天使のゆびきり 〜下心のない覗き魔〜








昼休み後半。
俺はかねての通り御菜を案内することに。
でも、そこには大きな障害があった!
その障害とは……



「御菜、まず何処から行きたい?」
「そうですねぇ。教室とかって他と一緒なんですよね?」
「そりゃあな。違ったら怖い」
「でしたら、特別教室とかを見てみたいです。ほら……理科室とか、音楽室とか」
「ん、了解。じゃあこっちだな」

御菜の手を引いて廊下を歩く。
たまにこちらを見てる奴がいるけど気にしないでおこう。
自慢だ自慢。へっへ〜ん。

「御菜もこっち来る前は学校通ってたんだろ?」
「え?」
「いやだから、学校だよ」
「あ〜そ、そうですね。学校には通ってた……かも?」
「かも? なんで疑問系なんだよ」
「あ、あはは……ちょっと忘れちゃいました」
「……まさか、御菜って不登校児?」
「いえいえ! そんなではなくってですね。えっと……あっここの教室はなんですか?!」
「ん……あぁここか。(なんかそらされた気がするけど……)説明しよう。ここは理科室だ!」
「理科室ですか〜。なんだか、化学って感じがしてきますね」
「そ、そうか?」

俺には怪しげな模型とか薬が置いてある教室にしか見えないんだが……まぁ捉え方の違いって事だろうな。うん。
ちょっと中に入ろうとしたけれど、鍵が掛かっていて開ける事が出来ない。
なんだよ、いつでもオープンってワケじゃないのか。

「残念ですね。中見たかったのになぁ…」
「まぁしょうがないさ。中にある物持ち出されたら困るし。今度授業で使うときにじっくり見ような」
「はい」
「よし、じゃあ次に向かうか」

残りそう長くない昼休みの時間。
自分で思うに効率よく案内できてると思う。
さすがに細かく見たりはできないけどこれで十分だろう。
また今度、と言うことでな。
そんな訳で、音楽室や美術室、コンピューター室や調理室なんかを案内して、残るは家庭科室のみとなった。
ちなみに、その隣はもう普通の教室になっている。
そして反対側にある階段を下りれば俺たちの教室はすぐそこだ。
最後にこの教室を残しておいたのも帰りやすくするため。
ん〜、準備周到とはきっとこの事を言うんだな!
流石俺!

「じゃあ最後。家庭科室な」
「は〜い」
「そういや、御菜っていつもご飯作ってくれるけどこういうのも得意なのか?」
「そうですね。家事全般は何でも出来ますよ」
「そうか。なら家庭科のテストは安心だな」
「え?」
「いや、こっちの話」
「そうですか? ……あれ、家庭科室って……」
「どうした御菜?」
「あ、いえ…。(家庭科室は……)」

御菜がこっちと隣の教室をキョロキョロと見回している。
なんだ、ひょっとして家庭科準備室と間違えてるのか?
初めてだから無理ないよな〜。
だからこそ案内せねばならないのだ。今後のためにも。
と、言うわけで……

ガラガラガラッ!

「ここが最後の家庭科室だ!!」
「はー………………え?」
「ん、どうした御菜。何をそんな固まってい―――――」

確か昔、こんなフレーズってあったよな。
『トンネルを抜けると、そこは雪国だった』
これ確か川端康成だったっけか?
とにかく、その言葉を言いたくなる光景が目の前に。
そう、これはまさに……

『教室のドアを開けると、そこは天国だった』

俺は後にこう言葉を付け替えたのだった。




「………………」
「………………」

固まっている。
全員が固まっている。
その固まっている俺の目に映るもの。カラフルな“何か”。
それが白だったり緑だったり黄色だったり。
はたまた青だったり、何かの柄だったりと…。
真っ先に目に入ったのだそれだ。
そして、逆に俺のほうを見て固まっているたくさんの目。
自分の行動を止めてこちらを見て、そして固まったみたいだ。
そして何故か……全員ものすご〜く着ているものの面積が小さい。
あいや殆ど素肌さらしちゃってるじゃないの。
いや、一部普通のもいるが……あん?
ちょっと待て。
変だ。何かが変だ。
なんで体操服着てるね?
それって体育ないと着ないっしょ?
ん、体育?

………………

あっな〜んだ、そういう事か。
いやぁ驚いたものだからつい思考回路がマヒしてたぜ。
はっはっHAHAHA〜。
……つまりこれは――――ッ!!!?
俺が大急ぎでドアを閉めて、御菜の手を握って走り出すと同時に、これまで聞いた事ないような規模の金切り声がこれでもかとばかりに校舎中に響き渡った。

やべっまたやっちまったーッ!!




カッチコッチカッチコッチ…

午後、何事もなかったかのように授業は進められている。
けだるいけど、ノートを取ってる俺。
反対にしっかりとノートを取っている御菜。
これを見る限りは変化はないだろう。
少なくとも他から見れば。

ちらり

「………………」

気づかない。
と言うかあえて見てない。
あの後、大慌てで走り回った結果、何故か中庭に出てしまった俺と御菜。
もう授業が始まる時間なので人はほとんどいなかった。
肩で息をして、呼吸を落ち着かせる。

「はぁ……ふぅ……あぁ、びっビックリしたぁ」
「………………」
「み、御菜は……大丈夫だったか?」
「…えぇ……まぁ」
「そうか…それなら、よかった……はぁ〜」
「………………」
「ふぅ、まさか隣行っちまうとはなぁ。また間違えて……ん?」
「……じー……」
「み、御菜?」
「…じー…」
「どっどうした…の?」

御菜がジト目でこちらを見据えている。
いや、背がが低い分見上げる形になってるけど、それはそれで怖いものがある。

「……総太さん」
「な、なに」
「………………」
「…?」
「あそこ、家庭科室なんですね…」
「え、いやあそこは……。とっ隣の教室と間違えちまって。あ、あははは……」
「そうなんですか〜……間違えたんですか」
「あっあははははは……はははは…」

乾いた俺の笑い声がやけに中庭に響く。

「目の保養にはなりましたか…?」
「保養? いやっそんな事あるわけ……ある訳ないじゃないか〜」

ホント少〜しだけ保養になっていたなんてことは口が裂けても言えない。
もし今この状態で御菜とくっついた場合、本気で命の保障はないような気がした。

「はははは……あ、そっそろ教室に戻らないとヤバくないか」
「…そうですねぇ〜」
「か、帰ろうか…みな〜」
「うふふふふふ……」

最後に聞いた薄気味悪さを覚える笑い声が、今非常に気にかかっていた。
それ以来だ。
御菜が何か避けてるのは……。

俺はどうやら御菜の機嫌を損ねてしまったようだ……
まだ、一日目始まったばっかなのに。
早くも不安を覚えた瞬間だった。
…後で本当に謝っておこう。


つづくッ!


N e x t T o p