20...... Tallyho!



Oneday, 8:30AM...

『――北本』
『はい』
『久喜』
『はい』

タッタッタッ――――

『――小西』
『はいっ』

タッタッタッタッ――――!

『相模原』
『うぃっす』

タッタッタッタッタッ――――!!

『千堂――――』

ガラガラッダン!!

「は、はい!」

その瞬間、教室は静寂に包まれた……。

☆   ☆   ☆   ☆

もうすぐ六月がやってくる。
そんなある日から突然それは始まった。
普段なら五人で登校して来るいつものメンバーが、一人足らなくなったのである。
皆の心配をよそに、遅刻ギリギリで現れる。
今日も例外ではなかった。
なんてことはない。
今の時期の名がついたちょっぴり困ったさんの病が襲い掛かってきただけだから。

「つ、つかれた……」

机にだらしなく倒れ掛かって突っ伏すのはもちろん張本人である俊介。
ご丁寧に両手まで伸ばしてる。
息はまだ上がっていて、背中がせわしなく上下していた。

「大丈夫、俊介君……?」

その隣では梨乃が心配そうに寄り添ってる。
これで下敷きか何かで仰いでいたら絵になっただろうか。

「大丈夫、そうに…見える、か……?」
「……う、ううん」
「今日も……朝ご飯、食べれなかった」
「た、大変……だね」

梨乃、苦笑せずにはいられない。
何せ場合が場合だからなんて言葉をかければいいものか。
経験不足の彼女には浮かんでこなかった。

「あーあ。朝からへばってるのがいる」
「いるー」

そう言って近づいてきたのは茜と梢。
今日も仲良く二人一緒だ。

「俊介最近ずいぶんギリギリに来てるけど、どうかしたの?」
「……どうも何も、単純に起きれないだけ」
「起きれないって、夜更かしでもしてるん?」
「いや、そんな事はないと思うんだけど……なぁ?」
「なんであんたが疑問系で答えるの」
「俺に言われても……」

時間が経つにつれて、俊介の呼吸も安定してくる。

「いままでは大丈夫だったのに、今週に入ってから急にだもんね。最初は風邪でも引いたかと思った」
「……なんだかなぁ。毎年そうなんだよ。いつもこの時期になると朝に弱くなって」
「……そうなの? 梨乃」
「えっ? えっと……そうだったような、違ったような」

急に振られてもとばかりに梨乃がどもる。
と言うより、梨乃には記憶にない。
なぜなら二人が初めて会話をしたのはそれよりもう少し後のことだから。
意識してないんだったら覚えてないのも無理はない。

「あー……ねみ」
「は?」
「全力疾走で疲れたかな。眠くなってきた」

むくりと顔を上げると、大きな欠伸をする。
とても走り明けとは思えない態度だ。

「あ、あんたねぇ……」
「やる気メーター残量ゼロ。回復フェイズに入ることを推奨します……という訳で、おやすみなさい……」
「ちょ、ちょっと俊介!」

ぱたりこ。
俊介、撃沈。
周りに残った彼女らは、さしずめ護衛艦艇と言ったところかねぇ。
…それはさておき。

「……はぁ。こんなのと話してたらなんだか私まで疲れてきた」
「俊ちゃん、どうしたんだろうね?」
「さぁ、単にやる気がないだけなんじゃないの」
「頭に花でも載せておく〜?」
「いっその事ゴミでも載せておきなさい」
「らじゃー」

本当にゴミを載せました。
でも、寝てる俊介には気がつかない。
って言うか、もう寝付いたのか。
寝つきが良いとかそういうレベルの話じゃない。
頭にゴミを載せられたまま眠る俊介。
それを梨乃はやっぱり心配そうに見てる。
いや、そうするならゴミを取ってあげようよ。

「俊介さん、どうしちゃったんでしょうね」
「うん……」

いままで沈黙を貫いてきたあすかが言った。
俊介さんと言う単語にちょっとだけ心に違和感を覚えながらも、梨乃は顔には出さない。

「……おそらく、ですけど」
「え?」
「どしたの、あすか」
「うん。えっと、あくまで個人的な予想なんだけど、もしかしたら俊介さんは五月病かもしれませんね」
「五月病?」
「いままで元気だったのに、急にやる気が低下するのは時期的にそれではないかと」
「あー、サボり癖みたいなやつか」
「うん。本当の病気とかだったらもっと深刻かもしれないけど……」
「いやいや、俊介に限ってそれはないねぇ。なんとかは病気にならないって言うじゃん?」
「あ、茜ちゃん……」

寝てる本人を目の前にさらっと酷いことを言う茜。
これも普段から兄をイジメてるからだろうか。言いながらも涼しい顔をしてる。
あすかも梨乃も苦笑するばかりだ。

「でもまぁ、こればっかりは私たちでどうにかできる問題じゃないし……」
「学校で寝るのは構わないけど、遅刻とかはマズイよ……ね?」
「ほ、本当は学校で寝るのもいけないんだけどね」
「あっ……そっか」
「梨乃ぉ〜あんたまで俊介から汚染かぁ?」
「あ、あははは……えと、どうしようか」
「どうしようったって、うーん……」

考える。ひたすら考える。
だけど、本人がどうこうしないかぎり如何ともし難いのだから結論が出ない。
いまは現状放置の方向で先送りに。
あーあ、女の子たちを困らせちゃって……俊介め。

「………………」

だかここに、一人考え続ける者がいた。
茜である。
言葉にこそ出してないが、さっきから頭の中でいろいろ巡らせている模様。
なんだかんだ言いつつもちゃんと気にしてるのは彼女が素直じゃないからだろうか。

「(……これなら、いけるかな)」

ふと、何か思いついたみたいだ。
声にこそ出してないけど、ちいさくうんと頷いた。

「なら、早速明日にでも……」
「茜なんか言った?」
「へっ? あ、あー。うん。ちょっとね。そだ梢、おいで……」
「ん〜?」

二人でヒソヒソ話。
どんな内容かわからないけど、茜の提案を聞いた梢はにっこりと笑うと、嬉しそうに返事をした。

「いーねー。やろうやろうっ」
「なにか……するの?」
「うん。えへへ〜」

意味ありげな発言をする梢。
話の外にあるあすかと梨乃は首を傾げるばかり。
一体何が起こるのかは、とりあえず時間を進めてみなければわからないのであった……。

Tomorrow, 7:00AM...

「ZZz……」

ぐっすりと眠り込んでいる俊介。 枕元では起床を知らせるアラームが鳴っている。
普通ならこれで起きるところだが、

「うう、ん……」

もぞもぞと布団が動くと、中から手が伸びてきて目覚まし時計を覆い隠す。
すると見事にアラームが鳴り止んでしまった。
障害を排除した俊介は、夢現のまま再び眠り込む……。
どうやら、今の出来事が最近の遅刻劇を呼び起こす原因らしい。
もともと俊介は目覚めは良い方だ。
遅刻だって滅多にしない。
だから……やはりあすかの言うとおり、五月病にかかっている模様。
精神不安定とかいろいろ種類があるらしいこの病。
どうやら俊介はやる気の低下にふられたらしい。
それが寝起きに影響を及ぼしてる、と言った所か。
引っ越してきて、新生活にもようやく慣れ始めたところだから気が緩んでいるのだ。

「……なるほどね。これなら遅れるわ」
「茜、本当にやっちゃってもいいの?」
「うん。どうせなら盛大に、ね」
「らじゃー」

ドアが僅かに開いている。
そこから中を盗み見るようにして、ヒソヒソと話す人がいる。

ここで、ちょっとだけ視点を一階に向けてみよう。
そこには俊介の両親がいるはずだ。

「俊ちゃんったら、お友達に迷惑かけて……」
「でも、わざわざ起こしに来てくれるなんてね。仲良さそうじゃないか」
「うん。お友達ちゃんとできるかなって不安だったけど、大丈夫みたいね」

……全然問題なく流れているようだ。

さて、再び現場。
音を立てないように静かに侵入した双子は俊介の眠るベットへと近づく。
眠っている俊介は全く気づいてない。
意識は完全に夢の中、だ。

「じゃあ、いくよ〜」
「うん。目の覚めるような一撃を、ね」

最後のやりとりが行われ、作戦は決行される。
茜が考えた作戦、それはあまりにも単純で、そして効果は絶大なものであった――――

「たりほー!!」

刹那、梢の元気な声と共に、ベット全体が大きな音を立てて軋んだ。
時に、午前7時10分の事であった。









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