時は流れる。何処までも。

受験勉強に追われた2学期も過ぎていき、年も明け、滑り止めとして受けた試験も無事に通過。

後は本番を迎えるだけ。すべては順調だった。そう、ここまでは――――








::〜2月14日の発覚〜::










「じゃあな、梨乃」

「うん。また明日ね」


いつもの曲がり角で梨乃と別れた俊介。

家に帰ると、いつもより靴が一つ多い。

珍しく父親が早く帰ってきたようだ。

リビングからいろいろ話す声が聞こえてくる。


「ただ〜ま」

「おかえり。俊介」

「父さん、今日は早いんだな」

「あぁ…ちょっとね」

「?」


何かワケありな感じの答えかた。

どうしたというのだろう?


「あ、先に言っておくけどリストラとかそんなんじゃないからな」

「何故俺が思ったことが分かる……」

「顔に出てたぞ」

「げ」

「はいはい。俊ちゃんもそこで立ってないで着替えてらっしゃい。ドア開けっ放しだと寒いから」

「了解〜」


階段を上って自分の部屋に行こうとしたときに、開いたドアの隙間から姉であるひかりの部屋が見えた。

ちょうどひかりも着替えてるところで、制服のブラウスを……


「いやいやいやいやいや」


思わず立ち止まってしまいそうになるのをぐっとこらえて、そのまま自分の部屋へと入った。

千堂俊介 ちょっぴり初心な瞬間でもあった。


そして、夕飯の時…。

父親が何故ワケありな答え方をしたのかが判明する……。


「ちょっとみんなに言わなければいけないことがあるんだ」

「ん、どうしたのお父さん?」

「実は……仕事の都合で転勤する事になったんだ」

「えっ…?」

「転勤なの? お父さん」

「うん。それで、場所柄僕だけ単身赴任ってわけにもいかなくて……すまん」

「と、言うことは……?」


俊介が何か嫌な予感が走った。

そして、それは杞憂となることなく――


「…引っ越す事になる」

「えぇーッ!?」


そ、そんな……

最も恐れていた事が現実になった。

引っ越す、それつまりこの地を離れるという事。

テレビなどでよくサヨナラ〜と手を振りながら車で去っていくシーンなどがあるアレだ。

それが今、自分達に当てはめられた。


「すまない。仕事の都合で急に決まってしまったんだ」

「そ、そんなぁ……」

「ひかりも高校二年になるのに、新しい学校の編入試験受けないといけなくなるけど大丈夫かい?」

「う、うん。大丈夫だけど……でも、せっかく仲良くなれたお友達と別れるのはちょっと残念だよ〜」

「本当にすまない。出来る事なら僕一人でだったらよかったんだけど……仕事の事とは言え、みんなを巻き込んでしまって申し訳ない」


申し訳なく頭を下げる父親。

責めたくても責められない。

父親を責めても何の意味にもならない。

やり場のない何とも言い難い感情が俊介を駆け巡った。


「(梨乃……)」


同時に、梨乃のことが頭に浮かんだ。

一緒の高校に行こうと約束した事が、果たされなくなってしまう事……。


翌日…。


「はぁ……」


朝の学校。

幸いまだ梨乃は来てない。

けど、来た時になんて話そう?

普通に話すか、それとも静かに話すか、それとも……


「(黙っておくべきだろうか…)」


一瞬、そういう考えも浮かんだけど、すぐに消し去った。

そんな事して何になる。

梨乃が悲しむだけだろうに。

けれど、話してもやっぱり梨乃は……

胸中は穏やかじゃなかった。

そんな事を考えてる間に、教室のドアが開いて梨乃が入ってきた。

当然、何も知らない梨乃は俊介を見つけると笑顔でやってきた。

…今はそれだけでも申し訳なさで一杯になってしまう。


「おはよう、俊介君」

「…………おぉ〜」

「あ、あれ? 元気ないね」

「ま、まぁ……いろいろあってさ。うん」

「相談事なら、力及ばずでも、乗るよ?」

「いや、相談ごととかじゃなくてさ。むしろ言わなきゃいけない事、かもな」

「言わなきゃいけない事?」

「うん……」

「先生とかに?」


俊介は小さく首を振ってから、少しだけ間を置いて呟いた。


「梨乃に、さ……」

「えっ……わたし?」


その時、梨乃の胸の中に何かが浮かび上がってきた。

まだ聞いてないのに、心臓がドキドキ言い出してる。

不安感というかなんと言うか……とにかく、あまり良くないことが起こるんじゃないだろうか?

そんな思いが。

そして、それは空振りになることなく訪れるのであった。




「実はさ、俺……」


時は過ぎて放課後。

お互いいろんな思いが渦巻いていた。

俊介は、いかに梨乃に言うかを。

梨乃は、俊介が何を言うのかを。

「…………引越し、する事になった」

「……えっ? 引越し…?」

「…うん」

「そ、それって…まさか……俊介君、も?」


何も言わずに、ただ頷くだけの俊介。


「そんな…いきなり、いきなりすぎるよ」

「俺だって、そう思ったよ。聞かされたのが……昨日なんだから。受験を間近に控えて、いきなり引越しなんて誰も想像できる訳ない」

「俊介君、受験校はどうするの? 変えちゃうの?」

「ここから近かったら変える気はないさ。でも……電車で片道二時間も掛かる所からじゃ……変えざるを得ないさ」

「………………」

「………………」


言葉が続かずに、どこか気まずい空間が辺りを支配し始めた。


「…………り、梨乃」

「…しょうが、ないよね?」

「えっ?」

「しょうがないよね。家の事情だもの……俊介君は、何も悪くないよ」

「梨乃……」

「別に、俊介君ともう会えなくなっちゃうわけじゃないもの。だからわたしは、悲しくは……悲しくなんかは、ないよ!」


そう言う梨乃の目から、夕日を浴びてキラリと輝く何かが零れ落ちていった。

零れ落ちるのを拭おうともしないで、ただじっと俊介を見つめてる。

その光景は、俊介には痛いほど辛いものだった。

心の中に刻まれる哀しい思い出として……











も ど る