05...... 週末だから
「ははは。そうだな…………うん。それじゃ」
携帯電話を机の上に置いた。
そしてベットにごろんと横になる。
今話してたのは茜達やあすかじゃない。梨乃だ。
毎日ってワケじゃないけど、こうして夜にはお互いの現状なんかを冗談交じりに話してるのだ。
時より、直接言ってはいないけど感じられる、梨乃の寂しそうな声。
逆にこっちが楽しければ楽しいほど、申し訳ない気分になる。
いくら中学時代とは違って話す人がいても……。
少しの間、ボーっと考え事をしていた。
やがてある結論に達すると、俊介は居間へと降りていった。
ガタンガタン…ガタンゴトン……
「………………」
目に入る景色が、あっという間に流れていく。
早朝って程早いわけじゃないけれど、平日なら確実に通勤ラッシュで混み合うはずの時間帯。
俊介は一人車上の人になっていた。
目的地はただ一つ――――――
『春日井町〜春日井町です。ご乗車ありがとうございました』
電車に乗ること二時間ちょっと。
久しぶりにこの街に降り立った。
離れてわずか2週間弱とはいえ、懐かしさはこみ上げてくる。
私服の人で賑わう改札口を抜けて、そこまで大きくはない繁華街を抜けると、景色は一気に郊外住宅地へ変わる。
この道も、つい一ヶ月前までは毎日のように歩いていたっけ…。
ここを曲がってすぐに、懐かしの中学校がある。
この十字路を右に曲がれば、自分が住んでいた家がある。
しかし、どれも目的地ではなかった。
閑静な住宅街から少し歩いた小高い丘、そこにある家へ。
ある人物が、今日のことを何も知らないでいる家へ。
やがて、門の所へたどり着く。
今日はいるだろうか?
何も言わないで来て、驚くだろうか。
そんな思いを抱きながら、久しぶりの呼び鈴を押した。
『――――はい』
「あっども。えーっと、千堂です――――」
俊介は庭に置かれた椅子に座っていた。
まるで、オープンカフェに設置されてるテーブル一式を、一つだけここに置いたかのような感じ。
日よけのパラソルも更に気分を盛り上げていそうな。
「ビックリしちゃった。まさか、急に来るとは思わなくて」
「驚かせたいから突然来た。って言っても、来ようって思ったのはあの電話の後だけどな」
そう言って、注いでもらった紅茶に口をつける。
うーん、なんかリッチな気分。
「私がいなかったらどうしようと思ったの?」
「えっ、そうだな。久しぶりに街をぶらぶらして、それで帰ったかも」
「なんだかせっかくのお休みなのにもったいないね」
「まーな。でも、こうして無事に会えたから良かったよ」
「うん。私も。来てくれて本当に嬉しかった」
ニッコリ微笑む梨乃。
「学校はどう? と言っても、これも電話で話してるか」
「いやーまぁこれと言って電話と変化はないな。相変わらずやってるよ。梨乃もそうだろ?」
「うん。お話できるお友達も出来たし、まずますのスタートは切れたと思う。でも…………」
そこから先は梨乃は言わなかった。
俊介も、それが何かを知ってるから何も言わない。
もう、過ぎてしまったことなのだから……
「そ、そういえば俊介君」
「お、おぅ」
「お昼ご飯はどうするの? 良ければ食べていってよ。ついでにお夕飯も」
「って言うか、そのつもりで着てるんだ。もちろん返事はイエスだっ」
「じゃあじゃあ、用意してもらってくるから。ここで食べよう」
「ピクニック気分ってか。梨乃が育ててる花を見ながら昼ってのもいいな」
「うんっ。じゃあ伝えてくるね」
勢いよく立ち上がると、梨乃は元気よく駆けていく。
それを見送りながら、たまにはこういうのも良いな……と俊介は思った。
休みの日の、穏やかな昼下がり。
色とりどりな花壇を眺めながら……
そういえば、こんなことした事ないな。
「俺、今リッチメン?」
言った後で、柄にもない……と後悔。
それでも誰も聞いてない。
ふぅと一息ついて、パラソルから見上げる空はまだまだ青い。
高く感じないのは、今が春だからだろうか。
それでももう時期やってきて……
「おまたせっ俊介君」
「…ん、おぉ」
「あれ、どうかしたの?」
「いやぁ。ちょっとボーっと景色眺めてただけ。何だかんだいって新生活だし、忙しかったのかもなぁ。こうやってまったり出来るのがすげー幸せ」
「ふふ、なんだか爺臭いぞー」
「ま、マジすか…」
「うん」
あははは。と梨乃が笑う。
「くそぅ……こうなりゃ焼け食いだ」
「あぁ、まだいただきますも言ってないのに〜」
「気にするなっ」
とまぁ賑やかな昼ごはんはあっという間に終わって、しばしの休憩の後はまたのんびりムードに。
午後は庭ではなく梨乃の部屋へ。
こう、特に話題といった話題はなかったけど、梨乃と二人で話している時間が楽しかった。
梨乃も、常に笑顔を浮かべたまま。
時にしゃべり、時に騒いで、時に大きなベットで寝転がったりと……
楽しい時間と言うのは、あっという間に過ぎ去るものだ。
もう空はすっかり暗くなって、夕飯でお腹も満たされた。
そして、帰る時間はやってくる……。
「もう、帰っちゃうの?」
「流石に長居しちゃ悪いし」
「私は全然気にしてないよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、あんまり遅くなると家に着くのが夜中になっちまう。片道二時間は遠いぞ〜」
「あっ…そう言えばそうだったね」
「また今度遊びに来るさ。それじゃなくても電話できるしな」
「うん、そうだね。あ、でも次来る時は連絡頂戴ね。突然だと驚いちゃうから」
「りょうかい。そこの前で電話するよ」
「もーそれじゃあ意味がないのにぃ」
膨れる梨乃に俊介が笑いかける。
「分かってるさ。ちゃんと前日に電話する。だから膨れるなって」
「……絶対だからね」
「任せとけって。……それじゃあ、行くわ」
「あ…うん。また、来てね」
「おぅ。都合よければ梨乃のほうからも来てくれよ。こっちを案内したいしさ」
「うん。行ければいくよ」
「楽しみにしてるぜ。じゃ」
そう言って、最後に梨乃の頭を軽く撫でると、俊介は籠原邸を後にした。
門の入り口まで見送ってくれた梨乃にもう一度手を振って、曲がり角を曲がる。
なんだか、あっという間の一日だったな。
久しぶりだからだろうか。
「やっぱ、たまにはこっちも来ないとな……」
こっちの方が星がきれいに見える気がする。
夜空を見上げながらふと思う。
静かだし、住むにはやっぱりこっちの方がいい場所だ。
うん、また近いうちに来よう。
ガタンガタン…ガタンゴトン……
帰りの電車はうたた寝してるうちに着いてしまった。
歩きなれたような、そうでもないような道を歩いてく。
途中、携帯電話が震えた。
一体誰かと覗いてみれば……
「あ、茜?」
茜から送られたメールにはこう書かれていた。
『明日、15時ごろに学校の校門前集合。遅れたら死刑』
「な、なんだ……これは」
明日はまだ日曜日である。
当然学校に行く日でもなければ、用もない。
なのに日曜の、それも平日だったら帰る様な時間帯に校門前とはこれいかに。
一体何があるんだろうか?
不思議に思いつつも、とりあえず了解と返信しておいた。
その内に自分の家へと辿り着く。
今日の旅ももう終わりだ。
「(また梨乃に電話するかな……)」
そう思いながら、家の中から聞こえた母の声に返事を返した。
今日はなんだかぐっすり眠れそうだ。
- 4月10日 -
今日、俊介君が遊びに来た。
突然だったからとてもビックリ……。
でも、来てくれて本当に嬉しかった。
あっという間な一日だったけど、私は十分楽しめた。
今はお互い高校生活に慣れるので大変みたい。
俊介君もお友達が結構できたみたいで……なんだか羨ましい。
私も、むこうに行ってみようかな……?
俊介君が住んでるところ、住んでる街を、見てみたい。
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も ど る