「はぁ〜やっと静かになったぁ……」
「ふふっ今日も一日お疲れ様でした、総太さん」
コトンと目の前にお茶を置きながら御菜が隣に座った。
ついさっきまで人見知りとはとんと縁がないように見える彩音がいたためか、今はすごく部屋の中が静か。
のんびり空間とでも言うのかね。
今日唯一の安息時間? なんて。
「どうだった御菜、学校生活一日目を終えた感想は」
「感想、ですか? はいっ楽しかったです。まだまだ知らないところとか分からないところがたくさんありますけど、頑張りますっ」
「おぅ、俺も出来る限りサポートするからな。でも……学校案内はちょっと俺一人だと危ないかもな」
「次は気をつけましょうね」
「最大限善処します…。まぁクラスの奴らとも不安なく溶け込めそうだし、順調な滑り出しってやつだな」
「はい」
「明日も頑張ろう」
「お〜っ」
ゆっくり食後のお茶を楽しんでから、今度は風呂へ。
俺と彩音が騒いでる間に夕飯の準備と風呂掃除を済ませちゃってるんだからやっぱり御菜はすごい。
流石に毎日やってもらうばかりじゃ悪いどころか申し訳ないから俺も手伝っていく事にしよう。うん、それがいい。
ちなみに……もう言わなくても分かると思うが、いざ入る時はやっぱりこういう展開になっちゃうのだよ。
どうやらこれが今後も“あたりまえ”になってしまいそうで怖い気もする。
「総太さん、どうかしたんですか?」
「えっ、いやあ別に。何でもないよ」
…もう半分なっちゃってますね。ハイぃ。
風呂は一人でゆっくり入るもの。
少なくとも俺はそう考えてた。
銭湯とかは別として、ゆったりとくつろげる場所といえば風呂。
鼻歌交じりにのんのんと。これ最高だね。
しか〜し今はお供が出来た。
話す事はないだろうけど、これを嫌だといったらきっと世間中からヒンシュクを買う。むしろ頂く。
まぁ一部を除いては無害だからいいんだけど……当然ながら慣れてないからまだ緊張気味でして。
「ぶくぶくぶくぶく……」
「〜♪」
俺が湯船でぶくぶくやってる隣では御菜が気持ち良さそうにしている。
……間違えてもヘンな方向には持っていかないように。ここは、風呂場、だからな!
「やっぱりお風呂はいいですね〜。気持ちいいです」
「ぶくぶく……そうだな。洗い流される感じするよな」
「総太さんとも一緒に入れますし」
「い、いつもいるじゃん」
「いいえ〜、こうして近くにいる時って寝てる時とお風呂くらいですから」
「まぁ…ね」
どうやらお気に入りみたい。
俺も……嫌じゃないけど、やっぱりまだまだ恥ずかしさはあるわけで。
今でも心臓早めに動いていたり〜。小心者とかって言うな。
言う奴は実際直面すれば分かるっこれホントに緊張するってばに!
据え膳とかそんな事関係ない……って俺はさっきから何を言ってるんだ。
どうも最近風呂に入るとどうでもいい事まで口走ってしまう気が。
のぼせてるんだろうか?
「でも……お風呂にタオル巻いたまま入るのって本当は良くないんですよね。温泉、とかに行くと他の人も入るからタオルは入れないようにってありますし」
「た、確かにあったような…なかったような?」
「タオル、取っちゃおうかな?」
「いっ!?」
えぇ、ちょっここでですかぁ!?
それはもう冗談抜きでうれし……じゃなくってッ! 危険だっての。
あぁもう俺やっぱのぼせてるよ! つーかそしたらのぼせるどころじゃすまないってからに。
あわわわわ、胸元の結び目に手をかけないでくれぇ。
それ解いたら、マジでっマジでぇ!!
「み、御菜!!」
「わぁっ!? な、何ですか総太さん急に大きな声を出して。前にも止めてくださいって言ったじゃないですか〜」
「そ、そういう事じゃなくって! 御菜、ここは別に温泉でもないんだから、タオルは巻いてたっていいんだよ。むしろ推奨・必須。OK?」
「はぁ、総太さんがそう言われるんでしたら……」
あぶねぇ。あとちょっと遅かったらいろんな意味で大惨事だったな。
災害は未然に防がれた!……でもなんだ、防いだはずなのにどうして俺は少しがっくりしてるんだ!?
「……少し、狙ってたのになぁ」
「へ?」
「なんでもないですっ」
い、今……なんか聞いてはまずかったようなこと言ったように思えたんだけど?
空耳かな。いやでも、なんか御菜残念そうだし。
まさか…いやまさかな。狙ってたなんて事は……ないよね。
俺の思い過ごしだよなぁ。あ、あはははははははは〜。
「ねぇ、総太さん」
「んあ」
「背中、洗ってもらえますか?」
「……えぇっ!?」
「そんな……イヤなんですか?」
「やっ! け、決してそう言う訳じゃないんだけどその…」
なんて言うか、超不意打ち。
まさかさっきの言葉の後にこんな言葉が出てくるなんて予想できるわけがない。
と言うかどういう繋がりから来てるんだよ。
それに背中を洗うって言っても、それは要するにタオルを外してしまうわけで……だから、その。ねぇ?
……隊長っ自分にはこの任務向いてないでありますッ!!
え、援軍をぉ。
ざばぁ。
「それでは、よろしくお願いしますね♪」
「あ、あぁ……」
あぁ、御菜の笑顔がこればっかりは悪魔の微笑みに見えるぅ。
俺の心の葛藤劇も空しく、事は川の流れのように進行していった。
………………
なるべく見ないようにしてるけど、この狭い風呂場、絶対視界に入れないって言うのは如何せん無理。
目を瞑るってのもあるんだけど……ね。
前にいる御菜が椅子に座ってからゆっくりと体に巻いてあるタオルを――はらりと。
う、後姿とはいえ一糸纏わぬその姿が……。
「じゃ、じゃあ……」
「お願いします〜」
スポンジ泡立ててから背中をゴシゴシと洗ってく。
くすぐったいのか時々御菜が甘い声をあげるもんだからねぇ。
それに一つ一つ反応する俺。
ハッキリ言って心臓に悪い。
「ん。なんだか、他の人に洗ってもらうのってくすぐったいですね」
「………………」
「? 総太さん?」
「あっ! あぁそうだよな〜うん。くすぐったい。あ、あはは…」
いかん、いかんぞ俺。場の雰囲気に流されるな。落ち着け、落ち着け……。
「あの〜総太さん?」
「え、どっどうした」
「さっきからずっと同じ場所洗ってませんか?」
「そそそうか? 俺はちゃんと洗ってるつもりなんだがなぁ」
…ご名答。
一番無難なところしか手を動かしてません。
「ちゃんと、お願いします」
「り、了解」
ごしごしごし。
泡が少しずつその面積を広げていく。
最初はガチガチだった俺も少しずつ慣れてきたのか、それとも泡が肌を隠したせいか、しっかり洗ってあげられるようになった。
御菜も、甘い声というよりは気持ち良さそうにしてて、鼻歌交じりに楽しんでる。
こりゃあいい事かね?
「なんかアレだな。ちょっとしたお父さん気分だ」
「?」
「娘の背中を洗ってるようなそんな気が」
「あらら、娘ですかぁ」
「まぁまぁ、そうがっかりしないで。あくまで気分だから。気分。それにさ……」
「それに?」
「あ、いや……なんでもない」
「???」
たとえに夫婦って持ってくと……な。
俺がバカなだけだろうけどその……たっ例えが危険になりそうで。
わ、わかるだろっ? そういう事なんだよ!
バカって言うな、変態って言うなぁ!!
「それじゃあ今度は前を……」
「いや! それだけは勘弁してください」
「ダメなんですか?」
「うんうんうんうん!」
「ダメ……ですか?」
御菜のすがるような視線。
え……視線?
なんでこっち向いてるの?
って事はまさか―――?
「!!!!」
目線が恐る恐る下へ。
そこには泡一つない御菜の素肌が。
そして、鎖骨の下辺りから徐々に膨らみ始めるその……
「ぶはっ!!」
「え………あっ」
慌てて体ごと反転!
御菜も何のことか気づいたみたいで、体を隠すように縮こめてる。
あわ、あわ、あわっま、間近で目視した。
御菜の、その……ふ、膨らみを!!
「そ、総太さん……」
「いや、これはその……」
待てっこれはいくらなんでも不可抗力だ!
そんな悲しそうな顔しないでく……れ?
一瞬だけ悲しそうに見えた顔も、次の瞬間にはポッと赤くなった。
そして、やや恥じらいを含んだような顔をしたと思ったら……。
「……えっち」
「ぶはぁ!!」
さっきの姿勢のままその表情で…!
は…破壊力、バツグン。
もうこの時点で頭の中ふらふらだった俺。
その後どうやって風呂から上がったか、本当に覚えてなかった。
なにせ……ねぇ?
三日目にしてこの展開は――早すぎであります。ハイ。
つづくッ!
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