06...... 思惑違いの全員集合
「そいじゃ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
昼ごはんを食べ終えてから準備を始め、頃合よく家を出た。
日曜の、穏やかな春の昼下がり。
咲き誇っていた桜が、少しずつではあるが散り始め、緑色した葉が姿を見せ始めてる。
まだ通い始めて日が浅い通学路を、今日は私服で歩いてく。
「(一体何があるってんだ……?)」
昨日の夜に届いた茜からのメール。
あれが意味する所はなんだろう。
一瞬考えたけど、行けば分かると考え直して、そのまま向かうことにした。
「あっ千堂さん」
「ん?」
ふいに横から声を掛けられた。
見てみれば、そこには一人の少女が立っていた。
いつも制服姿しか見てないだけに、初めてみるその格好に思わず目が止まってしまう。
そこにいたのはあすかだった。
「よ、よぉあすか」
「こんにちは」
「あぁ……」
「? なにかわたしに付いてますか?」
「い、いやっ。そうじゃなくて……あ、あすかこそ、こんな時間にどうしたんだ?」
見とれてただなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えやしない。
「わたしですか? 昨日茜ちゃんに誘われて、これから校門に向かうところです。千堂さんは?」
「あー、俺も一緒だ。なんか夜にメールが来た」
「じゃあ、千堂さんもなんですね」
「そうなんだけど、なんだろうな?」
「さぁ、それは行ってみないとどうにも」
あすかが首をかしげた。
どうやら目的は誰にも分からないようだ。
「ま、行ってみれば分かるってやつか」
「ですね」
「んじゃ、せっかく会ったんだし一緒に行くか」
「はい」
こうして一人から二人に増えて、高校への道を歩き始めた。
「あすかってさ」
「はい」
「普段からこんな格好なん?」
「はい?」
「いやさ、ずいぶんと大人しめな格好だなぁと」
「そ、そうでしょうか」
うーん、と自分の格好を見回すあすか。
ちなみに今日のあすかの格好は、薄い赤のチェックが入った白いブラウスと、ブラウン系のロングスカート。
上はともかくとしても、足がほぼ隠れてしまうロングスカートは珍しい。
そう俊介は思ったようだ。
「わたし、あんまり派手な格好とか好きじゃないんですよね。それにわたしだと、似合わないし……」
「そんな事はないと思うぞ? あすかだったら何着ても似合うと思うけど」
「そう、ですか?」
「おぅ」
「なんだか……そう言われてしまうと、千堂さんに口説かれてるみたいですね」
「えぇっ!? そ、そんなつもりで言ったわけじゃ」
「ふふ、冗談ですよ」
「あ、あすかぁ……」
本当かどうか分からないが、あすかの意外な一面(?)を知った俊介だった。
そんな話もそこそこに、高校が見えてきた。
校門前には小さな二つの影。
まるで鏡で写したように見えるんだから、やっぱりあそこにいるのは……
「あっ来たきた」
「やっほ〜ぅっ」
梢がブンブン手を振ってる。
まぁこれはいつもの事だ。
「いよっ」
「こんにちは」
「二人とも一緒に来たの?」
「途中で会ったものだから」
「だな」
「にゃるほど。 よーし、これで揃ったね。んじゃ、行こうか」
そう言って歩き出そうとする茜を、俊介が呼び止める。
「おいおいおい、行くって何処に行くんだよ」
「えっ私ン家だけど?」
「はぁ? 茜の家?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
「茜ちゃん、ここに集合としか送ってきてなかったよ」
「あらら……抜けちゃってたか。 ま、でもこれで目的地も分かったでしょうし、改めて出発ね〜ん」
「やれやれ……」
はぁとため息をつく俊介に、あすかが『いつもの事ですから…』と苦笑しながら言った。
もちろん、同じくいつもの事としては……
「しゅ〜ん〜ちゃんっ」
ガシッ
「………………」
「えへへ〜」
「……なぁ、あすか」
「は、はい?」
「これもいつもの事だよ、な?」
「あ、あははは……そぅ、ですね」
「れっつごーっ!」
うしろに、ほとんどおんぶ状態になってる梢が元気よく叫んだ。
まぁこれも極めて平凡ないつもの光景ではあるのだが……
「なー梢よ」
「うに?」
「お前さ、もうちょっと羞恥心ってのを持てないのか?」
「しゅーちしん?」
「仮にも何も、お前はスカートをはいてるんだぞ?」
「うん」
「しかも、あすかと比べれば格段に短い。と言っても膝上がちろっと見えるくらいだけどさ」
「もっと上も見たい?」
「だーからそうじゃねぇって。つまりな、そんなスカートはいてるのにこんな状態だと……まぁ何ていうか、スカートの中…周りに見えちまうぞ?」
つまるところ、スカートをはいてるのにおんぶなんてしたら、めくれ上がってスカートの中が回りに丸見え状態になってしまう、と言うことだ。
俊介は心配して言っているようだが、梢はあくまで笑顔だった。
と言うか、何も心配ないって言うか気にしないよって感じでこう言った。
「だーいじょうぶ。このスカートは飾りだから」
「…は?」
「したにスパッツはいてるもん」
「スパッツ? スパッツってと、あのジャージみたいのがぴったし張り付いて、膝上くらまでのアレ?」
「うん。そう」
パッと地面に降りて、何の気兼ねもなく梢はほら、と言ってスカートをたくし上げた。
当然見えたはずの下着は見えなくて、見えてるのは黒いスパッツ。
確かに、梢の言うとおりであった。
「あたし、学校でも家でもスカートはいてるけど、それと同じにこれはいてるよ。だから、全然問題ないの」
「は、はぁ……」
「あーゆーおーけー?」
「い、いえす……」
なんか釈然としないが……まぁ、いいか。
梢が再び俊介の背中に貼り付いて、一行は再び歩き出した。
しかも梢、今度はおんぶじゃなくて肩車である。
そこで、高いだの面白いだのって騒ぎ出すものだから、俊介はバランスを取るのに必死。
茜は更に梢をけしかけて笑っていて、あすかはどうしたものかとひたすら苦笑。
でも笑っていることもあるから面白いみたいだ。
それから歩いていくことしばらく。
一軒の家の前で茜が歩みを止めた。
どうやら到着のようだ。
「はい、とーちゃーく」
「ここなのか?」
「そ、ここが我が家」
「ウチの近所じゃん」
「え、そうなの?」
「あぁ、だって俺の家はさっきの角を曲がればすぐだし……」
そう言って今歩いてきた方向を指さす。
「へぇ、なるほどねぇ」
ニヤリ、と茜が意味がありそうな笑みを浮かべた。
今の俊介には理解できなかったが、意味を知るのはもう少し先のことであった。
まぁ上がってちょうだいな、と促されて初めて穂刈家へと入る。
と言うか女の子の家に行くこと自体が……あ、梨乃の家があったか。
「流石に私たちの部屋には狭くて入りきらないから、リビングね」
「家族とか、いるんじゃないのか?」
「それがねぇ……父は仕事・兄は外出・弟は部屋・母は入院だから」
「ふーん、なるほ……って、入院!?」
「お母さん、入院してたの?」
「あーそか、あすかには言ってなかったっけ。盲腸で入院しちゃったの。まぁ正確には虫垂炎?」
「それは……お見舞いとかに行ったほうがいいのかな?」
「いやいやまさか。たかが盲腸だし、あと三日もすれば帰ってくるから」
「そ、そう…なの?」
「うん。だから気にしないで。……あー、空気悪くなっちゃった。我ながら失言。どうもご迷惑を」
ペコッと頭を下げる茜。
なんと言うか、実に珍しい光景だ。
「ま、まぁ……せっかく呼ばれたんだから、楽しく行くか。って言っても、何するかは分からんけど」
「まーテキトーにね。んじゃまぁ玄関で話すのもアレだし、上がってよ」
「おじゃまします」
「お、おじゃまします」
「おじゃまじゃましま〜っす!」
「いや、ここお前の家だろ? つーかじゃまじゃま言うな梢」
「気にしな〜い」
一気に空気が戻って、そのままリビングへと入る。
が、そこには先客がいた。
「あれ、アンタ降りてきてたの?」
「ん、ちょっと休憩で。にしても一気に賑やかになるなぁ」
「男もいるよ」
「マジで!? 姉ちゃんついに引っ掛けた?」
「だっ人聞きの悪い事を言うな、バカ真!!」
茜の叫び声。
ついで打撃音。
一番後ろで立ってた俊介には何がなんだか分からない。
ただ、梢とあすかだけは苦笑していた。
それにしても、今日はやたらあすかは苦笑してるな。うん。
「ったく……調子にのんないの。分かった?」
「了解……で、マジで男連れてきたの?」
「クラスの友達。ってかヘンに考えてるでしょ?」
「いや別に。姉ちゃんが男連れてくるなんて……って」
「だから友達だって言ってるでしょ。……あっそんなトコ立ってないで入って入って。ね?」
前の二人に続いてリビングへと入る。
茜の隣に、頭一つ高い背丈の男の子が立ってた。
さっきの声はこの人だろうか。
「ああそうだ。俊介はコレのこと知らないんだよね。弟の真って言うの」
「コレって言うなよ……まぁよろしく」
「ど、ども。千堂です」
こういう時って、なんかこう控えめになるものだ。
「さてと、じゃあまずは何をして―――――」
ガチャ…
玄関の方でドアの開く音がした。
同時に、複数の声が聞こえてくる。
やがて近づいてきて、今しがた閉めたドアが開けられた。
「んでよぉ―――あれ、なんかずいぶん人気のあるリビングだな」
「尚哉、どうしたの?」
「いやーちょっとな。先客アリだ」
「先客? 誰か来てるのかな?」
「いや〜そればっかりは俺に聞かれても……」
と、後ろからも声が。
しかしどれも聞き覚えのあるものばかり。
それもそのはず。今やってきたのは……
「いよぅ俊介、元気してるか?」
「どもっす。尚哉さん」
「あれ、あすかも来てたの?」
「お姉ちゃん?」
「あらま、俊介がいたよ〜はじめ」
「姉ちゃん。それに、はじめ先輩まで」
「やぁ」
偶然とは恐ろしいものだ。
こうして、学校にいる訳じゃないのに出会ってしまった。
しかも、お互いに知らないままに。
なにはともあれ、今ここに新旧メンバーが勢ぞろいしたのだ。
「う〜む……よしっ! こんなみんな集まる機会も珍しいから、ここはいっちょパァッとやるかぁ!」
尚哉の楽しそうな声がリビングに木霊した。
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