03...... 入学式は静粛に…



「まったく……お前達は入学早々なにしてるんだ」

職員室に響く教師の説教。
すぐそばに立たされて小さくなってるのは二人の男子生徒。
一体何があったと言うのだろう。
そして、それを見守るかのように、はたまた面白半分で覗いてるかのように、入り口のドアから二つの顔がじっと中を覗き込んでいた。

「ふ、二人とも……バレたら危ないよ」

ただ一人、覗かないで廊下でオロオロしてるのはあすかだ。
今覗き込んでいる茜と梢を辞めさせようと、本人の中では必死に説得してる模様。

「大丈夫。これでも慣れてるから」
「ね〜、茜」
「アンタはいつもドジやって見つかってるでしょ」
「だぁって……」
「だ、だからさ……もうそろそろ辞めた方が…………あら?」

あすかは誰かが近づいてきたのに気がついた。
そして、気にしないで〜。と、あすかの言うことを流してそのまま覗き続ける双子の姉妹。
これは、傍から見なくてもとぉっても目立っていた。
いき行く人が、何やってるんだ? と言わんばかりの目で見ていく。

「あっ、俊介たち開放された。撤退するよ! 梢」
「りょ〜うっ」
「あ、茜ちゃん? 梢ちゃん?」
「あすかも、ポヤッとしてないで教室に戻るわよ。ほら、いそいで…………ぁ」

茜の願いも闇へと消えた。
そのあすかの隣には……正確には苦笑してるあすかだが。
その隣には一人の男子生徒が立っていた。
ご丁寧にも、いよっと手を上げて挨拶してる。

「げ…尚哉」
「何してたんだお前ら。覗きか?」

あすかの隣に立っていたのは、茜と梢の兄である尚哉であった。

「あんたには関係ないことよ」
「まーどうでもいいけどさ、入学早々問題は起こすんじゃねーぞ? 俺みたいに」
「あーそう言えば尚哉は起こしたっけねぇ……聞いた聞いた」
「実は今年もだ」
「は?」
「いや、だからな――――」

尚哉の言葉は最後まで続かなかった。
突然、彼の背後から腕が伸びてきたかと思えば、ガシッと掴んでそのまま引きずっていったのだ。

「あ、あらら? …お、おぃ引っ張るなよ! まだ話は終わって……」
「はいはい、あたし達も話されることあるんだからさっさと行く!」
「ったく、何で関係ない俺まで……」

そして、もう一つの入り口へと消えてゆく。
その際もう二人ほど一緒にいたが、それが誰なのかは判らなかった。

「今の……さやか、よねぇ?」
「う、うん……お姉ちゃんだった」
「何かあったのかなぁ?」
「さぁ……?」

誰もいなくなった入り口を見つめたまま考え込む三人。
結局答えは見つからないのだ。

「あっ……そうだ。俊介に見つかる前に戻らないと」
「そうだよ。戻らないと〜」
「何で俺に見つかるとまずいんだ?」
「え、そりゃだって今まで覗いてたんだから…………え?」
「…ほぉ、覗いてたとな?」

すぐ横には俊介が立っていた。
その隣に、一緒に怒られていた男子生徒もいる。

「あぁ、いやその……あ、あはは〜」
「俊ちゃ〜ん、何で怒られてたの? やっぱり入学式のこと?」
「こ、梢!」

何気にするまでもなく、いきなり核心を突いて言う梢。
ちなみに本人にはま〜ったく悪気はないのだが。
思ったことがすぐ口に出るのは彼女の良い所でもあり、悪い所でもある。

「え? あぁ……まぁな?」
「お、おぅ」

二人合わせて頷いてる。
一体何があったのか?
それは、先ほど行われた入学式でのこと……



『新入生の諸君、まずは入学おめでとう――――』

マニュアル通りの、なんの捻りもない入学式。
正直俊介は退屈だった。
椅子に座ってただ話を聞くだけ……
これだけでもう30分は経過してるだろうか。
どうしてこう言った式典は来賓の挨拶が多く、そして長いんだろうか。
こっそりポケットから携帯電話を取り出すと、何するわけでもなくいじっていた。
すると……

「いよ、お前もヒマみたいだな」

と、隣から声が掛かった。
当然小さな声だが、隣からなのでハッキリと聞こえてくる。

「まぁ、そりゃこういうの聞いたって無駄だしなぁ」
「だよな〜俺なんかさっき落ちてたもん」
「…落ちた?」
「あぁ。10分くらい完全に寝てた」
「寝てたのか」
「おぅ」

彼は、初めて話すのに何の気兼ねもなく話しかけてきた。
そんな所が合ったのかもしれない。
すぐに打ち解けることが出来た。
これが、俊介の男友達第一号となる。

「俺、戸崎翔真ってんだ。お前は?」
「千堂。千堂俊介」
「ほぉ俊介か。んじゃ、よろしくな」
「あぁ」
「そうだ、携帯のアドレス交換しねぇ? 俺も持ってんだ」

そう言って、俊介と同じくポケットから携帯電話を取り出す。

「お、新型……」
「へへっやっとこさ購入よ。どうせなら新型の方がいいしな。じゃあ、俺のアドレスが……」
「ふむふむ……」

そして、携帯のアドレスも交換し終わって再び話をし始めた頃……

「へぇ、お前引っ越してきたばっかなんだ。俺と一緒じゃん」
「マジ?」
「あぁ、俺家族と一緒に暮らすのが嫌になって飛び出してきた」
「って事は、一人で住んでんのか?」
「まぁな〜ん。家にいたときも半分一人暮らし状態だったし。これでも家事全般はこなせる」
「すげ〜。ってか、家族環境がずいぶん特殊だな……」
「親父は金のことしか考えないどうしようもない奴で、お袋は不倫の嵐……これでよく俺の心が磨り減らなかったもんだよ。グレたりはしなかったし」
「でも髪の毛は染めてるな」
「俊介〜。髪染めるのとグレるは違うぞ? こりゃファッションだ。ファッション!」
「はぁ……」
「お前さんも染める?」
「いや、遠慮しとく…………ん?」

気がつけば、辺りは静かになっていた。
と言うより、何故かみんなこちらを見ている。
話してない隣の奴も。前の奴も、はては……さっきまで壇上で話してたお偉方までも。

『………あー、新しい環境になって友達を作るというのも大切な行為ではありますが、最低限マナーというのを守るというのが……』

……これ、完全に自分達に向けられている。
見れば、教室で会った担任の先生がこちらを見て怒りの表情を見せている。
冗談抜きで、まずい。

「お、おぃ……」
「あぁ……」
「ピンチ、だよな?」
「大いにな」
「この後、職員室じゃね?」
「たぶん……きっと」
「ちゃーっ。初っ端からやっちまったよ……」

黙ればいいのに、何故かまだ話を続けてしまう。
ガックリと肩を落とした来賓の人が、最後にこう付け加えた。

『……去年といい今年といい、入学式最中に騒ぎを起こす者が……はぁ』



「――――つーわけ」

回想終了。
もうコレを聞く時点で、茜も梢もあすかも苦笑せずにはいられなかった。
茜にいたっては、小声で“大バカね……”と呟くほど。

「あんたねぇ、最初くらいちゃんとしなさいよ」
「いや……いまさら言われても……」
「俺たちだって、悪気があったわけじゃないよなぁ?」
「もちろん」
「はぁー……もういいわ。教室戻りましょ」

そうするか……と教室へと戻っていく五人組。
そして、その頃職員室では…………

「だいたいね、何があったか知らないけど公の場だって事をちゃんとわきまえて行動して欲しいんだよ」
「は、はい……すいません……」
「いつもの三人ならわかるが、転校したてのキミまで加わってるとは……」
「あうぅ〜……」
「それから……」

「(だから、何で俺まで加わってるんだよ……関係あるの横一とさやかとあの転校生だけじゃん! つか、彼女何者だよ……)」

一人心の中で解決されない疑問を投げかける尚哉の姿があったとかなかったとか。







- 4月5日 -

今日、高校の入学式があった。
ちょっと緊張したけれど、あんまり中学の頃と変化がない気分。
やっぱり、知らない人しかいないのは少しだけ嬉しい。
私の事、みんな知らないから……
勇気を出して前の席の人に話しかけてみた。
私、ちょっとどもっちゃったけど……ちゃんと話せてよかった。
お友達になれたかな?
明日から少しずつ学校のこととか授業とかが始まる。
授業とか、ムズかしくないといいな。

俊介君、今頃なにしてるかな……













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