21...... 興味



「あーもー、なんなんだよ一体」

歩きながら悪態をついてるのは俊介。
さっきから何かと首を気にするかのように動かしてる。

「だって俊ちゃん最近遅刻が多いんだもん〜。だから起こしに来てあげたんだよ」

その隣を、ちょこまか動きながら歩いてるのが梢。
さっき俊介に向かってダイビングをかましたのももちろん彼女であり……
あれ、そういえば今日はよく見ると乗っかってない。
梢が歩いてるのを見るのは久しぶりかも。

「そう。だから褒められる事はあっても怒られる事は無いと思うけど?」
「いや、そりゃ確かにこうして登校できるのはありがたいけどな。なんだろ、何かが違うような……」
「違わないと思うけど。ね、梢」
「うんっ」

答えが出ない疑問に長く考えることも無い。
そう判断した俊介は、そうだなと答えた。
最近大慌てで走っていくこの道も、余裕を持って出ればこんなにも楽なのか。
そんな事すら忘れてた様な気分。
………………
あれ、忘れてたと言えばもう一つ。

「なぁ、今思い出したんだけどさ」
「んー?」
「俺ン家、どうして分かったん? 確かまだ教えてなかったはずだけど」
「あーそのコト。簡単よ」
「ひかりちゃんに教えてもらったんだよー」
「え、姉ちゃんに?」

昨日学校についてからすぐに寝てしまった俊介は知らない。
二人が今回のことを企んでからすぐに、ひかりの所へと向かったのだ。
そこで俊介の現状を話しつつ、家の場所を聞くことに成功。
その時のひかりは『も〜毎年しょうがないなぁ』と言いつつも顔は笑っていたとか。
事前に家の方に彼女から報告しておいてもらったおかげで、本日めでたく奇襲成功となったわけ。
にしても、茜・梢のペアの行動力には恐れ入ったものだ。
思い立ったら即行動! なかなか出来るものではない。
ましてや知り合ってからそこまで経ってない、しかも男の子の家にだ。
更に、人を起こすんだから当然いつもより早く家を出ないといけない。
なのにいつもの準備は問題なくこなして来てる。
この二人、ひょっとしたら見た目以上に凄いのかも。

「これであんたの家も割れたわね〜」

イヒヒヒ、と笑う茜。ちょっと含みがあって怖い。

「いや、別に隠してたわけじゃないけど……」
「今度みんなで遊びに行こうか、梢」
「さんせ〜い。学校帰りとか行っちゃおー」

楽しそうに言う梢。
どうやら近いうちにみんなが来る事になりそうだ。
と、その時茜が傍にスススッと寄ってきた。

「な、なんだよ……」
「その前に、梨乃連れてきてもいいんじゃない?」
「え、梨乃?」
「まだ誰も連れてきたことないんでしょ? だったら二人っきり……とか」

………ッ!!

「な!?」
「あはは〜っ。ここから先は女の子の口からは恥ずかしくて言えたもんじゃないねぇ」
「あ、茜ぇ!!」
「逃げようっ梢。襲われちゃうぞ」
「いんじゅーだ〜!」
「誰がだ! こらっ待たんかいッ!!」

梢が朝からトンでもない言葉を発しているが、おそらく本人は意味が分かってない……ハズ。
結局、余裕たっぷりに出たはずなのに追いかけっこをしてしまい朝から疲れてしまう三人なのであった。
そして……

「ZZzz……」
「すー……すー……」
「くかー……すぴー……」

「ど、どうしたんだろうね。今日は三人も……」
「あはは…。なんでも、俊介さんの家までいったみたいで」
「俊介君の家に?」
「うん。起こしに行ってあげたんだって」
「そう、なの……」

………………

今日だけだと思ってた。
絶対に次はないと思ってた。
で、俺のその考えはおおいに甘かった……。
何故かって?
そりゃあもう…。

………………

スズメの鳴き声が聞こえてくる早朝。
そろそろバスが通勤客や遠距離通学の人で賑わい始める頃、とある道の一角で四人の女の子が話しながら歩いてる。
背丈の小さな二人の後を、もう二人が追いかけるようなかたち。
後ろを歩いてるうちの一人はまだ眠たいのか、時より口元に手を当てて控えめに欠伸をしている。

「梨乃ちゃん、まだ眠いたいの?」
「うん……いつもだったらまだ起きた頃だから」
「くすっ。でも、こんな早くに集まってみんなで何かをしにいくって、ちょっとだけ面白そうだよね」
「うん、まぁ……」

そう言って梨乃はまた欠伸。
よっぽど眠いのか。

「俊介さん、まだ寝てるといいね」
「…………うん」

正直、梨乃の胸中はフクザツだ。
俊介を起こしに行くのはいい。
ここに来る前も合わせて、初めて彼の家にいけるんだから。
そういう意味では楽しみではある。

でも……

「………………」

心のどこかで、自分一人で遊びに行きたかったとも考えているのだ。

「(なんか、そう考える自分が、ちょっとだけ嫌だな……)」
「ねぇ、梨乃っちってばー!」
「えっ……え?」

ここで梨乃は初めて自分が呼ばれてることに気がついた。
ぼぉっと歩いてたので気がつかなかったけど、すぐ目の前で梢が自分の方を覗き込むようにしてみていた。

「どぉしたの?」
「う、ううんっ。なんでもない。それで?」
「今日は、梨乃っちが俊ちゃんを起こしてね」
「えっ……私、が?」
「そ。昨日はあたしがダイブして起こしたの。だから今日は梨乃っちがやってよー」
「だ、だいぶって……」
「任せたからね〜っ」

なんともあっさり役を任せられた。
言いたいこといって満足したのか、くるりと踵を返すとタタタッと一人走っていってしまった。
まったく朝から元気な娘である。

「私が……俊介君、を……」
「ふふっ。がんばってね。梨乃ちゃん」

隣ではあすかがニッコリと微笑んでいた。
先行した梢を除いた三人はちょっと遅れて千堂家の前に到着。
すでに玄関前では梢が遅いとばかりに待ってる。
そしてもう一人……

「おはようございます。今日も朝からお邪魔させて頂きます」

ペコッと丁寧なお辞儀をした茜。
それをニッコリ笑って返事をしたのは、なんと俊介のお母さんである。

「いいえ〜。さ、どうぞ遠慮しないで上がっていってね」
『おじゃましまーす』

女の子が四人家に入っていくのを見て、ポツリと母が一言、

「ふふっ♪ なんだか娘が一気に四人増えたみたいだわぁ。それとも、みんな俊ちゃんのガールフレンドかな?」

とか言ったとか言わなかったとか。

さて、家に上がって階段を昇る四人はすでに俊介の部屋の前。
昨日来た茜と梢はなんともないけど、初めて来たあすかと梨乃は関心しきり。
特に梨乃は男の子の……いや、他の人の家に来るなんて生まれて初めてだから、あっちをきょろきょろこっちをキョロキョロと忙しない。
そこに茜が『大きな音立てないようにね。俊介が起きちゃう』と釘さす。

「梨乃、あんたが起こす役なんだから自爆して先に起きられちゃったら意味ないんだぞ」
「う、うん……でも、本当に起こしちゃっていいのかな……」
「何をいまさら。ストレス発散にはぴったりかと思うよ。だからガツーンと、ね」

茜の発言にどうしたものかと苦笑い。
足音を立てないようにそっと部屋に侵入する四人。
今日もまだ夢の中の俊介は、昨日の効果が出てないのか相変わらず目を覚ます気配すらない。
かつて俊介の寝顔を見たことがある梨乃は、思わず頬が赤くなった。
何故ならその時彼女は俊介に……。

「………………」
「ちょっと、何で顔を赤くしてるの?」

すぐ後ろにいた茜が小さな声で話しかける。

「う、ううん……何でもないよ」
「じゃあ、一気に飛び込むんだよ」
「本当に……やらないと、ダメ?」
「別に無理してやらなくてもいいけどね。起こし方は任せる」

ぽんと肩に手を置かれて、最後の決断をゆだねられた。
後ろではあすかと梢が頑張れとばかりに見ている。
うう、やるしか……ないのかな。

「えと……えっと……」
「………………」
「あ……その、う……」

片足を前に出す。
躊躇してすぐに戻す。
後一歩が、最後の勇気が出てこない。
やっぱり私には無理だよ……
と言おうとしたその時だった。
まるでそれが判っていたかのように背後から――――

「おりゃっ!」
「うわぁっ?!」

背中に衝撃。
予想もしてないから身体は素直に前へと倒れていく。
一瞬顔だけ振り返ると、そこにはニッコリ笑った茜が手を振っていた。
そして次の瞬間には俊介の眠るベットへと……。

ドサッ…

「……ぐえっ」
「あぅっ!」

カエルを踏んづけたような声と、梨乃の驚いた声が綺麗に重なった。
こうなるとさすがの俊介でも目が覚める。
何だなんだとばかりに目を開けると、すぐそこにいたのはもちろんあの人。

「おぃ……今日もなのかこず……梨乃?」
「あ、あはは……おはよう、俊介君」

直後、昨日とは全然違った悲鳴が響き渡ったのはいうまでもない。


「いやー大成功大成功! あの時の俊介の声って言ったらなかったねぇ〜」

ものすんごく満足です! とばかりに満面の笑みを浮かべてる茜。
その後ろでは真っ赤な顔した梨乃が小さくなってうつむいている。

「お前なに考えてんだ!? 昨日といい今日といい」
「ん? ただ起こしに行っただけだけど?」
「あんな起こし方あるか!」
「じゃあ梨乃が寝込みを襲ったほうが良かった? でもそしたら別の意味で……ねぇ?」
「んな?! あ、茜!!」
「どひ〜っ。淫獣に襲われるぅ〜」
「だっ! てめっ待ちやがれ!!」

三十六計逃げるに如かずとばかりに逃走に入った茜をもうダッシュで追いかける俊介。
あっという間に見えなくなった。
結果的に、今日この日以来俊介の寝坊癖はキレイさっぱりなくなり、無事に登校できるようになった。
根底にはまた起こされるから……と言うのがあるからかもしれないが。
とりあえずは茜発案のこの作戦は大成功に終わった。
それは誰もが思ったこと。
これでめでたしめでたし――――


『ん〜……』
『どうかしたの、梢ちゃん』
『うん。なんとなくだけどねー』
『???』


………………


『あんなに楽しそうな茜、初めて見たなぁって……どうしたんだろ?』









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も ど る