天使のゆびきり 〜驚きの連続、二 〜








6月のとある朝。
今日も何も変わらない1日が始まるはずだった。
でも、それは少女の一言で大きく変わったんだ。

「今日から私も総太さんと一緒に登校です♪」

そして今―――。




それほど人が歩いていない道を、御菜と2人ゆっくりと歩いている。
もちろん、御菜が歩くのは初めての道だ。
一昨日は学校とは反対側を歩いてたし。
見慣れない風景を世話しなく首を向けて見ており、その姿といったらまるで子供のようにも見えた。

「総太さん、学校まではどれ位あるんですか?」
「そうだなぁ。あんまり詳しく測ったことないけど、大体20分くらいじゃないか。一本道じゃないし」

たま〜に走っていくときがあるからなぁ……時間なんか特に気にしてない。
ようは間に合えばいいんだ。間に合えば。
でも、間に合わなくてHR最中に教室に入ることもあったりする。
初めはそれで間違えた教室に行って笑われたんだ。
もうやりたくはない。

「どんな所かなぁ。総太さんと同じクラスになれるかなぁ〜」
「う〜ん、そればっかりは運要素が強いんじゃないか?何せ9クラスあるんだし」
「1/9ですか……頑張るぞ!」

が、頑張るって、何にですか?
何だか凄い意気込みを感じるんですけど。
ちなみに、この何ともいえない威圧感のような感じは学校に着くまで続いた。
あんまり頑張りすぎないでくれよな。御菜……

「じゃ、とりあえずはここで一旦お別れだな」
「それじゃ、またです♪」

御菜が職員室のドアを開けようとした瞬間、中から先生が出てきた。
あれま、ちょうどうちの担任じゃないの。

「おっ磯原じゃないか。どうしたんだ朝からこんなトコに。何か用事か?それとも、まさかここを教室と間違えたわけではあるまいな?」
「んなわけないでしょう!俺はみ―――この子を職員室まで案内しただけッス」
「今日からこの学校に転入してきました、高麗御菜です。よろしくお願いします」

ペコリ、とお辞儀をする。

「おっそうか〜偉いぞ磯原。それじゃ後は先生に任せて、お前は教室を間違えずにちゃんと行けよ〜」
「だから間違えませんって!」

ったく……うちの担任は事あるごとに教室を間違えるなって言うし。
そりゃ、頻繁に間違えてる俺が悪いんだろうけどさ、俺だってワザとやってる訳じゃないんだぞ?
どういうわけか、やってしまうんだ。
いい加減この悪い癖直したいよホント。
そんなこんなで間違えずに教室に着いて、まだ生徒が少なく空席の目立つ室内へと入っていった。

「やれやれ。御菜と一緒に来たとは言え、ちと早く着きすぎたかなぁ?」
「何が早くなんだ?」
「うわぁっ!?」

何の前ぶりもなしにいきなり耳元で声をかけられた。
思わず大声出して椅子ごと仰け反ると、そこには笑いを隠そうとしてる悠也の姿が。
直後、俺の視界はぐるりと回って背中に衝撃。仰け反った反動で椅子ごとひっくり返った。

「いってててててて……ったく、何だよいきなり声をかけるなよ」
「わりぃわりぃ。総太がこんな時間にいるもんだからつい」
「こんな時間にいちゃ悪いか?」
「んにゃ〜そうは言ってない。珍しいからからかいたくなっただけ」

に〜っと歯を出して笑ってる。この朝練野郎め。
悪気がないだけ更に悪質だ!

「悠也は今日も部活でか?」
「当然」
「残りのおサボり軍団は?」
「じき来るだろ。ほれっうわさをすれば」

これで今日もいつものメンバーがそろったわけだ。

「よぅ総太、元気か?」
「相変わらずだよ。そう言う彰はどうなんだ?ま〜た誰かのケツでも追っかけてたんだろ?」
「そうそう、聞いてくれよ〜。昨日さ、他校の制服着た可愛い娘見つけちゃってさ。思わず声かけそうになった」
「そ、そうか……(まさかホントにやってたとは)頼むから連れ去ったりとかしないでくれよ」
「いくらなんでも、そこまではしないぜ?んなことしたら犯罪者になっちまう」
「幼稚園児好きな時点で犯罪者だ」
「だ〜から、悠也は何故すぐにソコに持っていくんだっての!第一、俺は園児好きだなんて一言も言ってないぞ!」

またいつもの漫才が始まった。
どうでもいいけど、最近ネタが同じじゃないか?
園児ネタで悠也がボケ(?)て彰が突っ込んでるし。
ひょっとしたら園児好きなのは悠也のほうなんじゃないか?

「あの2人、ホント漫才好きだよな〜」

それを、これまたいつものようにのほほんと見ている秋伸がやけに珍しく思えた。

いつもやってるようなやり取りをしているうちにチャイムが鳴って、程なくして先生が入ってきた。
御菜が一緒じゃないところを見ると、クラスは別れたかな……。
何だかんだ言ってアレだけど、非常に残念。

「―――んっ、全員いるみたいだな。磯原はちゃんと席にいるか?」
「だからもういいですって!」
「そうか。じゃあ和んできたところでホームルームと行くか〜」

所々でクスクスと笑う声が聞こえる。
先生、俺をクラスの和み起爆剤にするのは止めてくれ。
その都度俺に視線が集中してしょうがない。
悠也とかもこっち見て笑ってるし。
とりあえずあいつらには消しゴムのカスでも投げとく。
隣と後ろだから当然のように当たるわけで。
しばらく俺たち4人は先生の話そっちのけでお互い消しゴムのカスを投げ合っていた。

「―――と、言うわけだ。おら、磯原以下全4人!ここまでは職員からの戯言みたいなもんだから聞かなくても言いが、これだけは聞いておけ。損はないぞ」

かなり意味ありげな発言。
というか先生、職員会議で出た話題に戯言はないでしょ。

「最後の最後だが、これはビッグなお知らせだ。ちゃんと聞けよ。……山下、外見てないでこっち向け。四条、聞いた瞬間に突っ伏すな」

名指しで的確に注意を飛ばしてる。
やっぱりあんた変わってる先生だよ。

「なんと、うちらと同じ学年にこの度新メンバーが加わった。…ようは転入生だな。んで、これからが重要だぞ〜。その人物がうちのクラスに配属が決まったと言うわけだ! 凄いだろ?9分の1に当たったんだぞ?まるでドラフトでいい選手1位で取れたみたいだ」

ドラフトねぇ〜……そんなもんか?
でも、それってひょっとして御菜の事か?
思わず聞き入ってしまう自分が可愛い……とは言わない。

「それでな、これは男子が喜ぶと思うんだが、新メンバーってのが女子なんだわ。よく聞け男子諸君!しかもなかなかの美人だ」

その一言で一気に男子の視線が教壇へと向いた。
一部目を血走らせてる者もいるけど、それはこんたん見え見え。
どうせお近づきになって―――ってな具合だろうに。

「なぁなぁ聞いたか総太。女の子だってよ。しかも美人だぜ?」

後ろからかなり嬉しそうな感じの声が。
言うまでもない、彰だ。

「そうだな〜」
「なんだ?おまえ興味ないのか?」
「無いわけじゃないけど……」
「だったら、もう少し喜べよな。知り合いになれるチャンスかもしんないぞ」
「知り合いねぇ〜」

俺の予想が正しければ、彼女は知り合い以上の存在です。

「センセー。早く招いてくださいよー」
「そうだそうだ〜!」
「まぁまて。そう焦るな。今呼ぶから静かにしろって。ほら〜そこ、万歳三唱すな!」

ざわつく教室内を静めて、ふっと口元で笑みを浮かべると廊下に向けて声をかけた。

「よーし、入ってきてもいいぞ」

若干の間合いが合って、ゆっくりとドアが開いた。
今までの騒音が嘘のようになくなり、全員がその先にくるものに視線を向けてる。
もちろん俺だって。

そして、開かれたドアから入ってきたのは――――


「よし、じゃあ新入り。ここで挨拶だ。第一印象だ大事だぞ。しっかりやれよ!」

「はい。えっと、今日からこの学校に通う事になりました。高麗 御菜と申します。みなさんどうぞよろしくお願いします」


ビシッ!


何かが凍りつくような音が聞こえた。
何かと思えば、さっきまではしゃいでいた彰が前を向いたままフリーズしている。
同様に悠也と秋伸も。
口をポカンと開けて、目もまん丸になったまま見開いている状態。
あ、そうか会った事あるんだっけ。しかもそれが最悪な形で。
そんな事は露知らず、御菜は一通り自己紹介を終えてペコリとお辞儀をした。

「ふむ、まぁ上出来だったぞ。じゃあ席だけどなぁ……おっラッキーじゃないか磯原君!何と君の席の隣は何もないではないか!」

確かに、俺の右隣には未だに凍ってる悠也がいるけど、左側には誰もいない。
と言うか机すらない。

「さて磯原少年。ここでキミが何をすべきか、もう解ってるだろうな?」
「……先生、さっきと喋り方が180度違います」
「解ってるだろうなぁ?」

ずいぃっと顔を近づけてくる。
楽しんでる、このティーチャー人で遊んで絶対楽しんでる!

「……はい」
「おぉそうか!聞いたか諸君、磯原は机のない新入りに自ら持ってくると言う親切な心を見せたぞ」

おぉっ!とクラスの中がざわめく。
こらこら、あんたらも乗るな。
ってか一緒になって遊ぶな、笑うな、こっち見るな。

「よかったなぁ高麗。隣人が人が良くて」
「人が良いってのは褒め言葉じゃありません!」
「何だよ磯原、お前には言ってないぞ。俺は高麗に言ったんだ」
「……せめて“いいひと”にして下さい」
「だ、そうだ」
「はい。総太さんはとっても良い人ですから♪」

御菜が花のような笑みを浮かべて答えた瞬間、クラスのざわめきが止まった。
いまの今まで俺で遊んでた先生すら、ヘンな表情のままこちらを見ている。
当の御菜は『?』となって首をかしげていた。
そして俺は……

み、御菜サン?アナタ今ナント仰イマシタ?


「こ、高麗……おまえ今磯原のこと、名前で呼ばなかったか?」
「え、はい。呼びましたけど」
「何で今日きたお前がこいつの名前知ってるんだ」
「何故って―――」

や、止めろ御菜!それだけは言っちゃいかーん!!


「だって私は――――――――――」


つづくッ!


N e x t T o p