天使のゆびきり 〜元気をだして〜




「………………」
「………………」

帰り道。
あれから目を覚ました御菜は、ずぅっと黙ったまま俯いてる。
まぁ、さっきの事とかあったばかりだからなぁ。そうなるのも分かる気がする。

「なぁ御菜。そんな気にするなって。御菜は、何一つも悪くないんだから」
「………………」
「俺だって無事だし、直撃したことには何とも思ってない。クラスの皆だって、御菜のことは特別何とも思ってないさ。そういうやつらなんだから、な?」
「…………それは、仮にそうかもしれませんが…」
「大丈夫だよ。生徒の同棲を認める担任と、他のクラスに広めないクラスメートだ。他には知られないし、さっきも言ったけどクラス内でも変化が起こるわけじゃない。御菜は今までどおりでいいんだよ」
「総太さん……」

仮にもなににも、もしそんな事があったら俺がどうにかしてやる。
そう心の中で言いながら、繋いでいる御菜の左手をギュッと強く握り締めた。
思いが通じたのか、しばらくして御菜からもきゅっと握り返してくれる。
俺は再び心の中でありがとうと呟いた。

「やっぱり、総太さんは優しいですね」
「おぅっ俺はいつだって優しいぞ」
「うふふっ……でも、バレちゃいましたね。私のこと」
「まぁ、うん」
「総太さん以外の方には見つからないようにしていたんですが……私の目の前であのような事があったので、つい我を忘れてしまって……」
「確かに、あの時の御菜はすごかった。威圧感って言うのを実感したよ」
「あと少しで『力』を出してしまうところでした」
「普段のとは比べ物にならなそうだったよな〜」
「加減次第では物が壊れてしまうので……」

そら穏やかじゃないな…。
無事に済んでよかった。

「それじゃあ、もしその『力』ってのを本気で使うとどうなるんだ?」
「……えっ?」
「あぁ、いや。言いにくいことなら言わなくていいよ。ただ、ちょっと気になっただけだから」

どうしたものか、って言いたそうな顔の御菜。
そんなに、まずい事なんだろうか。
だったら聞くのは止めようかな。

「……私も、実際使ったことがないので確実なことは言えないんですが……。前から聞かされてることが一つだけあります」
「聞かされてること?」
「はい……私たち天使が使う『力』って言うのは、言わば自分とイコールなんだそうです」
「え、イコール?」

なんか、よく分からないな。
つまるとこ、どう言う事だろう。

「『力』は自分自身の力の源です。ですから、その規模はそれぞれで異なってるんです。でも、共通してることが一つだけ……」

そこで一旦言葉が止まって、一呼吸置いたところで小さく言った。

「『力』を本気で使うと、存在が消滅してしまいます」
「…………えぇっ!?」

し、消滅…だって?

「それと同じく、『力』を使って時間を止めようとすることもタブーです。たとえ一瞬でも、それは本気で使うのと同じくらい消耗してしまいます」
「………………」

言葉が出なかった。
いつも便利そうだなぁと思っていたものが、実は命を危険に晒すものにもなるなんて……

「もう一つ、本気を使って消滅した後にも何かあるらしいのですが、それが何なのかは分かりません…」
「そう、か……」

なんだか、とんでもない事を聞いちゃった気がする。
まさかそんな事があるなんて思いもしなかった。
もし、もし御菜が何かの拍子に本気を出してしまったら……

「私も、消えてしまうでしょうね……」

イヤだ。
そんなの俺は嫌だ。
まだそんなに長い時間一緒にいたわけじゃないけど、御菜がいなくなってしまうのは考えられない。
ついこの間まで一人で家にいたのに、今では一人でいるのが寂しく思えそう。
傍らで、御菜が笑顔を向けてくれる。そんな生活が続いて欲しい。

「大丈夫ですよ。総太さん」

ギュッ…

いつの間にか立ち止まっていた俺を、御菜がそっと抱きしめてくれた。
制服越しに感じる御菜の鼓動。
それは、今御菜が隣にいるって言う絶対の証。
なんだか、安心するな……。
つい今まで考えてた嫌なことが、みるみるうちに和らいでいった。

「私は、総太さんから離れていきませんから。ですから、安心してください…」
「御菜……」
「普通に過ごす分については、『力』を使うことに何の支障も含みません。突然消えたりしませんから、ね」
「……うん」

なんだか、小さい頃に母親に背中を撫でられた時みたいな、そんな気持ちになった。
…そうだな。御菜はいなくならないさ。
こうして『力』を使ってないのに、俺の心が洗われていく。
いつのまにか、負の感情はきれいになくなってた。

「ごめんな御菜。変なこと考えちまって。いろいろあったから頭の中まで弱気になってたっぽい」
「いいえ、気にしないでください。わたしも、総太さんに元気を分けてもらいましたからっ」

花のような笑顔。
やっぱり、御菜は笑っていた方がいいな。
俺としてもその方が嬉しいから。

「じゃあ、こんな暗くなるような話は止めにして、これから商店街の方にでも行って見るか!」
「えっ、お夕飯の材料でしたらまだありますが……」
「いやいや、ちょっとお茶でも飲んで行こうって事。ま、デートってやつかもな」
「で、デートですか…?」
「おぅ」
「……それじゃあ、お言葉に甘えちゃいますね」
「うむ、甘えたまえ甘えたまえ」
「それじゃあ……えぃっ」

そういうと、御菜が俺の腕に自分の腕を絡めた。
そしてぎゅっと寄り添ってくる。
ちょっと恥ずかしいけど、まぁたまにはこういうのもいい、かな?

「それじゃ、行くか」
「はいっ!」

夕日を浴びて、俺たちの身長よりもずぅと長く伸びてく影を背にしながら、俺たちは商店街へと歩いていった。


「………あ、そういえばまだどこに行くか決めてなかった」
「そ、総太さん……」



つづくっ!



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