
「俺はここで待ってます」
「うん。じゃあちょっと見てくる〜」

巻きつけていた腕を解いて、一人お店に入ろうとする。
と、急に引き返してきた。

「買ってきたら……見る?」
「見ません!」

今日のミー先輩はエンジン全開、だな…………


「む、お腹が食べ物を要求してきた。せーちゃん、お昼ご飯にしよう」
「先輩……すっごく極端ですよ。今さっきまで……」
「まーまぁ。気にしないで。時間も頃合だから、ねっ」
「はぁ……それじゃ、どこ行きましょう? あんまり高いのは予算的に厳しいものがありますので手ごろにお願いします」
「まっかしといて! この間雑誌で見つけたお店があるんだ。そこに行きたい」
「お任せします……」
「じゃ、れっつご〜」

……そして先輩に案内されたお店。
オープンカフェみたいな、そんな感じ。
しかもやっぱり売ってるものは……。

「やっぱりサンドイッチですか……」
「だってあたし大好きだもん〜」
「まぁ朝にも言ってましたからねぇ」
「あたしは、ハムレタスサンドとタマゴサンドでいいからねっ」
「イカの塩辛なんてどうですか?」
「ハムレタスサンドとタマゴサンドでいいからねっ」

にっこり。
あぁ、その笑顔が逆に怖い……。

「……飲み物はどうします?」
「アイスティーね♪」
「了解です……」

そんなに嫌いなんだ…。


「―――おまたせです」
「おぅ、くるしゅうない。ちこうよれぇ」
「先輩、キャラが変わってます」
「バレた?」
「………………」

オープンテラス。
お日様の下で食べる昼ごはんって言うのもまたいいものだ。
これがご飯とか味噌汁だったらちょっとアレかもしれないけど、サンドイッチとかなら気分も乗るだろう。
先輩も、きっと好物を食べてるからだろうけど嬉しそうに頬張っている。
まさに頬っぺた落っこちたって感じに。

「先輩」
「ふが?」
「……いや、それ食べてからでいいです」
「む……むぐむぐ……んっ、で?」
「いや、幸せそうに食べてるなぁって思いましてね」
「そりゃあもう。サンドイッチ大好きだからねっ」

好きなものを食べてる時ほど、先輩の笑顔に勝るものはないだろう。
何と言うか、表情に出やすいのかな。
好きとキライじゃかなり変わるし。
俺としても、判りやすいと言えばわかりやすい。
今だって、こんなに嬉しそうに食べてるんだから。

「先輩、俺のも一ついりますか?」
「え? いいの」
「なんだかミー先輩の顔見てたらあまりに幸せそうだったので、それでお腹いっぱいになりました」

ポッと、先輩の頬に赤みが生まれる。

「こ、こらぁ。そういう事は心の中で言うものだぞっ。恥ずかしいなぁ」
「すいません。 でも、言わないと伝わりませんからね。それぞれの思ってることは」
「せ、せーちゃん……なんだか詩人っぽいね」
「いやいや」
「ふぅ〜ん……思ってること、ね」
「先輩…?」
「ううん。なーんでもない」
「はあ……で、どうしますか? 食べます?」
「もちろん、あたしの答えは一つだよ!」

やっぱり、サンドイッチ食べてる時の先輩が一番輝いてるな。
そう確信できた瞬間だった。






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