天使のゆびきり 〜静かなる空間〜








「おやすみ、御菜」
「おやすみなさい、総太さん」

ぱちん。
今日もまた一日が終わろうとしてる。
眠って起きたらもう明日。
明日は一体どうなる事か。
ふぁ〜あ……おやすみ……。


………………


………………


くわッ!
…と、ちょっとだけ気合を込めて瞼を開いた。
まー、んなコトはどうでもいいんだがな。
問題は理由だ。
何で寝るのに目を開いたのか?
答えは簡単!

「(やべ……眠れねぇ)」

欠伸は出た。それに今日だっていろいろあって疲れてるはずだ。
なのに……寝れない。
眠気ステータス0%を維持しまくってる。
参った。なんで寝れないんだ。
すぐ隣を見れば、御菜なんてもうスヤスヤと寝てるのに。
可愛い寝顔だな〜―――はっイカン。変なこと考えそうになったぞ。
さっきの風呂でのアレがまだ残ってたか…。
まさかソレが原因で眠れないとか!?
いやいや、いくらなんでもそれはない。
俺はそこまでガキじゃないっつの。
にしてもホントどうするかな。
もう一回寝てみるか? そしたら案外すんなり眠れそうな気がする。
うんっそうだな! 今のはちょっとタイミングが悪かっただけ。
今度こそ寝れるって。
それじゃ、オヤスミ……。


………………


………………


………………


くわッ!!

「(だ、ダメだ……)」

根本的に、寝る気がしない…!
何故だ、何故なんだーっ!
こんな事ってありかよ。
小さい頃に怖い映画見て夜寝れない〜とか、それ以来ぶりじゃないか?
いや、もうホントにさぁ。

「(どうするかな)」

暗さに慣れた目で壁に掛けてある時計を見れば、ちょうど0時を回ったところ。
電気消してから30分ちょいしか経ってない。
普段の朝、俺が起きる時間まであと7時間弱。
このまま眠れないと……学校が寝床になる。
いや、普段そうなる事も多々あるけどな?
でも一日ってのはさすがにヤバイだろ〜。
寝なきゃいけないのに、眠気は無く……。
しょうがないな。

「……っこいせっと」

御菜が起きないようにそ〜っとベットから起き上がって、カラカラっとベランダに通じる窓を開けた。

「ふぅ〜……」

冬なら寒くて出れない格好でも、今は6月。寒くも無ければ熱帯夜でもない。
気候的に一番過ごしやすい夜なんじゃないかな。
梅雨も中休みっぽくて、週末から晴れが続いてる。
今宵も星空が広がってますよ〜っと。
あぁ、外に出たはいいけど何しよう。
月見酒……俺は未成年だ。
人見酒……だから俺未成年! それに人なんてこの時間ほとんど歩いてないって。
景色酒……なんだよそれ。

なんて、一人芝居めいたことやっても案は出ない。
手すりにもたれ掛かってボ〜っと外を見る。
あんまり気にした事ないけど、やっぱ夜は静かだよな。
よく夜は犬が吼えてるってイメージあるんだけど……寝てるか?
蛙の鳴き声だって聞こえない。そりゃ、近くに田んぼなんてないからねぇ。
聞こえてくるのは遠くの車が走る音と草むらの虫の声、か。
ほ〜んと、ここは閑静だよ。

「そういや、夜にじっくり見たことってないな」

ん〜ここは一つ、景色を見ながら酒……いや、麦茶でも飲むかね。
ちょうど喉も乾いた事だしっ。

カラカラカラ……

「……んっ…そうた…さん?」
「あれ、御菜。なにやってるんだ」

部屋に入ったところで、眠そうにして片目をこすりながらこっちを見てる御菜がいた。
仕草といいちょっと大きめのパジャマといい、しっくりきすぎてるよなぁ。ねぇ?

「ちょっと……おてあらいにいこぉかなぁって……おきたんですぅ……そしたら、そうたさんが……」
「御菜、寝ボケてるのか?」
「ちぃがいますよぅ〜」

妙に間延びした御菜の声が……普段とのギャップを感じる。
御菜って夜弱いのかな。

「まぁ、トイレ行くなら行っておいでや」
「はぃ〜……」

フラフラ〜っと歩いてく。
なんか見てて危なっかしい気がしてならない。
やっぱ寝ボケてる?
まさか夢遊病なんてコトはナイ、よなぁ?

そんな予感もしながら麦茶を片手に飲んでると、トイレの方から水の流れる音がして御菜が帰ってきた。
手を洗って目が覚めたのか、歩き方がさっきと違ってハッキリしてる。

「ただいま、もどりました」
「おぉ〜」
「そうたさん、こんなところでなにしてるんですか〜?」
「んや、俺はちょっと……実は眠れなくてさ。麦茶飲みながら外でも見てようかなって思って。そしたら御菜が、と言うわけ」
「眠れないんですか?」
「あぁ。どうにも」
「それは困りましたね……」
「ま、そう言うわけだから。俺は少し夜風に当たってくるさ。御菜は気にせずゆっくりねt」
「では、私もお供します」
「て……って、御菜?」

俺が寝てていいからって言う前に…。
戸棚から自分のコップ出して麦茶を。これは完全に付き添いモードだな。

「いいのか、御菜」
「…と、言いますと?」
「いや〜、眠いんじゃないかなって。だってさっき眠そうにトイレ行ったしさぁ」
「あ、あれは……ちょっと恥ずかしいところを見られちゃいましたね……私、夜ってあんまり起きてられないんです。だから途中で起きるとその……ハイ」
「それならあんまりムリしなくていいぞ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよっ頑張っちゃいます」

ま、御菜がそういうなら言いかね。
そんなワケで、二人でベランダへと出た。

「夜風が気持ちいいですね」
「そうだな」
「こうやって夜中に外に出るのってなかったから、ちょっと新鮮です」
「俺も同じだ。今日たまたま寝れなかったからな。でも、寝れなかったお陰でこれが見れた。あんまり悪くはないかな」

空に広がる星と、おっきな満月。
どこかしんみり〜とした雰囲気を感じさせるな。
そんな満月の下、俺と御菜は麦茶片手に語らうってワケだ。
いいだろ?

「静かですね〜」
「そりゃ、みんな寝てるからな。隣にいるらしい彩音も寝てるべ」
「そうですね。電気消えてますし」

つい昨日まで空き部屋だった隣の部屋。
今は彩音が住み着いてるというのだから…。
なんで隣に引っ越してきたのかは謎だけど。

「信じられないかもしれませんけど、あの子は本当に人前に出るのって苦手なんですよ」
「ど〜もそれがなぁ。未だに信じがたいんだよ。上がり症ってヤツなのか?」
「たぶん……そうだと思います。体が固まっちゃいますからね」
「なのに何故俺は平気なんだろうな〜。初対面からフツーに話してたし。なんか納得いかない気が」
「私も最初はビックリしました。彩音が緊張せずに会話できてるなんて。って」
「彩音も昔に俺と会った事あるとか?」
「いいえ。ありません。あの時彩音は一緒にいませんでしたから」
「だよなぁ。やっぱ謎だ」
「私も……」

まぁ今度改めて聞いてみるか。

「あの、総太さん」
「ん?」
「今更ながらこんな事聞くのも遅いかもしれないんですけど……」
「?」
「迷惑じゃなかったですか? 突然やってきて家に居つかれるって言うのは……」

急に真面目な話。
御菜も少し真剣だけど、どこか申し訳なさそうな表情で俺を見てる。
迷惑、ねぇ。
ふぅーっ

「み〜な」
「は、はい」
「何度も言ったけど、俺はな、そんなことこれっぽっっっっっっっちも思ったことはないぞ。そりゃ、家に帰ったら突然ってのは驚いたけどね。 昔の約束とかもあったけど、俺は御菜が来てくれて正直に嬉しい。だから、迷惑とか、そんな事は言わないでくれ。御菜にはもっと肩の力を抜いて欲しい。居させてもらう、じゃなくて、一緒に居るって思って欲しい」
「総太さん……」
「あと、これもまた出てきそうだから言っておくと、天使や人間なんてのも、カンケーはない! 俺と御菜、それでいいだろ。 OK?」

申し訳なさそうにしてた表情も、だんだんとなくなって、最後は笑顔に。
うっすら目に涙が浮かんでるのは嬉しいからだろうか。

「ま、そんな事なので今後はこの話題は禁止! 気にしないことっ。な?」
「はい! しっかりと心に刻んでおきますね。総太さん」
「んっその勢いだ御菜! …………ふぁ〜……なんかアレだな。安心したら急に眠くなってきた。今なら寝れるかも」
「では、もうお部屋に戻りますか?」
「だな。ふぁ〜ぁ……欠伸がとまらないな」

最後に御菜ともう一度月を見てから部屋に戻った。
主が居なくなったベットは、まるで戻ってくる事を分かってたかのようにさっきまでのぬくもりを残していた。
いい事だな。んじゃあ、寝ますかね……

「それじゃ、もう一回お休みだ。御菜」
「はい。お休みなさいませ。総太さん」
「お〜ぅ。御菜もおやすみ……」

……あれかな。ひょっとして、俺は御菜とこの会話をするために起きてたとか?
いや、まさかね。偶然だよな。
御菜もすぐにとはいかないけど、これでリラックスできるだろ。
うん、またまたいい事だ。
さぁ、起きるまで6時間きっちゃってるから急いで寝ないと。
…お休み…


つづくッ!


N e x t T o p