18...... それからどうなった?
最近、日に日に夜が明けるのが早くなってる気がする。
5月も半分過ぎればもう初夏と言ってもいいだろう。
5時前には既に空は明るく、日中ではそろそろ長袖でもキツイ日が出始める…。
と、そんな感じのある日の出来事。
つまりつまりは、あすかの衝撃発言から幾日か経った日の物語。
まさに“それからどうなった?”の展開である……。
「はい、総一郎さん」
「ありがとう」
シャコシャコ洗面所で歯を磨いてるところに聞こえてくる両親の声。
どうやら父親がもう家を出るみたいだ。
毎朝恒例の儀式、と言ったら大げさかもしれないけど、少なくともこの二人ならそれで十分通用するかも。
最後に口をすすぎながらそんなことを考えるのはもちろん俊介。
顔も洗い終わってサッパリするのと父が家を出るのは同時だった。
「俊ちゃんももう行くの?」
「うん。準備できたら出ないと」
「最近家を出るのが早くなったね」
「……まぁ、いろいろありまして」
「朝ご飯も食べないで。お腹、空かない?」
「だ、大丈夫……だよ」
思わず、苦笑い。
まさかまさか、人の家で食べてますなんてとても言えまい。
「食べないダイエットなんてしないでよ? 痩せるなら運動!」
「だ、ダイエットじゃないよ。それに俺、太ってるわけじゃないし……」
「じゃあ、どうしてだろうね。おにぎりでも持っていく?」
「う……まぁ、おにぎり位なら大丈夫かな」
「じゃあ、すぐに用意するからね」
パタパタと台所にかけていく母を見ながら、ふぅと一息。
なんと言いますか、家でも俊介は苦労しています。ハイ。
それが自分で種をまいたような状態らしく……ただ、何故なのかは分らない。
「……んま、なんとかなるっしょ」
ため息交じりの一言が漏れていくのだった。
それからしばらくして、準備を終えた俊介は玄関の前。
トントンとつま先を当てて靴を履き終えた。
その手がドアノブに伸びる。
「じゃあ、行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」
笑顔で見送る母親を背に、晴れ渡った空の下に出た。
時間はまだ7時を回ったところ。
これが連休前とか直後だったらやっとこ起きだしてた感じだった。
それが今は……朝練?とでも言いたくなるような時間に家を出てる。
当然ながら、同じ学校の制服を着た人を見るのはごくごくたまーに、だ。
「………………」
いつもの合流地点を通り過ぎて、更に前へと歩いてく。
学校は今の十字路を右へと曲がらないと着かない。
だから学校へは向かってないわけで。
となると、何処へ向かっているのか。
あすかや双子の家は俊介の家の方向なので場所が違う。
あ、もう答え出たね。
残ってるのはただ一人。
最近越してきたあの娘……。
ピンポーン
ややあって、ガチャンと言う音と共にドアが開いた。
「あ、おはよ」
「おはよう。俊介君」
笑顔で迎えたのはもちろん梨乃。
既に制服に着替え終わっていて、更にその上からはエプロンまでしてる。
見る人によっては“たまらん”光景。
もちろん否定的な意味でなく、盛大に肯定を含む方。
朝からごちそうさまです。
「どうぞ、もうすぐ朝ご飯ができるから」
「お、おう。じゃあおじゃましますっと」
勝手知ったる、と言うほどじゃないけど、梨乃の家には何度も来てる。
特に今週は毎日来てるものだからほぼ慣れた。
最初でこそ一人暮らしの女の子の家ってコトで心臓バクバクしてたけど……。
まぁ、よく考えたら俊介だし? そこまで上がるってコトはないね。うん。
「今日はね、また玉子焼きに挑戦してみたんだよ。……ちょっと崩れちゃったけど」
あはは…と言いながら見せた皿。
確かに形は崩れてるものの、しっかりこれは玉子焼きだと判る一品。
真っ黒にしたこの前と比べたらえらい進歩である。
「今はまだ形とか気にするな。そんなの後からいくらでもついてくるんだからな」
「うん……まだまだ頑張らないとね」
「そうそう。その意気だって」
にこっと微笑む。
梨乃もそれに答えると、台所からサラダとスープを持ってきた。
本日の籠原家のメニュ〜。
玉子焼き・サラダ・コーンスープ・トーストなり。
和洋折衷気味な気がするけど……んま、いっか。
玉子焼きがオムレツだったら完璧だけど、そこまで変わりあるまいて?
「実はなー梨乃」
「うん?」
「家からこんなものを持ってきたんだけど……」
「おにぎり?」
「ああ。最近朝ご飯食べていかないから……な。ダイエットと思われたんだよ。それで、苦し紛れにおにぎりだけ持っていこうかって事に」
「そう言えば、今週は朝ご飯ずっと一緒だったね」
「あ、あぁ……」
今でこそ笑ってる梨乃だけど、週明けはむすっとしててちょっと怒り気味だったのを忘れてはいけない。
なぜかって? そりゃあ17話を見れば判る!
……話が逸れた。
「おにぎり、一つ貰ってもいい? 家だとあんまりご飯炊かないんだ」
「一人だと余るからな。それは仕方がないさ。上手い具合に4つあるから、二個ずつ分けよう」
「うん。ありがとう」
やっと訪れた平和な時間。
昨日ぐらいから戻りつつあったけど、今日はもう完璧。
……ふぅ、なんとかなった。と心の中で大きく息を吐く俊介。
なんとか、ミッションクリア、かな。
一体なんのミッションかはこの際置いておくとして。
朝ご飯も食べ終えて、皿洗いも終えて、梨乃の準備が終わるのを待っていよいよ出発だ。
時間はちょうど8時を回ったところ。そろそろ出る時間。
「んじゃ、行くか」
「うん」
二人揃って家を出た。
ここから例の合流地点まで歩いて5分ほど。
そこから学校までは更に10分だ。
家から徒歩30分圏内に学校があるのは嬉しい限り。
自転車で行ってもいいけど、他のメンバーのことを考えると使わない。
なにより、みんなで歩きながらワイワイやるのが楽しいから。
「今更って気もするけど……」
「え?」
「もうこっちの生活には慣れたか?」
と言っても、俺もあんまり変わらないけどと付け加える俊介。
彼と彼女の差は僅か一ヶ月くらいだ。
「うん。まだ分らない事とかあるけど、大丈夫。毎日が今までとは違うから新鮮かな」
「そっか。それはなにより。せっかく来たのに何も変わらないんじゃ、意味がないからな」
「ふふっ。そうだね。……変わって、いかないとね」
何か含みを持たせた梨乃の言葉。
俊介にも伝わるかと思ったけれど……
「そうそう。頑張れよ梨乃」
「……うん。頑張るよ」
やっぱりこういう時に限って俊介は俊介なのである。
鈍いってワケじゃあないんだろうけど……。
『俊ちゃーん!!』
と、前方から元気のいい声。
彼のことをそう呼ぶのは二人しかいない。
自分の母ともう一人、双子のうちの――――。
「やほー。今日も梨乃っちといっしょだね」
ぐいぐい。がしっ。
首が痛い。正確には肩も。
ちょっと体勢が悪いなと身体を動かして、その上に乗る人物……梢を揺らす。
毎度恒例肩車。小柄だけど柔らかな太ももは俊介の顔を挟む様にして伸びている。
とは言え、その白く柔らかな太ももは一枚の布を隔てて見えることはない……と。
何故かって? そこら辺は省略。一言で言うなら、梢はスパッツ少女だ。
「……はあ」
「あはは……」
俊介のため息と梨乃の苦笑いが同時に出る。
んま、これもいつも通りの光景なワケだ。
「いよ、俊介」
「おはようございます。俊介さん」
「おはよ。二人とも」
「んじゃ、いこっか」
目の前の茜とあすかにも挨拶をして、二人が五人に増えた本隊は動き出す。
俊介を中心として、前方に茜、両サイドをあすかと梨乃が挟む三角形のような形。
これがいつものフォーメーションとでも言っておこう。
賑やかさを増して、学校までの道のりを歩いていく。
「あ、そう言えばさあすか」
「はい?」
「あれって……結局、どうなったん?」
「あれ、と言いますと?」
「いや、その……この間の……」
正直言いにくい。
でもやっぱり気になるんだ! しょうがないだろう!?
「…それなら、大丈夫です。確かに敵いませんけれど……でも、想いを持ち続けるのは悪い事ではありませんよね? 憧れの気持ちは、変わりません」
「……そっか」
どうやらこの間の一件、あすかの中でもふんぎりはついてるみたいだ。
恋愛対象から憧れの対象へ。似てるけど違う意味合い。けど、あすかにとっては大切なおもいで…。
「それに……」
「ん?」
と、何故かここであすかの頬がポッと赤く染まったような気がした。
こちらを向いていた視線も、地面を見るように下がってしまう。
「今は、別の方に好意を寄せていますから…」
スッと、自然な感じに身体を寄せるあすか。
見れば、なんと俊介の腕にさりげなく自分の腕を絡めているではないか!
こ、これは……!
「あ、あすかぁ!?」
「………………」
何も言わないあすかはただ腕を絡めたまま…。
制服越しに感じるのは明らかに腕の感触とは違う別次元の柔らかさ。
うわー、なんともオイシイ展開だね俊介。
こうなると、隣の彼女ももちろん……。
「おー。あすかダイタンだね〜」
「………っ………」
ぐいっ
「うぉっ?!」
「うわわ!」
不意に身体が左に傾く。
バランスが崩れかけて、声をかけた梢も驚いた。
あれ? 右腕もそうだけど、左腕も動かないぞ〜?
「り、梨乃…?」
「………………」
黙ったまま何も言わない。
でも、その腕はしっかりと俊介の腕を巻き込んでいる。
なんてことはない。今の状況は両腕を二人の女の子に固定されてるだけのこと。だけの……こと。
「……? ……?」
なんで、どうしてこうなってるの?
それになんか、周囲の目が冷たい気がするんですけど…?
「あーあ。朝から大変ねぇ俊介。い・ろ・い・ろ・と。ね」
振り向いた茜が、イヒヒッと笑う。
「俺、なんか、した?」
俊介の問いに答えるものはいない。
ただ、なんだかよく判らない空気を持ったまま学校へと歩いていくのであった。
……余談だが、学校でクラスメートの男子たちを含めて、とっても敵意のこもった視線を頂いたのは言うまでもない……
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