天使のゆびきり 〜ひと時の平穏〜




 今日もまた静かな夜が訪れる。
 う〜む、彩音がいるのといないのとじゃとんでもなく違う。
 いちゃ困るってワケじゃないけど、こういう静かな空間も俺は好きだ。

「総太さん、お茶飲みますか?」
「おぅ、飲むぞ〜」

 湯飲みにお茶が注がれていく。
 もうすぐ夏だってのに熱いお茶だけど、こういうのもまたいいんだぜ?
 どっかの誰かがそう言ってた。
 こうやってゆっくりお茶をすすりながら、風呂上りの御菜と二人で落ち着く時間って言うのはなんとも贅沢だな。うん。
 ……あ、風呂は例によって例の如くだからこの際触れないでおくからなっ。

「ホッとするな」
「えぇ。しますね」
「風呂上りのまったり〜かな?」
「総太さん、なんだかお爺さんみたいですよ〜」
「ん、そうか……ちょっとマズイかもな」
「でも、私もこうして総太さんと一緒にいられる時間はとても嬉しいです。お茶も格段に美味しいですし」
「う、うむ…」

 なんの躊躇もなくそういい切る御菜がほんの少しだけ羨ましい。
 俺なんか恥ずかしくて言えないって。
 …小心者って言うな。

「明日は旅行だな」
「ですね〜。初めてだから楽しみです。どんな所なんでしょう?」
「あれ、御菜旅行って行った事ない?」
「あ、いえ。ここに来てから初めてのって事でですよ?」
「だよなぁ」
「……本当は、総太さんと二人で行きたかったなぁ」
「えっ?」

 思わず御菜の方を見つめてしまう。
 同じく見てる御菜。
 その瞳に写るはモチのロンで俺。
 な、なんだ……妙に吸い込まれそうなこの感覚。
 ひょっとして、本気、だったのかな。

「ま、まぁ旅行なんていつでも出来るし。ほ、ほら。もうすぐ夏休みだろ? その時にでも……ふっ二人で……な?」
「そうですね。まだまだ時間はありますよねっ。じゃあ、今回はこっちに来て初めて旅行って事で、ですっ」
「お、おぅ……」
「ふふっ。今からとても楽しみです♪ ……あ、そう言えば」
「ん、どした?」

 何かを思い出したかのように、同梱されてたパンフレットを見直す御菜。
 なんだ……?

「そ、総太さん……」
「ん〜?」
「大変です。道がわかりません……」
「……へ?」

 道が……分からない?

「行った事がない場所へは飛んでいけませんよ……」
「マジか?」
「はい……せめて地図があれば良かったんですが、あいにくこのパンフレットには周辺図しか載ってなくて……」

 なんだ、急に暗礁に乗り上げたか?
 しかも出発前夜に。
 ぴ〜んち。

「ど、どうしましょう……」
「な、なぁ御菜」
「はい……」
「飛ぶって言うのは、この間学校に遅刻しそうになったときにやった、あの一瞬で行くやつの事か?」
「え? ……えぇ、まぁその方が一瞬ですし」
「普通に飛んでいくってのはないの? ほら、よく漫画とかで飛んでるじゃん。びゅ〜って」
「………………」
「……………?」

 しばらく無言になる。
 そして、御菜が少しばかり目を見開いた。

「あっ……そうだった」
「へ?」
「そうですよね。別に一瞬で飛んでいかなくてもいいんですよね。普通に飛べばいいんですよね〜。今まで忘れてました☆」
「をぃ」
「あ、あははははは……」
「あっはっはっは〜………はぁ…」

 暗礁に乗ったかと思いきや、俺の何気ない一言で解決。
 つーかさ、飛べない俺が答えだしてどうするよ?
 普通逆じゃないの〜?
 さっきの、彩音といたときもそうだったけど……。
 御菜って結構ポケポケさん?
 いや、決して“ボケ”って意味じゃないくてな?
 天然系、なの…?

 かくして、その後の話で結界張りながら普通に飛んでいく案で決定。
 道案内は俺がするって事で。
 いや、俺も行った事はないけど、とにかく最寄の駅までいければあとはバスが出てるし。
 それくらいなら大丈夫だろう……たぶん。
 そういや、すげー当たり前な意見だけど、これが俺にとって初めての自力飛行経験って事になる。
 ……まぁ御菜と彩音が実際飛ばしてくれるから自力とは言い切れないんだけど。
 とにかく、生身で飛ぶのは初めて。
 当然だけどな!
 飛べたらもう人間じゃなかと。
 鳥さんの仲間入りですか?

「じゃあ、準備も終わったことだし、明日に備えてそろそろ寝るか〜」
「はい」
「特に御菜は明日は疲れるだろうし」
「まぁ、一応にも飛んでいきますからね。人間で言うと、自転車……を漕いでいくようなものでしょうか? とにかく運動するのと同じですね。やっぱり疲れます」
「どっか途中で休んでいくか?」
「距離次第、でしょうか」
「まっ明日その時になって考えるか」
「そうですね」

 ぬるくなって残ったお茶を一気に飲んで、そろそろ寝る時間。
 明日は一応早いぞ〜。

「んじゃ、俺が湯飲みを洗っておくよ」
「えっそんな、いいですよ〜」
「まぁまぁ、ここは俺に任せて。御菜は先に布団に入ってていいから」
「でも……」
「俺にも少しだけカッコ付けさせてくれよ。な?」
「総太さん……」

 こんなのでカッコは付かないんだけどね。
 でも、少しは御菜の負担を減らしてあげたいから。

「分かりました。では、お言葉に甘えて先にお布団に入らせて頂きますね」
「おうっ。俺もさっと洗って行くから」
「はいっ。それじゃ、総太さん………」

 ちゅっ…

「えっ…………あっ――――」

 頬に触れる柔らかな感触。
 しっとりとした御菜の唇がそっと触れた。

「お休みなさいっ♪」

 ニコッと微笑むと、御菜は布団へと向かっていった。
 一方残った俺はただただ唖然としてしまうわけで……
 俺……いま、御菜にキスされた…よな?
 そっと頬を触ってみると、まだ御菜の感触が残ってるようだった。

「が、頑張るかぁ!!」

 俺のやる気メーター全開を吹っ切れた!

 そんなこんなで、旅行出発前夜の夜は更けていく……



つづくッ!




…to be next chapter



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