天使のゆびきり 〜そしてまた陽は昇る〜








……ここは、何処だ?
俺の、部屋?
なんで誰もいないんだ。
どうしてこんなにガランとしてるんだ!
それに……
何故俺は、こんなに涙を流しているんだ……?



「…………ん」

白い天井。
それなりに暗い部屋の中。
時間を見れば……なんとまだ6時前じゃないか。
こんな時間に目が覚めるなんてなぁ。
御菜も、隣でまだ寝てるし。
二度寝したら確実に遅刻だろうな…。

にしても……

「(嫌な夢だったな……)」

あんまり覚えてないけど、今の気分からしてきっと良くない内容だったに違いない。
いやむしろ嫌な夢だ。
でなかったら、熱くもないのに汗なんてかかないだろ…。
たまにあるって事だよ…なぁ?
こんな日もアリってか。

「……う、ん……あ、そーたさん…」
「おぉ、御菜。わり、起こしちゃった…か?」
「ん……ぃえ。そろそろおきるじかんかなぁって思ったので……」

夜中の話通り、寝起きの御菜はかなりとろんとしてるな。
いつもこうなのかな。俺は御菜より後に起きてるから分かんないや。
なんか男として情けないような気がした一瞬。

「そーたさんこそ……どうしたんですかぁ? こんなあさはやくに……」
「いや、俺はちょっと……め、目が覚めたんだよ。うん」
「そぅなんですかぁ……おはょうございまふ〜……ぁふ」

欠伸しながらおはよう言われると、こっちまで眠くなるな。
それにしても、普段とのギャップが激しいなこれは。
しっかりものの御菜は朝が弱い、とな?
うむ、誰にでも弱点はあるものだ。
……俺と同じの持ってる奴はいないだろうなきっと……。

「…顔洗って目を覚ましておいでや〜」
「そぉしますぅ〜……」

ふむ。それじゃあ俺も起きるかな。ちょっと早いけどっ。



「あれ、そうなの?」
「はい……」

そして朝ごはん。
俺はどうやら勘違いをしてたようだ。
御菜は、朝が弱いんじゃなくて夜中に起きるのが弱いらしい。
そして、さっきとろけてたのは……

「夜中に起きちゃったから眠気が残ってたってワケか」
「すいません…。リズムが狂っちゃうとどうしても……」
「いや、気にしてないから大丈夫。俺なんか毎朝起こしてもらってるんだし。何か言える立場じゃあない」
「夫を起こすのは妻の役目ですよ」
「いや、それはまぁそうなんだけどね」

どうもね。まだこう、夫とか妻とか、ねぇ?
…うぶって言うな。

「まぁ、これからも普段起きるの遅〜いと思うけど、その時はお願いします」
「はいっおまかせください」
「こちらから何も返せないって言うのが申し訳ないんだけどな……うん」
「そんな、私は見返りを求めてるわけではありませんので気にしないでください」
「ん〜、でもねぇ」
「……あ、でも」
「うん?」
「あの、毎日じゃなくていいんですけど、たまにでいいからギュッとしてくれると嬉しいです…」

やや恥じらいをもって、ほんのり頬を染めながら言う御菜。
あーも〜お兄さん一瞬だけクラっと来ちゃったよ!

「そんなことだったらお安い御用だ。今だってできるぞぃ」
「あっ…」

横からそっと御菜を抱きしめた。

「そ、総太さん……朝ごはん中ですよ?」
「まぁ、気にしない気にしない」
「お箸が動かせません〜」
「まぁまぁ」
「あと……」
「ん?」
「お味噌汁が、こぼれちゃいました」
「……え?」

こぼれた?
んあー、そういえばさっきから妙に腹の部分が暖かいような……?

「……げ」
「あらら……」

御菜を解放して、不自然に暖かい部分を御菜と覗き込んでみれば、白いYシャツの部分をうっすら茶色に染めて、更に証拠といわんばかりにのってるネギが一つ。
あー、こら参りましたな。
もう制服に着替えちゃってるってば。

「御菜」
「は、はい」
「このままで行ってもいい?」
「えっ…そ、それはちょっとやめた方がいいのでは……」
「だよなぁ」

とりあえず、置いてあった布巾で拭ってみると、当たり前だがネギは取れた。
でも色と臭いは取れない。
漂ってくるほどじゃないけど、近くで嗅げばそら味噌の臭いはする。
さて、どうしたものか。

「いや、どうしたもなく着替えないとまずいだろ」
「総太さん?」
「あいや、なんでもない。とにかくこれは着替えた方がいいよな。スペアあったかなぁ」
「昨日のはもうお洗濯しちゃいましたよ」
「だよなあ。っても俺シャツ2枚しか持ってない気がするんだが……」

引き出しあけてゴソゴソやっても、やっぱり見つかりはしなかった。
これは、俗に言うぴんちってやつですかい?

「御菜……」
「はい」
「非常に申し訳ないんだがな」
「………………」
「これ、今すぐ洗ってくれ。まだ水洗いでどうにかなると思う」
「え、でもこれからお洗濯すると学校に遅れて……」
「速攻モードで頼むっ!」

頭下げながらシャツを持った手を御菜に差し出し〜。
まるで卒業式かなんかで賞状もらう時みたいな姿勢だなオイ。
深くは気にせんでくれ。悲しくなるから…。

「あ、あの。総太さん」
「や、やっぱりダメか?」
「いえ、そうではなく、これを洗うのでしたら昨日洗ったやつを乾かせばいいのではないでしょうか?」
「……あー」

そう、だよな。
今から洗濯するよりも昨日洗濯したのを乾かした方が早いよな〜。
どうせ同じやつだから判別できないだろ。つか洗濯してあるんだし。
なんで気がつかなかったんだ。

「じゃあ、乾燥機掛けておくからアイロンの準備を頼む」
「わかりました。あ、でもその前に朝ごはんを食べちゃわないと……」
「……む」

そういやまだ朝ごはん食べてる最中だったな。
誰だよ。こんな時に…………って、俺だ。
朝早く起きたのにこんな……。
隊長! 申し訳ありません!
急いで食っちまわないと、マジで時間が…!



「出来ました、総太さん!」
「サンキュー御菜。バタバタして申し訳ないけど、急いでいくか」
「はい」
「時間は?」
「もう少しで8時……あ、今ちょうど8時です」
「間に合うかぎりぎりってトコだな……」
「遅刻しちゃったら怒られますか?」
「いや、怒られるってことはない。担任が担任だし。でもな……」
「? でも?」
「違う意味では、担任が担任なんだよ」
「???」

一緒に遅れていった、なんてなったら絶対にあのティーチャー変なこと言うだろうな。

『ん、どうした磯原。ま〜さか高麗と夜遅くまでずっと起きてたんじゃないだろうなぁ』

……なんて言葉が頭に浮かぶ。
クラスに余計な誤解は広めたくないし。
参ったなぁ。

「あの、総太さん」
「ん?」
「いま、困ってますか?」
「えっ? いや〜それはまぁ困ってるといえば困ってるけど……なぜに?」
「ショートカット、しちゃいますか?」
「しょーとかっと? 一体どうやって」
「飛んでいきます」
「飛ぶ? まさか……テレポートってやつ?」
「はい」

ま、マジすか…。
そりゃ、確かに一瞬で行けるけど……
いくつか問題が。

「他の人に見つからないか?」
「人気のないところに飛べば大丈夫だと思います」
「体育館の裏とか?」
「そこはちょっと場所わかりませんので……私が知ってるところでお願いします」
「あ、そうだまだ案内してないんだっけ……じゃあ屋上ならどうだ?」
「屋上、ですか?」
「あぁ。あそこなら誰もいないだろ。まさか朝っぱらから行くなんて奇特な奴いないべ」
「分かりました。それじゃ、私に捕まってください」
「お、おぅ」

そういえば、俺はテレポート初体験だぞ。
それに生身の人間だ。一緒に飛べるのか…?
振り落とされる〜なんてのは勘弁勘弁。

「大丈夫ですよ。私を信じてください」
「え、あ……そか。今くっついてるんだ」
「はい。ですから、ね?」
「分かった」
「では、行きますよ」

さらりと撫でていくような風がふいて、御菜の背中から現れる真っ白な羽。
頼むから屋上に誰もいないでくれ……!
必死に心の中で祈ってた瞬間、キーンと耳鳴りがなった。
そして、俺の視界が揺らいだ瞬間――――――


つづくッ!



…to be next chapter



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