総太さん…また、きっと逢えますから…………


Farewell……1




 そして運命の日が、始まりを告げた……


「ぅ……んん……」

 うっすらと目を開けると、まず見えるは真っ暗な天井。
 なんだ、まだ夜が明けてないのか?
 そのままカーテンがある方へ目を向けてみると、ホンの薄っすらとだけど明るい気がする。
 どうやら夜明け前に目が覚めたようだ。
 なんだろうな。こんな早くに目が覚めるなんて。
 昨日御菜と昼寝したからかな。
 でも御菜はまだ寝てるし。
 ふぁ〜ぁ………さて、どうしたものかな。

「(もう一回寝れるかな……?)」

 一人で起きるのもアレだし、かと言って御菜を起こすのも気が引ける。
 こういう時は二度寝だな。
 あと2時間くらいだけど、その2時間を満喫しますかぁ。
 お休みなさい……

 ………………

 夕暮れ時。
 俺は一人で歩いてる。
 何処かの木でセミが鳴いている。そんな夏休み前のある夕方。
 俺は俺のはずなのに、何でか身体が勝手に動いてる。
 まるで、自分視点の映像のように。
 俺はただ俺の見える範囲を見ることしか出来ない。
 見るだけで、他は何も……
 手も足も、まるで自動運転みたいに勝手に動いてる。
 でも、その足取りはどこか危なげ。
 ふらふらしてて、見れるだけの俺としては何ともイヤだ。
 それでも何とか家にたどり着く。
 何故か玄関の前でボーっと突っ立ってる俺。
 玄関から部屋を見渡してる。
 そしてしばらくしてからゆっくりと前に歩き出した。
 居間の真ん中に着いたところでまたも止まる。
 夕焼けで、部屋がオレンジ色に包まれてる。
 あれ、この光景どこかで…………  と、急に視界が揺らいだ。
 まるで泣いてるかのように……え?
 俺、泣いてるのか?
 何で泣いてるんだよ。それにどうして、何度もこの光景を見るんだよ!
 そして何故だ。何故御菜は出てこないんだ!
 御菜、御菜は何処に……ッ。
 ガクッと崩れ落ちる俺。
 膝と両手を床につけて、俺は泣き崩れていた。
 涙が、後から後から溢れてくる。
 御菜、御菜……!

 ………………

「………たさん、……うたさん」
「ッ!!」

 気がつくと、目の前に御菜がいた。
 とても心配そうな顔で、俺を覗き込んでる。

「総太さん、大丈夫ですか? ひどくうなされてたみたいですけど……」
「あ、あぁ……なんとか……」
「悪い夢でも見ましたか?」
「よ、よく分からないけど、たぶん……そう、みたい」

 そう、今のは夢だった。
 夢だったはずなのに、どういうわけか今になって心が苦しくなってきた。
 心臓の鼓動が早くなる…。
 これは……今のは、夢、夢なんだろ?
 どうして夢なのにこんなに現実味があるんだ?
 なぁ、一体どうなってるんだよ。
 最近見る同じ夢。これは一体なんなんだよ。

「はぁ……はぁ……」
「総太さん……」

 きゅっ…

 御菜がそっと、俺を胸に抱き寄せる。
 されるがままになってる俺は、頭を抱きかかえられたままの姿勢。
 トクン、トクン、トクン……
 御菜の鼓動を感じる。
 やさしく、一定のリズムで刻む心臓の鼓動。
 不思議と、俺の心が落ち着いていく。
 俺の心が柔らかな何かに包み込まれるかのように。

「落ち着き、ましたか」
「……う、うん……」
「そうですか……良かったぁ」

 そう言って、抱きしめる力をほんの少しだけ強くした。
 いつもなら恥ずかしくなるというか、顔が真っ赤になるだろう状態でも、今日はそんな気持ちにはならなかった。
 それよりも、もう少しこのままでいたいと思うくらい、とても心が和らいでいた。
 心の底から暖まるというか、ポカポカしてくるというか。
 自然と暖かい気持ちになれた。

「私、とっても心配しました。総太さんが、とても辛そうだったので……」
「うん、ゴメン…………」
「でも…こうしているととても落ち着きます。心配が、飛んでいってしまうくらいに」
「御菜……」
「もう少しだけ、このままでいてもいいですか?」
「…………あぁ」



 気がつけば、もうすっかり夜は明けていて、またいつもと同じ朝がやってきた。
 制服に着替えて、愛用のエプロンを身に着けた御菜が台所へと向かう。
 一方の俺は今のうちに歯磨きとか顔を洗うとかしてる。
 鏡に映る俺の顔は、どこか疲れてるようにも見えた。
 ……朝からヘンな夢見た所為か?
 でも、詳しくは思い出せないけど、あの夢……ここの所毎日のように見てる気がする。
 うなされて目が覚めるのは時々しかないけど、あの夢は……。
 一体なんだろうな?
 俺は水道の水が出っぱなしなのを忘れたまま、洗面台に両手を突いて考え込んでしまっていた。
 ジャーという水の流れる音を頭の隅で聞きながら……。
 しばらくして、それに他の音が混じった。

「総太さん。水が流れたままですよ。総太さんってば〜」
「……えっ?」

 慌てて振り返ると、お玉を持った御菜が困った顔をしてる。
 そこであっと気がついて……。
 慌てて蛇口を捻った。

「ごめんごめん。ついボーっとしてた」
「朝の夢のことを考えていたんですか?」
「ん、まぁ……」
「あまり思いつめないでくださいね。私、総太さんが苦しんでる姿を見るの、イヤです……」
「御菜……そうだよな。たかが夢のことだし。ヘンに考えて今が見えなくなったら大変だ。御菜にも迷惑掛けられないし。うん。もう考えないことにする」

 ホッとしたような御菜の顔。
 確かに、御菜に迷惑は掛けたくない。
 俺も、御菜の困った顔とか悲しい顔とか見たくないし。
 いろいろ考えたところで……夢は夢、だよな?
 なんか奥の方で引っかかるのがあるけど、まぁいいか。

 ぐうぅぅ〜……。

 その考えを待っていましたといわんばかりに、腹の虫が絶妙なタイミングで音を立てた。

「あ、あははは……まぁ朝だし」
「もう少しで出来ますから、ちょっとだけ待っててくださいね」
「おぅ。今日も朝飯が楽しみだ」
「ふふっ。毎日心を込めて作っていますからね。私も張り切っちゃいます」

 そう言って、笑顔でまた台所へと戻っていった。
 そうそう。朝はこんな感じに元気で行かないと!
 一日が腐っちまう。
 さっきの事も夢のことも、今はさっぱり洗い流すか。
 蛇口を勢いよく捻って、気分の入れ替えもこめて顔を洗った。
 寝起きにコレは、たまらなく効果バツグンだ。

「総太さ〜ん。ご飯出来ました〜」

 と、顔を洗い終わったところでちょうどよく御菜の声が掛かった。

「ん〜、いま行く」

 さぁ、朝ごはんだ。



つづくっ!


N e x t T o p