僕と彼女と
〜だいいちわ〜



先生の号令で、とたんに賑やかになる教室内。
長かった授業から開放された瞬間だ。
今日のお勤めもこれで終了。後は部活もやってないし帰るだけ……なんだけど、俺にはまだ仕事が残ってる。
今朝、ミー先輩に頼まれたあれだ。
図書室結構広いからなぁ。
掲示物張り替えとはいえ、人数が少ないと時間がかかるし。
いったいどれだけ集まるやら?
とにかく、図書室へ向かってみるか。
階段を一つ上って、特別教室棟との間くらいに位置する図書室。
用がある以外は人の通りがほとんどないから、ここまで来ると静かなもの。
その上図書室も真っ暗だし……って、真っ暗ですと?
まだ誰も来てないのか?
試しにドアを開けようとしてもやっぱ開かないし。
まいったなこれ。
鍵を持ってるのは委員会では委員長の他に、副委員長のミー先輩だけだしなぁ。
先輩のところに行ってみるか。
あんまり荷物の入ってない鞄を立てかけて、俺は先輩のいる教室へと足を向けた。
途中で行き会うかなって思ったけど、全然そんなことなく教室までついてしまった。
う〜ん、何度か来てるとはいえやっぱ上級生のクラスに入るのは勇気いるよな。
一息ついて、ガラガラとドアを開けると、ちょうど前で話をしていた人たちのうちの一人に話しかけた。

「あのーすいません」
「うん、なに?」
「ミーせんぱ……あいや、新川先輩いますか?」
「えっミリィ? ちょっと待ってね……おーいミリィ、お客さんだよ〜」

教室の奥から手を降りながらから、はいはーぃと返事が聞こえてきた。
やっぱりミー先輩まだ教室にいたのか。

「はいはい、どうしたの〜…って、ありゃ、せーちゃん。どうしたの?」
「いや、図書室行っても鍵開いてなかったものですから。ミー先輩まだ教室かなって」
「ゴメンね。今準備しちゃうからちょっと待っててね〜!」

パタパタと駆けて行く。
待ってようかと立ってると、今しがた話しかけた先輩が声をかけてきた。

「ねぇキミ、ミリィとはどういう関係なの?」
「はぃ?」
「ミリィは彼氏いないって言ってるけど、ひょっとしてキミが実は彼氏君とか? ミリィが男子のこと親しげに呼ぶなんて初めて見たし」
「いや、俺はただの後輩っす」
「ホント?」
「嘘言ってどうするんですか……」
「いやまぁそうなんだけど……うむむ」

腕組んで考えることじゃないでしょう……?
にしても、ミー先輩って……

「おまったせ〜。それじゃ行こうか……あれ、どうしたの?」

唸ってる先輩と、苦笑気味の俺を見て、当然というか頭に“?”マークが浮かんでる。
あなたの事で考え込んじゃってるんですよ。ミー先輩。

「まぁいいか。さ、せーちゃん行こう。時間がもったいない」
「え、いいんですか放っておいて」
「この子考え始めると長くなるからね。日が暮れちゃうよ」
「は、はぁ……」
「れっつごー」

ミー先輩に背中を押されながら教室を後にして、また図書室へと歩いていく。
このとき、ミー先輩と一緒に来たのは同じく図書委員の桜城先輩。
もう何度となく話してるからすっかり顔なじみ。そりゃそうだ。同じ委員だし。

「今日は何人でやるんですか?」
「この三人だよ」
「え? これだけっすか!?」
「そう。本来なら六人くらいいたんだけどねぇ。偶然って恐ろしいよ」
「いや、そんなのんきな事言ってる場合っすか桜城先輩」

相変わらずどこか抜けてるというか、のほほんとしてると言うか……
三人だけで全部やるってなると、結構時間かかりそうだなぁ。

「まぁ頑張ろうよ。せーちゃん」
「…そう、ですね」

ガチャリとドアの鍵を開けて、いつも見慣れた図書室へと入る。
特有の紙の匂いがなんとも。
そして、カウンター付近とか、壁に貼ってある多数の掲示物。
中には天井からぶら下がってるのまである。
これを張り替えるのが今日の仕事だ。

「さぁ、やりますか!」

ミー先輩が袖をまくって気合を入れた。
外気に触れた先輩の二の腕は、白くて細かった。
う〜ん、キメ細かそうな肌だなぁ……
同じく袖をまくった桜城先輩も……
二人の柔肌につい目が行ってしまうのは性である。
うむ、これも眼福かな。

「あれ、どうしたのせーちゃん。ボーっとしちゃって」
「あぁ、いや。ちょっと見とれてただけです」
「見とれてた?」
「まぁなんでもです。じゃあ始めましょうか」
「それじゃあ、背が高いからせーちゃん先に上にあるやつから取ってもらえる? あたし脚立抑えてるから」
「了解しました〜」

天井からぶら下がってるポスターを一つずつ取っていく。
さすがにこれから秋も本番になろうってのに春や夏のポスターはあわないだろうし。
お、これなんてまだ桜載ってるよ。
合わない事この上ない。
ってかずっと放置してたんだろうか……?
ぶら下がってる古いポスターを何枚かまとめて取って、下で脚立を抑えてるミー先輩に手渡していって、まずは外すのは終了。
次はまた新しいのを付けないといけない。
カウンターの横にあったダンボールから吊り下げ用と書かれたケースを取り出して、中に入ってるポスターを天井のフックへと固定してく。

「せーちゃん、ちょっと右に傾いてないかな?」
「そうですか? じゃあもう少し右側を上げてみます」
「うん……オッケー。じゃあ次ね」
「はい」
「足とか疲れない? 途中で代わろうか?」
「いえ、まだ大丈夫ですよ。それに先輩と入れ替わると……」
「ん?」
「俺からミー先輩のスカートの中が丸見えになりますが」
「あっ……もう、せーちゃんえっちなんだから」

下を見れば先輩が頬を膨らませてる。
でも怒ってる様子はない。
まぁ、こういう会話も年中だから。
俺は助兵衛かもな……普通こんな会話女子とできないし。

「でも、もし代わるときは言ってね。その時はせーちゃんに目隠ししてもらうからねっ」
「め、目隠しですか……」
「冗談だけどね」

クスクスッと笑う声。
見れば、隣で壁の掲示物を張り替えてる桜城先輩も笑ってる。

「桜城先輩も笑うことないでしょうに〜」
「いやいや、ミリィと橘君って仲イイなってね。とても先輩後輩の間柄とは思えないよ」
「まぁ、中学校からの付き合いですからね」
「そうだね。もうかれこれ三年かな」
「私もそんな後輩が欲しいよ」
「えー、でもせーちゃんってば結構エロガッパな部分もあるよぉ?」
「せ、先輩……そら酷いッす」
「あはははっ。やっぱり二人はいいコンビだね。そのまま付き合っちゃえばいいのに〜」
「ん〜、あたしそう言うのよく分からないからなぁ」
「俺もッす」

いつもいつも一緒に学校来てたりしてるけど、そういう考えとかって思ったことないなぁ。
……付き合う、ねぇ。
俺とミー先輩が……
ん〜……

「――ちゃん。せーちゃんってば〜」
「……えっ。あ、ハイ」
「どしたの? ボーっとしちゃって」
「い、いえっ。なんでもないです」
「そう? はい、これ次のやつ」

先輩からポスターを受け取って、またそれを付けていく。
その後も、俺の頭の中でさっきの事がずっと回ってた。
ミー先輩、かぁ。






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