天使のゆびきり 〜トーキング昼休み〜








「え〜、であるからしてだな。ここがこうなって……」

コツコツと先生が走らせるチョークの音と、カチカチ刻む時計の音。
その音がやけにうるさく感じる。
……なんで先生の声?
確か自習じゃなかったか?
顔を上げて、ぼやける視界を制御しながら時計を覗くと……
時計は見事に4時間目の授業中を指していた。
休み時間通り越して寝てたのね…。
どうでもいいけど、せめて起こして欲しかった。
あいつらは期待してないけど、御菜まで……ぐすん。



――――で、いろいろあって今度こそホントの授業。
御菜の初陣って訳だ。
そらめでたいんだけどさ……
よりによって俺の嫌いな数学は無いでしょ。数学は。

「(さっさと終わってくれよ……全くもって言ってる意味がわからん)」

こんな状態なワケで。

「(御菜は、どうなってるかな…?)」

ちらっと横目で隣にいる御菜の姿を確認。
こっくりこっくり舟を漕いで……るハズもない。
ちゃんと真面目にノートを取っているようだ。
俺の視線にも気がつかずに。
真面目さんだねぇ。

「(かくいう俺は、この有様……)」

何だか一瞬だけ恥かしくなったけど、解らないものは解らないからどうしようもない。
ひたすら指されない事を祈るだけ。

「(授業が終わるまで……残り一分!!)」

一分なんてあっという間に感じるが、嫌いな教科ほど進むのが遅く感じる。
学生諸君なら分かるだろ? この気持ち。
はよ過ぎれ! 一分っ!。

キーンコーンカーンコーン……

「…ん、チャイム鳴ったな。まだ途中だけど終わりにするか」

先生の一言で遂に開放!
やってきました至福の時間よ!

「いや〜やっと終わったな。総太、これからもちろんメシ食うだろ?」
「あぁ」
「俺たちゃ今日はパスするわ」
「は?」

意味分からんぞ、と思っていると何故か三馬鹿が揃ってニヤニヤして一点を見ている。
あぁーそう言うことですかい。
ったくすっかり馴染みやがって。

「そんなワケで、ごゆっくりな〜」
「教室の中では止めておけよ」
「…頑張れ」
「いや、頑張れって何を!? っていうかいちいちうるさいっつの!」

最後までからかいながら教室を出て行く。
午後の授業覚えてろよ〜。
「総太さん、どうしたんですか? お昼ご飯食べないんですか?」
「んにゃ、何でもないさ。……んで、何処でメシ食うか?」
「えっと、私また屋上に行きたいです。せっかく綺麗に晴れてますから、お日様の下で食べないと勿体無いです」
「そっか〜。うん、そうだよな。じゃあピクニック気分で行くか」
「はいっ」

どうやら弁当の方は朝のうちにこしらえたらしい。
それが入ったらしいバックを持つと屋上へ向かうために教室を後に。
廊下の窓から入り込んでくる日差しはちょっと暑いくらいだ。
ホント、夏が近いことが実感できる。

「こう天気が良いと、俺たちみたいな考えの奴がいそうだな」
「そうかもしれませんね」
「昼は行った事ないからどんな感じかわかんねぇや」
「混んでないといいですね〜」
「まぁ、混むって事はないかもしれないけど……」

最後の階段を上り終えて、ギィと重い扉を開ける。
さっきも見た風景がまた目の前に。
違うと言えば、太陽が真上辺りにあることかな。

「おっ誰もいないじゃん。ラッキー」

これが普通なのか珍しいのかは分からないけど、とにかくここには俺と御菜以外はいない様子。
のんびりメシが食えそうだ。

「あっそういえばここって椅子ないじゃん。どうやって食うか?」
「大丈夫です。ちゃ〜んと備えはあります!」

じゃ〜んと言って御菜が取り出したものは結構大きなサイズのシート。
なるほど、ここに座って食べればいいって事だな。
でもこれじゃまるっきりピクニック状態。
これで下が原っぱだったらカンペキだ。

「総太さん」
「ん?」
「どうせなら、もっとお日様に近いところで食べませんか?」
「近いところ?」

ここも十分に近いとおうもんだが。
当然だけどこれ以上、上はないぞ?

「この上です」

そう言って指差したところは屋上入り口の上の部分。
確かに梯子があって上れるには上れるが……
そもそも上っていいところなんだろうか?

「絶対に他の人に見つからないと思いますよ」
「まぁ、大声出さなきゃたぶん見つからないと思うけど?」
「では行きましょう〜」
「え……あ、おっおぉぉ!!?」

ポンと俺にバックを手渡すと、御菜が梯子を上り始め……って、こっこらぁ御菜!
自分の今の服装判ってやってんの!?
こういう時って自分後に上らない?
ってあわわ。 具体的には言わないけど、見えちゃう! 見えちゃうってb……くるり。


………………


……まぁそんなワケで後から俺も上ってお昼ご飯な訳よ。
ちらっと見えちまったよ。ちらっと。ハハハ……

「じゃ、じゃあ食うか〜」
「いただきます♪」

一口食べてから、そう言えば弁当を作ったのって初めてだよな〜と思い出した。
そんなに変化があるわけじゃないけど、一口で食べられるものが多く入ってる。
これなら食いやすい。
やっぱ御菜が作るのって、美味いよなぁ。

「やっぱりお空の下で食べるのって美味しいですよねっ」
「だな」
「ついつい気も緩んでしまいそうです」
「ん、気も緩むって?」
「こんな感じにです」

ふわっ

「おっ……」

一瞬柔らかな風が吹いたかと思うと、次の瞬間には御菜の背中から白い羽が。
本当に気が緩んでいるのか、その羽はどこか力がなさそうに見える。
気緩むって、そういうことなんすか?

「たまには出してあげないと可愛そうですからね」
「何か、聞いてると別の生き物って感じがするが……」
「光合成とか、してあげないと」
「植物かっつの」
「うふふっ冗談ですよ☆ でも、もともとはこれが普通なんですよ。でもここにいる時はあっては大変ですから、隠してるんです」
「そうか。そうだよな。確かに普通の人が見たら腰抜かしそうだし。そういえば、質問いいか?」
「なんでしょうか?」
「その羽って、背中から出てるんだろ?」
「? はい」

見てのとおりですが……と言いたそうな表情で答える御菜。

「制服、破れないのか?」
「えっ?」
「いや、背中から出てるって事は、服を破かない事には出せないんじゃないかなって」
「あ、そう言うことですか。えぇっと……う〜ん、ちょっと説明しにくいなぁ」
「…難しい事なのか?」
「いえ、そう言うわけではないんですけど……。なんと言ったらいいか、適切な言葉が見つからないんですよ」
「超能力か何か?」
「それは違いますよ。えっと……具現化、って言うのが一番妥当なところなのかなぁ」
「ぐ、具現化?」
「正確には違うんですけど、一番近そうな言葉ですね。私たちが持っているこの羽は見えたり触れることはできますが、本当に背中から生えてるって訳ではないんです」
「そうなのか?」
「はい。証拠見せましょうか?」
「いやいやいやいや。遠慮しておくよ」

うんと言うと、本当にこの場で制服脱ぎかねないからやんわりと断る。
それこそ、誰かに見られたらマジでヤバイ。
下手すりゃ停学モンだ。

「…そうですか?」
「あぁ。とっとにかく、結局のところ羽ってなんなんだ?」
「う〜ん、当たり前にあるものだから深く考えた事ないんですよね。それに天使によって形とかも少しずつ違いますからね。中には触れなかったり、本当に背中から生えてる人もいますし」
「むむぅ……天使ってのも奥が深いんだな」
「人間にもいくつかの人種があるから、それと同じだと考えてください」
「あ〜…そう言われると納得いくかも。日本人とかアジア系の人って、ヨーロッパとかと比べると足短いんだよなぁ。それと似たようなもんか」
「そう、ですね」

食べ物を口に運びながら、どこか食事時に話さないよな会話をしてる。
何か俺、いつにも増して真面目さん? え、そんなこと無いって?
気にするなよぅ。

「それにしても、あれだな」
「あれ?」
「今こうして見てると、御菜ってやっぱり天使なんだなぁと改めて実感するよ。普段は絶対にただの女の子だよな〜」
「そうですね〜。お家の中でもあんまり出しませんから。今度から出してようかな〜」
「いや、それはやめといた方がいいぞ。いつ誰がくるか分からないんだから」
「う〜ん、一度思いっきり羽を伸ばしたいなぁ」

……なんだか、御菜がその言葉を言うとまさに“文字通り”になるんだよな。
よく分からないけど、すんごく説得力があると思った瞬間だった。
苦笑いしながらこう言っておこう。

「ま、まぁ今のうちにたっぷり伸ばしておこう、な…」




昼ご飯も食べ終わって片づけが済んだところで、背伸びをしながら御菜に今思い出したことを言ってみた。

「あっそうだ……御菜、これから出掛けるぞ」
「出かける? 何処へですか。お家ですか?」
「いやいや、この中だよ。学校内。見たいとか言ってたろ」
「あ、そうでした」
「おいおい、自分で言っておいて忘れるなって……」
「えへへ。ごめんなさいです」
「ま、ちょうどまだ時間があるわけだから、全部は無理だけど近くから案内しようと思って」
「ありがとうございますっ」
「まぁそう言うわけだから。後片付けは頼んだ!」
「…えっ?」
「御菜〜早く片付けないと時間なくなるぞ〜」
「えぇっそんな〜。総太さ〜ん待ってくださいよぉ」

俺の頭の上から、御菜の悲痛な叫び(?)が聞こえてくる。
残念ながら、もう梯子を降りちゃってるのだ。

……で、俺が先に下りたものだから、御菜が降りる時に再び先ほどの現象を目撃する事になり……
俺は顔を真っ赤にするのだった。

「総太さん、顔が赤いですけどどうかしたんですか?」
「い、いや……別にぃ。ははは…」
「? ? ?」


つづくッ!


N e x t T o p