別れはいつかの出会いだから……
もうあえないわけじゃあないのだから……
だから、また、会う日まで――――
::〜3月26日の終展〜::
高校受験も無事終わり、三年間を過ごした学び舎も先日巣立っていった。
友人とも笑顔で別れて、それぞれの道へと進んでいく。
家のほうも、すでに生活必需品を除いた家具や小道具などは向こうへと運んでいってしまってるため、家の中は随分ガランとして寂しいさも漂っていた。
そして、いよいよ明日はこの地を離れる身となる。
ここから見える景色も今日限り。
また見えるはいつの日か。
そんな思いが頭をよぎっていった。
「俊介〜、電話よ〜」
それは突然の電話だった。
下へ降りて受話器を受け取ると、相手が誰なのかがすぐに分かった。
「……梨乃?」
「こんばんは。ごめんね、夜遅くに」
「いや、全然そんな事ないさ。で、どうしたんだ?」
「うん……俊介君、明日引っ越しちゃうんだよね」
「あ、あぁ……」
ここを発つ日が決まったことを、俊介は一番に梨乃に話した。
あの日、涙を流した梨乃のことが頭から離れなかったから。
「もう荷造りとかはしちゃったの?」
「うん。全部終わって後は明日運ぶだけだ」
「そっか……じゃあ、明日、時間あるかな?」
「え、明日か? まぁ行くのが夕方だから時間はあるけど……」
「少し、お話したい。…ダメかな?」
「いやいや、そんな事ないさ。俺も梨乃と話したいし。だから全然オッケーだ。じゃあどうする、俺が梨乃の家に行くか?」
「ううん、それは悪いからいいよ。 公園は、どうかな? 川がすぐ近くにある所の」
「あそこか? 了解。じゃあその公園で」
「うん。それじゃあ……明日ね」
そっと受話器を置いて、また自分の部屋へと戻っていく。
元から家具の少ない部屋でも、今では今日だけのための布団があるだけ。
他は向こうに送ってある。
寂しい限り……なんだかそんな感じがする。
パチンと電気を消して、その布団に横になった。
目を閉じれば、いろんな事が浮かんでくる。
どれも自分にとって大切な思い出だ。
「いよいよ、明日か……」
そんな事を考えながら、俊介は眠りへと落ちていくのだった。
そして、引越し当日の日がやってきた……
「ちょっと出かけてくるわ」
家に残った最後の家具を、引越し業者のトラックが運んでいった。
父親も向こうの家に運び込むために一緒に行ってしまい、母親と姉と俊介の三人が父が迎えに来るまで待ってる状態。
もう何もすることは残ってない。
「どこ行くの?」
そういうのは姉のひかりだ。
「ちょっと、川辺の公園まで」
「もうすぐお父さん帰ってくるよ〜?」
「それは分かってるよ。行く時になったらこの携帯に電話なりメールなりしてや。せっかく買ってもらったんだから活用しないと」
高校生になるに当たって、買ってもらった携帯電話。
家族以外は誰も入ってないから他から掛かってくることもない。
その電話も、高校生活が始まればアドレスが埋まっていくことだろう。
「じゃ、行ってくるよ」
「気をつけてね」
「おうさ」
外に出て、歩きながら自分の家をひと目見渡す。
明日見るは新しい家。
この家とも今日でお別れ……
ありがとうと心の中で呟くと、待ち合わせ場所である公園へと歩いていった。
家から歩いて10分くらいのところにある公園は、人気も少なくてどこか寂しげだった。
その一角に立っている女の子。
長い髪の毛を風になびかせながら、誰かが来るのを待っていた。
「あっ……俊介君」
「いよっ」
こちらを見た梨乃がふっと微笑む。
俊介も笑顔で返した。
「元気でやってるか?」
「うん……って、三日前にも会ったでしょ」
「それは卒業式のときだろ〜。それからの梨乃っぺは元気でやってるかなってな」
「私は元気だよ〜。高校の準備とかで忙しい日々を送ってるよ」
「そっか」
「俊介君は?」
「俺? 俺は……梨乃と同じ、かな。後は引越しの準備とか。お陰でもう家の中は空っぽだ。これじゃ泥棒だって裸足で逃げ出すよ」
「うふふふっ、そうかもね」
ニッコリ笑う梨乃。
でも、その笑顔はどこか寂しそうだった。
「何もないんじゃ……どうしようもないよね」
「梨乃……」
「………………」
「………………」
「ねぇ、俊介君」
「ん?」
「少し、歩こっか」
「あ、あぁ」
公園のすぐ側の、堤防に沿った道を二人で歩いてく。
傾きつつある太陽が、オレンジ色に輝いていた。
二人の影が長く延びていく…。
「あっという間だったね。俊介君と出会ってからの時間は」
「そう、だな。俺もそう思う」
「私、出会った時のことを今でもはっきり覚えてるよ。確か、こんな感じだったよね?」
そういうと、梨乃が反対側をむいてしまった。
何のことかと思ったけど、すぐに意味を理解すると俊介が声をかけた。
「どうか……したのか?」
そういうと、梨乃がゆっくりと振り返る。
うん、こんな感じだった。と言って。
「それから、名前で呼ぶようになって、たくさん話して、夏休みは遊んだりもしたよね」
「あぁ」
「楽しかった毎日、これからも続くと思ってたのに…………もう、終わっちゃうんだね」
「………………」
「私、忘れないよ。今まで過ごしてきた日のことを。俊介君と出会った時からの事を。何よりも、大切な思い出だから……胸の中に、しっかりと…しまっておくんだ」
少しずつ、涙声になっていく梨乃。
「だから………だから、俊介君も忘れないでね…」
「もちろん、忘れるわけないさ」
「ありがとぅ……俊介君……」
すると、梨乃が俊介をぎゅっと抱きしめた。
「り、梨乃?」
そして、抱きしめられたかと思えば、梨乃の顔が近づいてきて……
少しの間繋がる二つの陰。
それは一瞬だったのか、それとも長い時間だったのか……。
「……最後の思いで、かな」
「……お、おぅ」
「ゴメンね、急にしちゃって。でも、なんだかすっごく……キスしたいって思ったから…」
すると、どこからか音楽が鳴り響いてきた。
慌てて俊介がポケットをまさぐると、ハッキリとした音と共に姿を現した。
「……時間、みたいだ」
「俊介君、携帯電話買ったんだ」
「あぁ、高校入るからって、買ってもらえた」
「そっか……もう、行くの?」
「うん。発つから帰ってこいって」
「いよいよ、さよならだね」
「……いや、さよならじゃないさ」
「えっ?」
どうして、と思っていると、ニッコリ笑った俊介が言った。
「さよならって言うのは、もう会えないときの事を言うんだろ? でも、俺たちは離れはするけど会えないわけじゃない。会おうと思えばいつだって会えるさ!」
「俊介君……」
「だから……そうだな。“行って来ます”」
「えっ…?」
「だから、さよならじゃなくて、行って来ます」
「…………うん。“行ってらっしゃい”俊介君」
「おう! じゃあ、また…」
「うん。またね……」
最後にきゅっと握手を交わすと、俊介は家へと帰っていった。
その場に残った梨乃は、ふっと空を見上げた。
頬から流れた雫が一粒、風にふかれてキラキラと飛んでいく…。
「……行っちゃった……」
誰に言うとでもなく、一人呟いた。
「また、会おうね。俊介君……」
それに呼応するかのように、この時空に一番星が輝いた。
いつかこの時風がふく――――
おわり
友人とも笑顔で別れて、それぞれの道へと進んでいく。
家のほうも、すでに生活必需品を除いた家具や小道具などは向こうへと運んでいってしまってるため、家の中は随分ガランとして寂しいさも漂っていた。
そして、いよいよ明日はこの地を離れる身となる。
ここから見える景色も今日限り。
また見えるはいつの日か。
そんな思いが頭をよぎっていった。
「俊介〜、電話よ〜」
それは突然の電話だった。
下へ降りて受話器を受け取ると、相手が誰なのかがすぐに分かった。
「……梨乃?」
「こんばんは。ごめんね、夜遅くに」
「いや、全然そんな事ないさ。で、どうしたんだ?」
「うん……俊介君、明日引っ越しちゃうんだよね」
「あ、あぁ……」
ここを発つ日が決まったことを、俊介は一番に梨乃に話した。
あの日、涙を流した梨乃のことが頭から離れなかったから。
「もう荷造りとかはしちゃったの?」
「うん。全部終わって後は明日運ぶだけだ」
「そっか……じゃあ、明日、時間あるかな?」
「え、明日か? まぁ行くのが夕方だから時間はあるけど……」
「少し、お話したい。…ダメかな?」
「いやいや、そんな事ないさ。俺も梨乃と話したいし。だから全然オッケーだ。じゃあどうする、俺が梨乃の家に行くか?」
「ううん、それは悪いからいいよ。 公園は、どうかな? 川がすぐ近くにある所の」
「あそこか? 了解。じゃあその公園で」
「うん。それじゃあ……明日ね」
そっと受話器を置いて、また自分の部屋へと戻っていく。
元から家具の少ない部屋でも、今では今日だけのための布団があるだけ。
他は向こうに送ってある。
寂しい限り……なんだかそんな感じがする。
パチンと電気を消して、その布団に横になった。
目を閉じれば、いろんな事が浮かんでくる。
どれも自分にとって大切な思い出だ。
「いよいよ、明日か……」
そんな事を考えながら、俊介は眠りへと落ちていくのだった。
そして、引越し当日の日がやってきた……
「ちょっと出かけてくるわ」
家に残った最後の家具を、引越し業者のトラックが運んでいった。
父親も向こうの家に運び込むために一緒に行ってしまい、母親と姉と俊介の三人が父が迎えに来るまで待ってる状態。
もう何もすることは残ってない。
「どこ行くの?」
そういうのは姉のひかりだ。
「ちょっと、川辺の公園まで」
「もうすぐお父さん帰ってくるよ〜?」
「それは分かってるよ。行く時になったらこの携帯に電話なりメールなりしてや。せっかく買ってもらったんだから活用しないと」
高校生になるに当たって、買ってもらった携帯電話。
家族以外は誰も入ってないから他から掛かってくることもない。
その電話も、高校生活が始まればアドレスが埋まっていくことだろう。
「じゃ、行ってくるよ」
「気をつけてね」
「おうさ」
外に出て、歩きながら自分の家をひと目見渡す。
明日見るは新しい家。
この家とも今日でお別れ……
ありがとうと心の中で呟くと、待ち合わせ場所である公園へと歩いていった。
家から歩いて10分くらいのところにある公園は、人気も少なくてどこか寂しげだった。
その一角に立っている女の子。
長い髪の毛を風になびかせながら、誰かが来るのを待っていた。
「あっ……俊介君」
「いよっ」
こちらを見た梨乃がふっと微笑む。
俊介も笑顔で返した。
「元気でやってるか?」
「うん……って、三日前にも会ったでしょ」
「それは卒業式のときだろ〜。それからの梨乃っぺは元気でやってるかなってな」
「私は元気だよ〜。高校の準備とかで忙しい日々を送ってるよ」
「そっか」
「俊介君は?」
「俺? 俺は……梨乃と同じ、かな。後は引越しの準備とか。お陰でもう家の中は空っぽだ。これじゃ泥棒だって裸足で逃げ出すよ」
「うふふふっ、そうかもね」
ニッコリ笑う梨乃。
でも、その笑顔はどこか寂しそうだった。
「何もないんじゃ……どうしようもないよね」
「梨乃……」
「………………」
「………………」
「ねぇ、俊介君」
「ん?」
「少し、歩こっか」
「あ、あぁ」
公園のすぐ側の、堤防に沿った道を二人で歩いてく。
傾きつつある太陽が、オレンジ色に輝いていた。
二人の影が長く延びていく…。
「あっという間だったね。俊介君と出会ってからの時間は」
「そう、だな。俺もそう思う」
「私、出会った時のことを今でもはっきり覚えてるよ。確か、こんな感じだったよね?」
そういうと、梨乃が反対側をむいてしまった。
何のことかと思ったけど、すぐに意味を理解すると俊介が声をかけた。
「どうか……したのか?」
そういうと、梨乃がゆっくりと振り返る。
うん、こんな感じだった。と言って。
「それから、名前で呼ぶようになって、たくさん話して、夏休みは遊んだりもしたよね」
「あぁ」
「楽しかった毎日、これからも続くと思ってたのに…………もう、終わっちゃうんだね」
「………………」
「私、忘れないよ。今まで過ごしてきた日のことを。俊介君と出会った時からの事を。何よりも、大切な思い出だから……胸の中に、しっかりと…しまっておくんだ」
少しずつ、涙声になっていく梨乃。
「だから………だから、俊介君も忘れないでね…」
「もちろん、忘れるわけないさ」
「ありがとぅ……俊介君……」
すると、梨乃が俊介をぎゅっと抱きしめた。
「り、梨乃?」
そして、抱きしめられたかと思えば、梨乃の顔が近づいてきて……
少しの間繋がる二つの陰。
それは一瞬だったのか、それとも長い時間だったのか……。
「……最後の思いで、かな」
「……お、おぅ」
「ゴメンね、急にしちゃって。でも、なんだかすっごく……キスしたいって思ったから…」
すると、どこからか音楽が鳴り響いてきた。
慌てて俊介がポケットをまさぐると、ハッキリとした音と共に姿を現した。
「……時間、みたいだ」
「俊介君、携帯電話買ったんだ」
「あぁ、高校入るからって、買ってもらえた」
「そっか……もう、行くの?」
「うん。発つから帰ってこいって」
「いよいよ、さよならだね」
「……いや、さよならじゃないさ」
「えっ?」
どうして、と思っていると、ニッコリ笑った俊介が言った。
「さよならって言うのは、もう会えないときの事を言うんだろ? でも、俺たちは離れはするけど会えないわけじゃない。会おうと思えばいつだって会えるさ!」
「俊介君……」
「だから……そうだな。“行って来ます”」
「えっ…?」
「だから、さよならじゃなくて、行って来ます」
「…………うん。“行ってらっしゃい”俊介君」
「おう! じゃあ、また…」
「うん。またね……」
最後にきゅっと握手を交わすと、俊介は家へと帰っていった。
その場に残った梨乃は、ふっと空を見上げた。
頬から流れた雫が一粒、風にふかれてキラキラと飛んでいく…。
「……行っちゃった……」
誰に言うとでもなく、一人呟いた。
「また、会おうね。俊介君……」
それに呼応するかのように、この時空に一番星が輝いた。
いつかこの時風がふく――――
おわり
も ど る