天使のゆびきり 〜夏は夜。枕は一つで……?〜




『ただいま〜』

 御菜と声が重なりながら部屋へと戻ると、テーブルの上に並べられた料理をじっと見つめながら待つ彩音を発見。
 今にも唸り声を上げそうなほどじっと見つめながら体育座りをするその姿は……なんだろうな。

「おっそ〜い」
「いやいや。それほど時間は経ってないぞ?」
「なんでまだ太陽が出てるときにお風呂上がったのに、今はもう沈んでるの? 時間が経ちすぎよ」
「ま、まぁ少しは待たせちゃったかな……?」
「少しじゃな〜い。一体どれくらいお茶飲んでたの?」
「お茶自体は一杯だけだよな。その後は御菜と……ゆ、夕日を見てたんだよ。空の上から。な、なぁ?」
「はぃ……そうです」

 さっきのことを思い出してか、お互いどぎまぎしてしまう。
 恥ずかしいって言うか何ていうか……顔が熱くなってきた。
 それを見た彩音は何事かと不思議そうにしてる。
 まーさか、さっきのことは言えないって。

「さっきのこと? なんかあったわけ?」
「えぇっ!? いやー何もないって。ただ空に行ってただけだ」
「えーでも、総太さん今さっきの事って……」
「気にするな気にするな。……お、美味そうな料理だな。ちょうどお腹空いてたんだ。御菜、食べようか」
「そっそうですね。時間も頃合ですし、お料理が冷める前にお夕飯にしましょうか」

 妙に慌てながら座椅子に座る。
 その慌てながらかつ寸分の隙のない行動は、更に彩音に疑問を持たせるが……

「御菜、お箸逆に持ってるよ」
「えっ? あぁっいけないいけない。ま、間違えちゃいました……」
「御菜〜しっかりしろよ〜」
「そ、そうですよねぇ。わ私なにやってんだろう」
「……ホント、なんだっての? この展開?」
「じゃ、じゃあ早速食べようか〜!」

 そんなこんなで夕飯。
 昼のおにぎりを除けば、とても久しぶりな外食って事になるだろうな。
 いつもは御菜が作ってくれてたし。
 たまにはこう言うのもいいんじゃな〜い?

「うま〜」
「やっぱり、こういう所のお料理は美味しいですね。お魚とか、とても新鮮なんでしょうね」
「だろうな〜。さっき歩いてた時も見つけてたけど、さすがって感じだよ」
「私もこれくらいのお料理を作りたいですね」
「いやぁ御菜は十分に上手だよ。これ以上上手くなったら世界中の料理人が尻尾巻いて逃げちまう」
「うふふふふっありがとうございます総太さん。総太さんのためにも、これからももっと頑張りますねっ」
「あぁ。ん〜俺はすげぇ幸せモノだな」
「総太さん、涎たれてる」
「うっそ!?」
「嘘」
「がくっ……あ、彩音よぉ」
「にひひひ。してやったりぃ」

 ブィッとピースサインを出された。
 御菜もとなりで笑ってる。
 あいや、これはまた一本取られたわけで……しかも彩音に。
 悔しいってばこの上ない。

「どういう意味よ」
「いやー、全然意味はない」
「むー、素直じゃないなぁ」
「気にするな」
「うふふっ」

 俺と彩音の会話を聞いて御菜は笑ってる。
 なんかあれだな。やっぱり結局はいつもどおりの流れになるわけだ。
 場所はどうあれ、俺たちって変わらないってか。
 まぁこれはこれでいい事だな!
 それからも、賑やかに談笑しながら旅館での夕食は穏やかに流れていった。

「うぃ〜。食った食った」

 そして夕食後。
 食器類を片付けてもらって、少し一息。
 この後はどうするかな。
 お腹が落ち着いたらもう一回温泉入ってこようかな。

「二人はどうする? 少ししたらまた温泉行くか?」
「温泉? ん〜私はいいや。さっき入ったし。また御菜に膨れられると大変だし」
「あ、彩音ぇ〜」
「まぁそれは冗談として、私は部屋にいるよ」
「そっか。んじゃ御菜はどうする?」
「私は……もう一回、入ってこようかな。彩音、一人で大丈夫?」
「こら、私をなんだと思ってるんじゃい」
「彩音」
「当たり前だよ。まったくもぅ……最近御菜が主婦化が進んでると共に総太さんに汚染されてる気がするよ……」
「そ、そぅかな……?」
「汚染とは何だ汚染とは。俺は公害かい」
「私の御菜を返せ〜」
「私は、総太さんのものですよ?」
「み、御菜…」
「が〜ん……姉に捨てられた……」

 オーバーなリアクションのまま座椅子を倒して寝転がった。
 さっきもやってたし……彩音、それ好きだな。

「……んじゃ、彩音は部屋にいるんだな?」
「い〜ま〜す」

 まるでいってらっしゃいといわんばかりに、寝転がりながら手をヒラヒラと振った。

「旅行の醍醐味っていったら、やっぱこれだもんなぁ」
「うふふ。総太さん、温泉好きなんですか?」
「ん、そりゃあもう。嫌いなわけないだろう〜」

 なんて話ををしながら下りていって、また入り口で別れた。
 じつはこの時一枚張り紙がしてあったのだが、何か張ってあるな程度であまり気にも留めなかった。
 そして留めなかった結果が…………

「あいや〜……さっきと同じく極楽ごくらくぅ〜」

 さっと身体を流してから、熱めのお湯に身体を沈める。
 今度来たところは露天風呂。
 夜空が綺麗に見えること。
 こんなに綺麗に見えるのに、時間的に結構人で賑わっても良さそうなのに、どういう訳か一人もいなかった。
 脱衣所からここから、まったくの人気なし。
 完全に俺一人で占領してる。
 何ていうか、ラッキー?

「ま、またにはこう言うのもアリってか?」

 そう言いながらう〜んと身体を伸ばした時だった。
 カラカラカラ……と戸の開く音。
 ん、誰か来たのか。
 独り占めもここまでかなぁ。
 さてさて、一体どんな人が来たのかと思えば………………?

「あ?」
「えっ……?」

 ばっちり目が合った。
 それはもう、計算してやったんじゃないかってくらいに。
 お互いそのまましばらくフリーズ。
 そりゃそうだよな。
 だってなんだって男湯に御菜が……………みな?

「って、御菜!?」
「そ、総太さん!?」

 しばしの時間を置いて、二人して大きな声を上げた。
 な、なななななななんで御菜がいる?!

「えっ、そんな……ど…えぇっ?!」

 俺、完全にパニック状態。
 もう自分で何言ってるのかすら把握できてない気がする。
 いくら御菜とはいつも風呂一緒だからといって、こんなところでも……
 まぁ今回も身体にタイルは巻いてあったさ。
 巻いてなかったらもっと驚いてたろうに…。

「ど、どうなってるんでしょう…? 私、ヘンな所通ってきちゃったのかなぁ?」
「い、いやいやいや。それだったら俺にも……って、そんなのあるかよ。普通に戸開けて来たんだぞ」
「わ、私もです……」
「………………」
「………………」

 お互い、言葉も発せずに黙ってしまう…。
 俺は驚いたまま。
 御菜も同じく立ちすくんだまま……

 だから、どうしようもないのだ。

「み、みな……そのままだと、寒いだろ? 中……入れよ」
「あっ……は、はぃ……おじゃま、します」

 胸元に手を当てたまま、御菜がゆっくりと入ってくる。
 そしてそのまま俺の隣へと……
 これに関してはいつもの事だから特に何も感じないけど……場所が場所だから少しだけ緊張してる。

「や、やっぱり御菜って、風呂入る時は髪の毛ゴムで縛ってるよな」
「え、えぇ……そのままだと広がっちゃいますからね。わたし、髪の毛長いのでこうしてゴムで纏め上げてるんです」
「つくづく思うんだけどさ、いつもと違うから何か、新鮮」
「そ、そうですか?」
「あぁ…………」
「それなら……普段もこんな髪型にしてみようかな?」
「いいんじゃないか。似合ってるし」
「ありがとうございます。総太さん」

 気がつけば、最初こそ緊張と言うか動揺してたものの、いつのまにか普通に戻っていた。
 今じゃまるでいつもの風呂場で話してるような会話だ。
 こんな時に言うものじゃないけど、慣れって、恐ろしいよな。ほんと。
 お湯に浸かってない肩を御菜とくっ付けて、二人並んで温泉を堪能してるんだから。

「星がとても綺麗……」

 空を見上げながら言う御菜に、そうだな、と呟いた。

「このお星様も、お月様も、まるで二人占めしてるみたいですね」
「うん。俺もそう思うよ。御菜と俺で、二人占めだ」

 しばらく星を見上げてから、ふと御菜の方に目を向けてみた。
 今も星を見つめてる御菜。
 お湯に浸かってないところから見える白い肌。
 そして真っ白なタオル……って。
 御菜……これはいかんて。

「み、御菜」
「なんですか?」
「彩音とさっき入ったときも、タオル巻いたまま入ったのか?」
「えっ? ………あっ」

 空から自分の身体へと向き直って、御菜は、あはは……と小さく声を漏らした。
 忘れてたみたいだ。

「す、すいません。さっきの事があったものですから、忘れてたみたいです……」
「ま、まぁそれは……しょうがないよな。うん。アレで驚かない方が怖いって」
「でも、総太さん」
「ん?」
「タオルとっちゃってもいいんですか?」
「いいもなにも、ここ一応他の人も使うわけだし……まぁそれに、とっても見えないし、ね?」

 そう言ってお湯をすくう。
 手から零れ落ちる乳白色の温泉。
 そう、ここは色がついてるのだ。
 お湯の中は濁ってて見えない。
 だから、俺がタオルをとっても問題ないといったわけ。
 もしこれが中の温泉だったら、きっと誰もいないから問題ないよ!って言ってたかもしれない。
 ……小心者って言わないで。

「私は別に見えてもいいんですけど……」
「み、御菜……その発言はちょっとキケン……」
「じゃあ、取っちゃいます」

 御菜が胸元に手をかけて、そっと手を広げた。
 そのままタオルをお湯から出して、淵へと置いた。
 これで……お互い完全に全裸の状態ってワケ、ですな……ハイ。
 俺だって、頭に乗っけてるタオルが唯一の衣だ。
 まぁなぁに。気にするな気にするな。もうこうなったらなるようになれ、だ!

「はぁ、気持ちいい……温泉って、いいですねぇ」

 御菜がほっと息をつく。
 確かに、俺も気持ちいいわ〜。
 なんか時間が経つのを忘れそうなくらい…………
 もし布団に入って寝るのと風呂に入るの、どっちが幸せかって聞かれたら、答えられなそうだなぁ。

「なー御菜〜」
「なんですか?」
「御菜だったらさ〜、布団と風呂、どっちが幸せに感じるか〜?」
「え、お布団とお風呂……ですか?」
「あぁ。正確にはどっちに入ってるときが幸せって感じる?」
「うーん、これはなかなか難しい質問ですね……どちらも比べられないような気もしますが……うぅ〜ん」

 眉根にしわを寄せて考えてる。
 こんな表情も珍しいな。
 ちょっといたずらしてやれ。

「えい」
「ひゃっ……そ、総太さ〜ん」

 眉根の中心辺りを指で突付いてみた。
 御菜が困ったようなしぐさで俺をじっと見た。
 そして、考えてるんですよ〜って言いながら頬を膨らませた。
 彩音の言うとおり、御菜が頬を膨らませる。
 う〜む、これも初めてだ。

「もぅ、そうたさ〜ん」
「わるいわるい。ちょっと考えてる顔が可愛かったからってコトで。な」
「そんな事言われたら何も言い返せませんよ〜」

 そうは言いつつも、ポッと顔を赤らめた。
 言った後で俺も少し恥ずかしく…。
 温泉効果って言うのか?

「総太さんって、結構いじわるなんですね」
「えぇ〜そんな事ないって。俺はとっても優しいぞ」
「確かに優しいですけど、でも……」
「まぁちょっとからかうのは好きかもな。これも愛情表現の一つですな!」
「愛情表現、ですか?」
「もち。相手のことが好きだからこそやるんだぞ。俺は好きじゃない人にはやらないし」
「そうなんですか〜。じゃあ、私の事は好きだからやってるってコトですか?」
「そりゃもう。……って、何かめんと向かって好きって言うと恥ずかしいなコレ……ははは」
「総太さん」

 少し恥ずかしくて頬の下辺りをポリポリとかいてると、御菜が俺の名を呼んだ。
 そしてそのまま、俺の左腕に自分の腕をからませた。
 ピタッと密着する二人の腕。
 御菜の柔肌が、直に伝わってきた。

「み、御菜?」
「私の、私なりの、愛情表現ですっ」

 そう言って俺の肩に頭を乗せる。
 まとめた髪の毛が、一部はらりと解けて肩を撫でる。
 俺、目を開いたまんま前方を直視。
 完全に、凍ってます……。
 あいや、これはまた……

「もう少しだけ、このままでいさせてもらえますか?」
「あ、あぁ……」
「ありがとうございます…」

 きゅっと御菜の腕に力が入った。
 絶対に離さないって言うかのように。
 俺は、腕から感じる御菜の柔らかさと、また違った部分の柔らかさを十二分に、痛いくらい感じていた。
 それは、温泉から上がる時まで……
 長く入りすぎた所為か、また少しだけのぼせた気がした。



「あれ?」

 しばらくして、上がってきたところで俺はさっき見かけた張り紙をまた見かけた。
 そういやなんて書いてあったんだろう……。

「なになに、ただ今の時間は露天風呂に限り……こ、混浴だって!?」

 なんと、露天で御菜と鉢合わせたのはこのせいだったのか!
 だからかどうかしらないけど、他の人がいなかったの、か?

「あっ総太さん」

 そしてちょうどよく御菜ものれんをくぐって出てきた。
 さっきの余韻なのか、するりと自分の腕を絡めてくる。

「どうかしたんですか?」
「いや〜、さっきのあれ。混浴だったんだと」
「そ、そうだったんですか?」
「だから会ったんだな〜」
「ですね〜。あ、でも」
「ん?」
「私は、とても嬉しかったですよ♪」

 ニッコリ笑って言う御菜。
 思わず顔が熱くなった。

「そ、そうか〜」
「はいっ」

 御菜が喜んでくれたなら、いいかな?
 俺たちは腕を組んだまま、部屋へと戻っていった。

「たで〜ま」
「戻りました〜」

 部屋に戻ると、いつの間にか布団が敷いてあって、彩音が暇をもてあそぶかのようにごろごろしてた。
 そのせいで巻いてる帯も緩んでるのか、もうすこしずれたら浴衣が肌蹴そうだ。

「彩音……なんちゅう格好してんだよ」
「えっち〜」
「うっさい」
「風邪引いちゃうよ。彩音」
「だって暇だったんだもん〜。二人ともずいぶん温泉入ってたね。よっぽど気に入ったと見えて」
「まぁな。堪能してきたよ。な、御菜」
「はいっ」
「それはよござんした〜。 ふぁあぁ〜……はふぅ。もう寝ようかな」
「彩音、もう寝るのか?」
「ん〜なんか眠い。もともと夜更かしとか苦手だし。それに寝てないのもあったからかなぁ」

 本当に眠たそうにして、大きな欠伸をする。

「まぁ疲れたなら早く寝るもいいだろ。気にせず寝てもいいぞ」
「うぃ〜……じゃあ先に寝る…………おや〜」

 布団に入ってしばらくもしないうちに、もう規則正しい寝息が聞こえてきた。
 もう寝ちまったのか。

「早いな」
「よっぽど疲れたんでしょうね。はしゃいでいましたし」
「まぁもうコレといってすることもないし。後は明日帰るだけかぁ。なんか、あっという間といえばあっという間だったな」
「えぇ。でも、とっても楽しかったです」
「旅行も、いいもんだな」
「はい。またしたいですね」
「さすがに自分達で行くとなるとお金が掛かるなぁ。またくじに頼るかな」

 隣同士、座椅子に座ってまたお茶を。
 その後も御菜と話をして、少し早いけど俺たちも寝ようという事になった。
 久しぶりに寝る布団ってやつだ。
 いつもはベットだし。
 和室にベットは……ヘンだよな。うん。

「お布団、三つありますね」
「あぁ……そりゃ俺たち三人で来たんだし」
「私は総太さんと一緒に寝るんだけどなぁ」
「ま、まじすか」
「いつも一緒に寝てるじゃありませんか〜」
「そりゃまぁ……今日、も?」
「はい」

 そしてまぁ……二人一緒の布団に入ったわけで……。
 偶然なのか狙ったのか、俺たちと彩音の間には御菜が寝るはずの布団。
 この空間はなに?
 まぁ、いいかぁ。

「やっぱもともと一人様なわけだし、少しだけ狭いな」
「そ、そうですね……でも、いつもより暖かいです」
「ま、まぁ……な」
「総太さん……」
「ん…?」
「お休みなさい」
「あぁ、お休み。御菜」

 そして夜は更けてゆく……
 寄り添うようにして眠る俺たちは、布団の中で繋いだお互いの手をしっかりと握り締めていた。


 ……ここは、何処だ?
 俺の部屋?
 いや、ここは間違いなく俺の部屋だ。
 俺は、また一人たっている…?
 またこの夢。
 一体、なんだって言うんだろう。
 どうしてこんなに同じ夢を何度も見るんだろう。
 そして、どうしてこんなにガランとしてるんだろう。
 ……なんで誰もいないんだろう。
 それに……何故俺は、こんなに涙を流しているんだろう……?
 悲しい…? 俺、悲しいのか?
 だからこんなに涙が出てるのか?
 誰か、誰か他に人は……
 御菜、御菜はどこにいるんだ?



 ――御菜…――――!!



「……うぅ……ん……」

 息苦しさを感じて、目が覚めた。
 真っ暗な部屋。
 カーテンの閉まった窓だけがうっすらと明るくなってる。
 ふと手に違和感を感じたので見てみると、しっかりと繋がっている俺と御菜の手が。
 そっか、繋いだまま寝たんだっけ。
 ちゃんと離れてないのを見ると、少し嬉しい。
 御菜の寝顔。どても幸せそうに寝ている。

「……みな……」

 そっと、寝ている彼女の髪の毛をすく。
 なんだかホッとする瞬間。
 御菜は、ちゃんと俺の側にいる。

「………………」

 あの夢、なんなんだろうな。
 そう何度も同じ夢って見ないだろう。
 でも、いつも同じ場所。同じ所から夢を見る。
 そして俺は、いつも涙を流していて……その傍らには御菜がいなかった。
 なんだろう、酷く心臓がバクバク言ってる。
 いやな予感。そう、例えられそうだ。
 ホント、なんだって言うんだろう。

「んっ……ぅたさん……」

 ぐいっ

「っと?」

 急に御菜が寝返りを打って、その拍子に繋いでた手が引っ張られた。
 俺が押し倒したかのような格好になったけど、何とか片腕で自分の身体を支えた……
 よ、よくやった俺。よくぞ御菜を潰さずに耐えた……ただ、非常にバランスが……。

「ふにゃ……そ……た、さん?」

 寝惚けてるのか、俺の名前を呼ぶとそのまま自分の下へ抱き寄せ……って、うわわ!

 ギュッ…

「(み、御菜?!)」

 寝ているときに帯が緩んだのか、浴衣が少し着崩れて胸元を晒す格好になってる。
 そして俺は、その胸元へと顔を……。
 こ、ここここれは大変にキケンな状態です。
 まずいです。あと少し浴衣が肌蹴たらモロ見えてしまいます。
 えぇ、お風呂以来です。
 離れようにも、寝てる御菜の力は意外と強く、自分では制御が利かない。
 完全に抱き寄せられたカタチで固められてる……

「………………」

 ど、どうしよう…?
 こんな所で彩音に見つかったら――――

「ん……ふぁ〜あぁぁ……くぅ。寝た寝た。起きるかな……って、え?」

 俺には見ることが出来ないけど、声の感じからして見つかったらしい。
 そりゃあそうだよな。寝返り打たれて反対側にいったあげく、俺が起きた時に布団はめくれちゃってるんだから……
 もうね、彩音には見え見え〜なんだな…。

「うわ、うわわ……御菜と総太さん、こんな所で……私いるのに」
「ち、違うっつの」

 頭抱きかかえられてて動かせないから、声だけ出して反論。
 しかし、それは更に悪い方向へと傾いた。

「あっ……ん……」

 俺が話したときに、吐息が御菜に掛かったらしい。
 もちろん場所は胸元。そこでくすぐったかったのか、御菜が普段出さないような喘ぐような声を上げたものだから……

「うわー。っていうかコレ、なんて言ったっけ。見せびらかし?」
「ち、違うっ。こ、これはだな……」
「ぅんっ……ぁっ……」
「うぎゃ〜」

 もうね、テンで話にならんのよ。
 彩音は両手で顔覆ってるけど、指はばっちり開いてるから隠したことになってない。
 俺は話せば話すほど、御菜を刺激(?)するから離せない。
 そして御菜は……。
 な、なんなんだよもう!
 こんな終わりかたってありなのか!?

「ありなんじゃないの〜? なんか私お邪魔虫とか?」

 誰か、誰か助けて……。

 帰る日の朝は、それはそれはとても波乱なスタートとなったのだった……
 ホント、ある意味も含めてたくさんの思い出が残った今回の旅行。
 楽しかったといえば、そりゃもう最高に。
 ただ最後のは…………まぁ、いいか。
 なんだかんだ言ったって、俺だって、嫌な気分じゃなかったし。
 ふんっどうせ俺は男ですよ〜だ。

 そして、どうにか開放された後に、何も知らないままに起きた当人御菜はというと……

「総太さん、どうかしたんですか? なんかとても疲れてるような顔をされてますけど……寝付けなかったんですか?」
「いや……そうじゃないよ。まぁ、いろいろあってね」
「くくくくくく…………っ」
「???」

 うん? と首を傾げた御菜がなんだかとても可愛らしく見えてしまったのでした……。

 結局、一日中彩音にからかわれながら過ごしたのだった。
 それはもう、家に着く時まで。
 いろいろあったけど、また…行きたいな。
 今度は……そうだな。御菜と二人で、とかね――――――



つづくッ!



…to be next chapter



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