ポタッポタッ
傘の端から滴り落ちる雨粒。
小さな水溜りの上を歩いて奏でる水の音。
今日も雨は降っていた。
この間の大雨で崩れた場所も何とか復旧して、実に三日ぶりの学校となったわけだ。
まぁ俺としてはあと一ヶ月くらいは休みにして欲しかったんだけど……
そしたら少しだけ学校行けば夏休みだったんだけどね。
ま、復活したものはしょうがない。
だからこうして傘差して登校してるんだよ。
「こう雨ばっかりってのも、芸がないよな」
「芸、ですか?」
「あぁ。晴れが多いのは嬉しいけど、雨ってのはいろいろ制限食らうから面白くない」
「植物達には喜ばしい事ですよね」
「俺達は人間だっつの」
「わ、私は人間じゃないんですけど…」
「いやまぁ、こう普通に見てるって感じにだぞ」
こんな感じで御菜と話しながら歩いてると、後ろから声を掛けられた。
「お、磯原と高麗じゃん。今日も仲良く登校ってか〜」
「ん、おぉ。山口、おはようさん」
「おはようございます」
「相変わらず自転車登校か。雨の日はつらいな」
「まったくだよ。あー、こっそり原チャでこよっかな」
声を掛けてきたのは同じクラスの山口だ。
俺と違って結構遠くから来てるから、学校までは自転車で通ってる。
雨の日は傘差しててもいつも濡れてくるから可愛そうなやつだ。
「あんま変わんないじゃん」
「まぁそうなんだけどな。っと、置く場所なくなるから先行くな。んじゃ」
「また教室でな〜」
「総太さん」
「ん、どうした御菜」
「さっき山口さんが言っていた“原チャ”ってなんですか?」
「あぁその事か。原チャってのはバイクの事だ」
「バイク、ですか」
「バイクは知ってるよな?」
「いくらなんでも私はそこまで無知じゃありませんよ」
「だよな。ゴメンゴメン」
同じ制服を着た人が増えてきた。
もう学校に着くんだな。
あー、今日もめんどくさいな…。
またあいつらと寝てるかな。
傘と人で賑わう昇降口を抜けて、教室へと歩く。
ちょうど扉を開けたところで、中から出ようとした二人のクラスメートと出くわした。
「よぉ磯原、高麗さんと一緒にご登校か」
「おはよっ御菜ちゃん」
「磯部さん、おはようございます」
「おっす」
磯部さんと橋本。
前にも出てきたな。俺と御菜以外の、もう一組の同棲してる人たちだ。
なんでも、中学の頃から付き合い始めて、高校入学と同時に同棲とな。
最近の若者は進んでるねぇ…………あ、俺もか。
「二人してどっか行くのか?」
「あぁ、ちょっとな。マッキーには野暮用で遅れるって言っといてくれ」
「それはいいけど……野暮用?」
首をかしげたところで、橋本が耳元で小さくささやいた。
「学校でするって言うのも、意外と燃えるぜ?」
「はっ橋本?! お前まさか……」
「しーっ! 声がでけぇっつの。まぁとにかく、そういうわけだからよろしく頼むぜ」
「お、おぅ……」
よく見たら、磯部さんの方は少し頬が紅かった。
あの二人……まだ懲りないのか。
担任意外に見つからない事をほんの少しだけ祈ってやろう。
「もうすぐ時間ですけど、どこに行くんでしょうね?」
「なぁ御菜」
「? はい」
「時には、授業とかそんなものよりも、本能に忠実に走りたくなる時ってあるんだよ」
「本納、ですか?」
「……それは地名。俺が言いたいのは“本能”だ」
なんかたまに御菜がマニアックな発言をするときがあるんだよな……彩音の影響だろうか。
こんどキツクお見舞いせにゃならんな。
御菜には純粋でいてほしいんだ。
…とにかく! 俺には二人に頑張れとしかいえない。
だからもう教室へ入ろう。
もうすぐチャイムが鳴るんだから。
二人が歩いていった先を見てる御菜の手を引いて、教室の中へと入っていった。
席に座ってから御菜と話してると、ぞくぞくとクラスのやつらが入ってきて、教室の中は更に賑やかになった。
「おっ総太じゃん〜久しぶりだな」
「うぃっす」
「無事に生きてたみたいで何より」
三者三様〜な挨拶で来たのはいつもの面々。
相変わらずなやつらだ。
「早速だが聞いてくれよ。実はな、さっき歩いてる途中で……」
そして始まる彰の見つけちゃった話。
もう耳にタコだから聞き流し。
願わくば、その目で御菜を見ないで欲しい。
……別にシャレで言ってるわけじゃないぞ?
やがてチャイムが鳴って、これから朝のホームルームなんだが……
担任はいっこうにやって来ず、それを知ってかクラスの奴らも話を止めなかった。
…悲しいかな。これがうちらの朝の風景なのだよ。
御菜が来る前は、俺も混じって結構騒いでたけど。
今は俺には御菜がいる。手前そんな事は控えめに、だ。
「先生、今日も来ませんね」
「いつもの事だからな。時期に来るだろ」
「先週から一度も時間通りに来てませんが……」
「いや、御菜が来た時だけちゃんと来たさ。でもあれは例外だ。次の日からは元に戻ってたしな」
「い、いいのかなぁこれで……」
御菜が困惑する気持ちも分かる。
でもな御菜。これがうちのクラスなんだよ。
ガラガラッ
「いよぅ。お前ら元気に学校休めたか〜?」
開口一番その言葉かよ…。
相変わらずらしくない先生こそ、我らが担任で、さっき橋本が言ってた“マッキー”こと牧野ティーチャー。
こんなに元気がいいのは、きっと学校を休めたからに違いない。うん。間違いない!
「ったく……朝っぱらから頭の薄いやつらの話ってのはど〜もやる気がなくなるよな」
「マッキー、それって校長? それとも教頭?」
「うむ、その意見は95点だな。答えは両方だ!」
ど、どうでもいいじゃんそんな事……。
「さて、それじゃいつものいっとくか? いそはr」
「います!」
「…最近いてばっかりだよなー。もうちっと場の空気読んでくれ」
「なんでそうなるんスか!?」
「クラスが和まない」
「えぇ〜っ」
「まぁいいや。次回に期待しよう」
……しないで。
「んじゃ出席確認から……休んだ・休みたい奴は素直に挙手」
「あ、あのぉ…」
スッと隣で手が上がった。
…え、御菜!?
「ん? どうした高麗。お前休みたいのか」
「いえ、そうではなく……休んだ人って手を上げても分からないのでは……」
「………………」
「せ、先生?」
「正解!」
「きゃあっ!」
まるで何処ぞのクイズ番組みたいに、ビシッと指を刺した。
おぉ〜、とクラスが盛り上がって、一部から拍手が飛ぶ。
「新入りなのによくぞ見破った。特典は次のテストにイロだ!」
「は、はぁ……」
「んじゃ今度こそ真面目に出席確認――――あれ、磯部・橋本夫婦がいないぞ。毎晩頑張りすぎて休みか?」
あ……そういえば、橋本に言われた事伝えないとな。
「あ、先生」
「どうした、磯原少年」
「さっき橋本が野暮用があるって……」
「む、そうか……。偵察兵!」
「サー・イエッサーッ!」
突然ガラッと扉が開いたかと思うと、そこには彰の姿が……って、え?!
いや、だって今さっきまでここいたはずなのに?
え、えぇっ!?
「状況を報告せよ」
「はっ! 0845に目標を発見。場所は特別教室棟であります。サー!」
「うむっ。状況は」
「はっ! 非常に厳しい状態であります。中から物音がしている事から、強行突入は見方部隊に精神的損害を出してしまう恐れがあります。ここは少数精鋭にての突撃が有効かと」
「貴様! 上官に向かって命令とは何事だ!」
「も、申し訳ございませんっ。サーッ!」
「しかしその案は的確だ。上達したな! 鴨居偵察兵」
「はっ! 光栄でありますッ。サーッ!」
隣で御菜が目を点にしてる。
……俺ももうこの流れ付いていけません。
「こんな事もあろうかと偵察出して正解だったな! 皆の衆、聞いての通りだ。報告の通り――――――」
降って沸いた休み明けって怖いな。
何故こんなにもみんな元気がいいんだ。
もうテキトーにやってくれ。俺は寝る……。
「あっ!」
「そ、総太さん?」
……と、言う間に昼になった。
ちなみに、朝に話題沸騰だった橋本たちのその後は…。
放って置かれたらしい。
あんなにクラスで騒いでたのに……いいんだろうか?
そんな事つゆ知らずな二人は、二限が終わった頃に帰ってきた。
その時の磯部さんの肌がやけに艶やかだったのは秘密だ。
いや〜にしても、やっぱり寝てると時間が過ぎるのは早いわ〜。
正確には昼じゃなくて、最初の授業前には一応起きてたんだけどな……でも、数学って嫌いだからまた寝ちまったんだわこれが。
それで起きたら昼だった。
こういう時、移動授業とか体育がないから嬉しいよな。
あ、体育は午後だっけ。
んー、本音で言えばかったりぃ。
外はまだ雨降ってるし〜。こりゃあ体育館だな。
そういえば先週はどういう訳か体育なかった。
なんでも担当のセンセーが昼ごはんに当たったとかで……何食ったんだ?
それはさておくとして、御菜が来てから最初の体育ってやつなんだよ。
「午後は体育なんだよ」
「そう、みたいですね」
「そう、そうなんだよ!」
「きゃあっ!」
急に隣から声が上がった。
驚いて思わずビクッとなった御菜。
なんだよ、心臓に悪い登場のしかたするなよ彰。
今日のお前は朝から……ヘンだ!
「体育と言えば、ズバリ体操服。体操服と言えばブルマ! そしてブルマといえb」
ガンッ!
「――――殴るぞ?」
「殴ってから言うなよ……マジ痛ぇし」
「ったく、おい彰。暴走だけはするなよ? あと、御菜を変な目で見たらタダじゃおかん」
「分かってるよ。人の彼女に手は出さないって。……前回で懲りてるし」
「何か言ったか?」
「何でもないって。そんな目で見るな」
「あ、あはは……」
苦笑してる御菜。
隣では悠也がスマンなぁ、と謝っていた。
「やれやれ……」
「鴨井さんって、おかしな方なんですね」
「いや、単にヘンなだけだ。相手にしなくていいさ」
「…おいっ!」
彰の意見はこの際無視。
「御菜はこっちきて初めての体育だろ? ムリはするなよ」
「はいっありがとうございます。総太さんも、怪我に気をつけてくださいね」
「おうよ!」
と、言うわけで。午後は室内運動なのである。
一体どうなる事やら……?
つづくッ!
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