知ってるか?
人間って、自分の身に危険が迫ったときは、回避しようと大きな力が働くんだぜ?
そして、俺にとってのその状況って言うのが―――
「だって私は――――――――――」
今この時、なのである。
「い、磯原……?」
先生が……
「そ、総太?」
クラスのみんなが……
「「何、やってんだ……?」」
揃って俺の方を見ていた。
「むむぅーッ!!」
俺の目の前には、口を塞がれた御菜がいる。
勿論塞いだのは俺。
我ながらずいぶんと素早い行動をしたものだ。
お陰で机が倒れてら……
「い、いや……何でもない……はっははは……」
とりあえず笑っておこう。
御菜の唸り声と、俺の乾いた笑い声が教室に響いた。
何とか回避はできた、かな?
「なぁ、磯原よ」
「は、はい?」
「どうでもいいが、いい加減その手を離してあげたらどうだ?」
「え?……あっ!」
急に声が聞こえなくなったと思ったら、御菜がぐったりしていた。
慌てて手を離して声をかける。
「ご、ごめん。大丈夫か!?」
「え、えぇ……なんとか生きてます……」
少しの間呼吸を整えていた御菜だが、元に戻るとむすっとした表情でこちらを見ていた。
御菜の視線と、クラス全員からの視線が……要するに、全員って訳。
なんともまぁピンポイントで俺に視線を向けてる。
そりゃ当然なんだけどさ。
「ご、ご迷惑をかけました……」
「磯原、お前新人の呼吸を止めるのが趣味なのか?」
「ち、違いますって」
「だよなぁ?それともう一つ。何で高麗はお前の名前を知ってるんだ?」
「それはその……お、教えてあげたんですよ。職員室を教えてあげるときに名前を言ったから…です。ハイ」
「えぇっ!」
すぐ横から抗議の声が。
一難去ってまた一難……
「総太さん。それはちょっと酷いんじゃないですか!」
「な、なぁみ……高麗、さん」
「何で苗字なんですか!」
「頼むからここでは初対面と言う事にしてくれ……」
皆に聞こえないよう小声でお願いしたものの、今の状態の御菜に何の効果も得られなかった。
「私は“総太さん”と呼んでるのに、苗字は酷いです。いつも通り名前で呼んでください」
「「いつも?名前?」」
「いや、だからこれは……」
「それに今朝の事もそうです。せっかく起こしてあげたのに、驚かなくてもいいじゃないですか!一緒に住んでるのに、これでは先が不安です」
「「住んでる!?」」
……ゲームオーバー……
「こ、高麗と磯原……一緒に住んでるのか!?」
驚きを隠せない先生に御菜は何の迷いもなく頷いた。
それと同時に、静かだった教室内も騒がしくなる。
あぁ、終わりだ……。
「ひょっとして磯原、お前その事を隠そうとしてたのか?」
「……そうですよ」
なかばやけくそになって答えたけど、予想された反応は返ってこなかった。
それどころか、ふっと先生が口元で笑みを浮かべると面白そうに言った。
「な〜んだ、そんな事か。何を隠す必要がある。それだったらお前以外にもいるぞ。なぁ、磯辺と橋本」
「はい」
「俺たちだって一緒に住んでるぜ?」
「……うそぉ!?」
磯部さんと橋本が付き合ってる事は知ってたけど、2人も同棲中!?
って言うか先生!そんな秘密ごとバラしていいんですか!しかも知ってるし!?
「その顔だと、何で知ってるんだって言いたいんだろ?」
「……コクッ……」
「それは本人達から聞いてくれ。俺の口からはとてもじゃないけど」
今度は不敵な笑みを浮かべる先生。
同時に2人の顔が紅く染まった。
おいおい、なんだってんだよ。
「さてと、磯原の新事実発覚でちょいっと時間が掛かってしまった。幸い一時間目は俺だし問題はないけどな。おめでたいっぽいから今日は自習だ。 後はうるさくならない程度にやっててくれ。それと、この事は他言無用だぞ?他にバラしたら天誅モンだからな。んじゃ、解散」
終わった〜、と言いたいかのように雑談を始めるクラスの面々。
その中で、取り残された俺と御菜。
ちょっと疎外感。
うちのクラスっていつの間にこんな事を決めていたのか?
って言うか、普段はバラバラっぽいクラスの面々がなんていう統率力。
ある意味怖いよ……ホント。
「……総太さん」
「は、はい」
「私が言いたい事、分かりますよね?」
分からない、なんて言えない。
俺は素直に頭を下げて謝った。
その一瞬で見えた御菜の顔は何だか笑っていた。
ひょっとして……遊ばれた!?
「あぁ、そうだ言い忘れてた。お〜い磯原」
窓際に置いてある椅子に座っていた先生が声をかけた。
……今度はなんですか。
「高麗の椅子と机をちゃんと持ってこいよ。2時間目受けられないだろ」
「あ、そだった。取ってきます」
「場所は知ってるよな?」
「まずは階段下の倉庫、ですよね?」
「おうっ。じゃあ頑張れよな、2人とも」
外に響かない程度にざわついている教室をでて、倉庫へと歩いていく。
御菜も後をついてきた。
流石に授業中だけあって、聞こえてくるのは先生の声くらいだ。
そんな中を歩いてるんだから、まるで遅刻して来たような感覚。
経験がある俺としては、早く教室に戻りたい気持ちで一杯だった。
「えぇっと……さっきはゴメンな、御菜」
「え?」
「こんな事になるとは思ってなかったけど、学校では家での事秘密にしようと思ってたんだ。知られたらまずい事多いだろ?」
「まぁ……そうですね」
「一度御菜に話しておくんだったなぁ。まさか本当に一緒のクラスになるとは思わなかったから」
「私もです。神様に感謝しないと」
「スタートからいろいろあったけど、学校でもよろしくな。御菜」
「こちらこそよろしくお願いします。そ―――磯原さん♪」
「お、おい御菜……」
「えへへっ。さっきのお返しです」
そう言って俺の左腕をとり自分の腕を絡めてくる。
い、今は人が見てないからいいけどそれはちょっとまずいんじゃないだろうか。
学校単位で知られたくはない。
でもさっきの事があるから言おうにも言えず、そのままに。
ああぁ……ひょっとしたら今日の俺って運勢悪いかも。
それからすぐに倉庫について、真新しい机と椅子を一セット運び出してからまた教室へと戻っていく。
時間はそろそろ一時間目も終わろうかと言う頃で、早いクラスはもう休み時間に入っているらしく生徒が廊下に出ていた。
別に俺が気にすることでもないな。うん。
「総太さん」
「ん?どうした」
「私のお願い、聞いてくれますか?」
「お願い?」
おいおい、変な事は止めてくれよ?
「今度の休み時間に、学校の中を案内して欲しいです」
「あ、なるほど」
そう言うことならお任せアレ、だ。
不覚にも様々な教室に間違えて入ってるから案内には事欠かない。
問題は……。
「無事に案内できればいいんだけどねぇ〜」
「???」
「いや、こっちの話。さてと、教室に着いたぞ〜」
案内の……その真っ最中に教室を間違えない事を願おう。
そんなことを考えながら、教室へと入っていった。
後で聞いた話だけど、俺たちが机を取りに行ってる間も悠也達3人はフリーズ状態だったらしい。
よっぽど驚いたのか?
それと磯部さんと橋本の事は……俺の口からもとても言えない。
つーか、これは恥かしくて言えないでしょう?
あの2人、結構大胆だと言う事が判明。
ひょっとして、うちのクラスって変わり者揃い?
つづくッ!
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