なんていうかな体育館。
雨が多いとここでの活動が多くなるわけだ。
湿気むんむんで不快指数満々のこの場所。
夏は暑くて、冬は寒いってやつだな。
そんな所に今俺はいる。
「せいれーつ! 号令!」
男女各二列横隊だが縦隊とかいうやつで並んで、号令と共に体育の開始。
今日の科目はなんじゃらほい。
先週休んでたセンセーが話してるのを耳のどこかで聞きながら、しばしボーっとしてる。
屋根からは絶え間なく雨の叩く音が鳴り続けている……強まってきたな。
これで雷とか風まで出てきたらもう立派な嵐だよ。
帰るのもイヤになっちまう。
「―――。よし、じゃあ各自二人組か三人組を作って始めろ」
あれ、真剣に聞かないうちに説明終わっちゃったよ。
な〜にするかわかんないぞ。
周りのやつらがそろそろと集まっていく中、女子郡の中から御菜が来た。
「総太さん、一緒にやりましょう」
「あ、あぁ……いいけど。なにやんの?」
「えっ……総太さんお話聞いてなかったんですか?」
「いや〜雨音に気を取られてる間にすっかり、な…」
「そうなんですか…。今日は柔軟体操らしいですよ。他のクラスも使ってるらしいので、広く取れないんだそうです」
「ん、なるほど……な」
周りを見れば、ウチらのクラス以外にも運動をしてる集団がちらほら。
そう巨大でもない体育館。2,3クラスも集まれば広くは取れない。
だからこういった雨の日は簡単な内容になることもしばしば。
まぁ、こんな湿気タップリの中で汗かくのもイヤだけどな。
さてと、それじゃ御菜と柔軟体操でもやるかね〜。
「と言ってもだな。まずなにから始めりゃいいもんかね」
「背中を押して体を前に倒すのでもしますか?」
「あー、それか。名前何ていったっけなぁ……まいいや。やろうやろう」
「じゃあ、私が総太さんの背中押してあげます」
「了解した」
開けるだけ足を開いて、両腕前に出してから御菜に背中を押してもらう。
正直、体が硬い分類に当てはまる俺としては結構キツイワケで……。
…指が爪先に付くなんて、とんでもない!
骨が折れちまう!
「あたたたた……」
「総太さん、体硬いですね〜」
「柔軟は苦手だ。あーっ、足の付け根が引きつる……!」
「まだ半分もいってませんよ」
「半分なんて、そんな拷問的な角度までいけるかっていたたたたっ痛ぇ。御菜、もうストップ、ストップぅ〜!!」
ほ、骨の前に体が折れそう……付け根が痛ぇ。
「だ、大丈夫……ですか?」
「俺はもういいや。次は御菜をやってやるよ。交代だ」
「あ、はい」
前後入れ替わって、今度は御菜の背中を押す番に。
一声かけてから少しずつ押していくと、特に何も言わずにそのまま前へと傾いていく御菜の身体。
もう爪先に指が付いてら……や、柔らか。
「御菜」
「なんですか?」
「痛くないのか? 身体とか足の付け根とか」
「あ、はい……全く」
「マジかよ〜。柔らかいな」
「柔軟には、ほんの少しだけ自信がありますからねっ」
そういうと、今度は床に指だけでなく身体まで付いた。
「すげ〜。素直に関心」
「えっへんです♪」
「でも、これじゃ俺出番無くない?」
「そんな事無いですよ〜。総太さんに押してほしいです」
「そ、そう?」
「はいっ」
いち、に、さん、し〜って感じで、リズムよく背中を押していく。
御菜は本当に身体が柔らかい。
まるで体操選手みたいだ。
……まぁ、別の意味でも柔らかいわけよ。
それとさ、体操服越しに感じる下着の感触……肩紐無しバージョンかぁ。
「って、俺は何を考えてるんだ!」
「そ、総太さん?」
「あぁ…いや、こっちの話。は、ははは……」
いかん、つい邪な考えが――――
「総太さんは、こういうのが好きなんですか?」
「……へ?」
「肩紐の無いタイプの下着が……」
「えぇっ!?」
な、なんで俺の考えてる事が分かんの?!
……って、ちょっとまて。
よーく考えてみると、俺は今御菜と手越しではあるけど一応はくっ付いてる状態…だよな?
そういう訳だから……。
「総太さんが望むんでしたら……」
「いやいやいやいやいや! 御菜っそれは大変嬉し…じゃなくって! 大変キケンな発言だから、その、またあとでと言うことに! な?」
「は、はい」
そこでハッとなる。
周りを見れば、何事かといわんばかりな先生、及びクラス連中の視線が。
「磯原、別に女子と組むなとは言わんが、そう興奮するな。今は授業中だぞ」
センセーの言葉に、どっと笑いが起こる。
お、俺べつに興奮してるわけじゃないんだが……あ、いや…してたかも。
とっとにかく、今すっげー恥ずかしい場面である事には変わりないワケで。
一気に顔の表面温度が駆け上がってる。
「あ、あははははははは〜」
俺の乾いた笑い声が更に良く響いた。
「あー恥ずかしかった……」
「そ、そうでしたね……」
「今度からは、あんま大声出さないようにしないと」
「そうですね…」
「じゃ、じゃあ続きをやるか」
「はい」
それからは特に大きな声を出すことなく流れていった。
いろいろやってるけど、やっぱり俺の身体は硬い。
もう体の各部からは悲鳴悲鳴の大合唱。
俺には柔軟体操は向いてないな。うん!
終わりのチャイムが非常に恋しい。
…キーンコーンカーンコーン…
「よーし、それじゃあ終わりにするから整列しろ〜」
始まりと同じ隊形に並んで、号令一つでようやく終了。
あぁ…もう身体が痛い。
さっさと教室帰って着替えよ。
「総太さーん」
と、御菜の声が聞こえてきて、その方向を振り返ったときだった。
ガッ
「あっ……」
何かにつまづいて、バランスを崩す御菜。
このままだと、転んでしまう!
考えるよりも先に身体が動いた。
「御菜!」
さっきまで悲鳴を上げてたとは思えないほどだ。
とにかく、御菜が危ないと言う一心で動いてる。
そして、腕を前に出して、御菜の腕を掴んだ……と言うところで……。
ツルッ
「う、うわぁぁ!?」
一番踏ん張らないといけない足が、何故か濡れてた床に滑って一気にバランスが崩れた。
そこに逆の勢いを持った御菜を受け止めたものだから……。
ドシーン!
背中に衝撃。
一瞬詰まる呼吸。
そしてしたたかに打ち付けた尻と頭。
しばらくの間、全ての器官が稼動停止したかのように思えた。
「そ、総太さん! 大丈夫ですか総太さん、総太さん!」
「……い、いたたたたたた…………。あ、あぁ…なんとか」
痛みで閉じていた目を開けると、すぐ目の前に今にも涙を浮かべそうな表情で俺を見てる御菜がいた。
どうやら御菜は無事に守れたらしい。
よく頑張ったぞ…おれ。
「…大丈夫か、御菜?」
「私は平気です。それより、総太さんが……」
「いや…俺は大丈夫だって。御菜を守れてホント良かった」
「総太さん…!」
ぎゅっと俺にしがみつく御菜。
その頭をそっと撫でてあげた。
俺だって、たまにはカッコの付くところを見せられるってもんだ。
しかし……ここでまた俺はあることを忘れていた。
こちらを見る多数の視線。
そう、ここはまだ体育館で。俺達は帰る途中だったんだ。
「………………」
いくら危ないところを助けたとはいっても、今の状況はただ倒れたまんま抱きしめ合ってるようにしか見えない……?
えぇい、もうどうにでもしてくれ。
御菜が無事なら、他はどうでもいい。
いつの間にか聞こえなくなっていた雨音。
そして窓から入ってくる明るい光。
俺は後ろから先生の声が聞こえてくるまで、御菜の頭を撫で続けた。
つづくッ!
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