26...... 迷走



始まりがあれば終わりがある。
これが自然の摂理であり、永遠なんてない。
日常生活においても例外ではなく、誰にでもそれはやってくる。
世の中終わりよければ全て良しなんて言葉もあるが……。
果たして俊介たちの場合は――――



「ん? なんだこれ」

朝、学校の昇降口にて俊介が見つけた一通の手紙。
最後まで尾を引くキッカケとなるその手紙を俊介は手に取った。
周りにいた面々も、何事かと顔を寄せてくる。

「手紙、ですね」
「ああ。手紙だな」
「らぶれたー?」
「さぁ?」
「し、俊介君……」
「いや、心当たりとかないから」
「興味ないねぇ」
「他人事だと思って」

今の会話だけで誰だか特定できてしまう辺りがなんとも。
わかりやすい反応とも言うがそれはさておき。
あすかと梢は興味津々に見てるし、梨乃はとても心配そうに見つめてて、茜はクールに受け流している。
方や当事者俊介はどうしたらいいものかと周りと手紙を交互に見ていた。
ほんのり花のような香りのする綺麗な模様の封筒に入っている所を見ると、まずラブレターの類で間違いないだろう。
実は俊介、こんな経験一度もない。小学校とか中学校とかで意外とあったりしそうだけど、ない。
こういう時はどうするべきか? 喜ぶべき? 恥ずかしがるべき? それとも……?

ちらりと梨乃の表情が目に入る。
俊介の持ってる手紙をじっと見つめたまま動かない。
ハッキリそれとわかるくらいに動揺してる。

「心配すんなって。誰ともわからない人から貰っても逆に困るだけだから」

言ってすぐにはたと気付く。
梨乃の頭に伸びる手。
…あれ、俺なんで……?

「……先、行くよ」

んんっ! と言う咳払い。
鞄を肩に担ぐようにして茜が先を行く。
梨乃といい茜といい、この前の事があるからこその反応だろうけど、まあなんと言うか…対称的?
二人の性格がモロに現れる瞬間とでも言うのだろうか。
ともあれ、ひとりズンズンと前を行く茜を追うようにして残りも歩き始めた。
頭を撫でられた梨乃も今は俊介のすぐ後ろを歩いてる。
彼の手には未だに例の手紙が握られたまま……

……あれ、誰が入れたんだろう……?

梨乃の心の中に、言いようのない不安が広がっていった。



―――― 突然こんな手紙をお送りした事をお許しください。
言葉で伝えることが出来ない臆病な性格ゆえ、こうしてお手紙で伝えます。
私は初めて貴方を見かけたときから
――――



授業中。一部を除いて集中して教師の言うことに耳を傾けているその時。
俊介はそっと手紙を開いて中を見ていた。
“初めてみた時から気になっていた。どうしても伝えたいけど恥ずかしいから手紙で伝えた。”などと書かれてある。
女の子らしい小さくて丸っこい字で書かれているそれは、まさにラブレターであった。
ただ一つだけ。普通は判らないけど、自分だったらきっと入れるだろう単語が入ってないことを除いては。
百歩譲って、名前がないのはいいとしよう。直接言葉で伝えるときにでも言えばいい。
しかしそのラブレターには『好き』という単語が入っていなかった。
『気になる』とは書いてあっても『好きだ』と書いてないのだ。
単に恥ずかしくて書けなかったんだろうとか、気になるを好きに掛けてるんだろうと解釈すれば問題はないのかもしれない。
それよりなにより……。



―――― 金曜日の放課後、校舎裏の倉庫の前で待っています。 ――――



文章の最後に書かれたその一文。
……金曜日?
ちなみに今日は火曜日で、まだ三日も先の話。
伝えたいのなら今日の放課後にすればいい。
だけどそうじゃなかった。何か意図があるのだろうか?

「(まぁ、どっちにしろ行くしかないよなぁ……)」

こうして貰った以上、返事はしなくてはならない。
俊介の性格からして無視を通すなんて事は出来なかった。

「(この人には悪いけど……ここは断るべきだよなあ?)」

自問自答に疑問で答える俊介。
名前もわからぬ相手にOKなんて出せないし、どんな人かもわからない。
まずは会ってみてからとか考えるけど、それも何か違う気がする。
はぁ…。何処からともなく漏れるため息。
いやはや、ラブレターをもらっておいてため息とは何ともゼイタクな話だ。
他の男子が聞いたらなんと言うだろう。

「(金曜か。長いな)」

さっきから全く授業の内容が入ってこない。
この状態はしばらく続きそうだ。
そしてまた、もう一人授業に集中できていない者がいた。


「(………………)」

ちらり、ちらりと視線が動く。
じっと見るでもなく、すぐに元へと戻ってくる。
彼女――梨乃にとって、それはなんとも言えないフクザツな気持ちだった。
今日の手紙のこともそうだし、この間のこと……茜との一件もそう。
嫌な事はみんなまとめて来るものなのかなと思いたくなってしまうくらい。
ちらり…。また視線が動く。
視線の先にいる俊介は下を向いたまま。
教科書をじっと見ているかのようだ。

「(俊介君……)」

キュッと、また胸が苦しくなった。
あと一歩が果てしなく遠い。
何も考えていなかった去年の自分がとても懐かしく思えた。
……私、キスだってしてたのに。
あの頃は毎日が楽しかった。
あの頃は毎日が新鮮だった。
あの頃は毎日が溢れていた。
自分の心の扉を開いてくれた人、千堂俊介。
彼とだったら自分はもっと変われる気がする。
そのためには……。

どうにも不穏な火曜日は、それでも穏やかに流れていくのであった。








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