…………
静まり返った部屋の中に、お茶をすする音だけが聞こえてる。
俺と御菜の反対側に座ってるのは、御菜の妹である彩音。
どうでもいいけど、羽出しっぱなしでお茶を飲むのはやめて欲しい。
もし誰か来たら……って、今朝来たあいつらは当分来ないだろうから、とりあえず大丈夫だけど……
なんか違和感があってしょうがない。
「で、彩音。急に来てどうしたの?」
俺も気になってた事を御菜が尋ねた。
コトン、と来客用湯飲みを置くと、急に下を向いてしまった。
なんだ……嫌な事でもあったのか?
「実はね……」
ふむふむ…
「御菜のダンナが気になっちゃって来ちゃった♪」
ハハハハハ……来ちゃった♪か〜………
「お前もその類かい!」
「そ、総太さん?」
はっ!?いかんいかん。
心の中で突っ込みを入れるはずが、思わず声に出てしまった……
にしても、昨日のあの両親にてこの妹か。
家族揃って俺を下見に来るな。
「う〜ん。やっぱりお父さん達が言ってたとおりね。いい人っぽそう」
「そりゃどうも。ついでに一言言わせてもらうと、勝手に家に入るのはやめてくれよ。泥棒かと思うだろ」
「一応呼び鈴は鳴らしたんだけど、誰も出なかったから、つい……怒ってる?」
何となく上目づかいに聞いてくる。
いや、別に怒ってる訳じゃないけど、一応人としての礼儀と言うかマナーと言うか……って一緒か。
「ほっ、よかった〜……」
と言って胸を撫で下ろしてる。
同時に羽も力が抜けたかのようにふんわりと揺れた。
あれ?
何で俺が心に思った事知ってんだ?
これって確か……
「なぁ、御菜」
「なんですか?」
「確か……くっついてないと分からないんだよな。人の考えてる事って」
そう聞いたんだがなぁ。
「あっ……それはですね。彩音は―――」
「御菜は相手に触れてないと判らないけど、私の場合は触れてなくても読めるってワケ。 でも、それが出来るからって普段から読んでたら嫌われちゃうでしょ?だから、よっぽどの事がないときは封じてるの」
「で、これが大事そうだから覗いて見たわけ、と?」
「うん。せっかく仲良くなれたのに、嫌われちゃうってイヤでしょ?」
まぁ、ごもっともな意見で。
にしても……
「なぁ、彩音ちゃん」
「はい?」
「さっきから気になってたんだけど、その脇に置いてあるぬいぐるみって何なの?俺が見たとき動いてたんだけど」
「あっこれ。これはね、私のお気に入りなの。動いてたって言うのは……念力みたいなものかな?ほら、こうやると」
ピクピクと動き出すぬいぐるみ。
あ、なるほど〜。こう言う事だったのか。おっ、バク転もするよ。すげ〜。
「まぁ、こんな所かな」
「お見それ致しました」
願わくば、これを人前でやらないでほしいな。
目だつ事この上ない。
「でさ、本当にここに来た理由って俺を見に来ただけって訳じゃないよね?」
「えっ?それはどういう……」
「見に来るだけでこんな事はしないと思うし、それに『力』だって……御菜に見せてもらったからよかったけど、 知らなかったら今ごろ俺気絶したかも」
「そ、それはそうですね。ぬいぐるみが動くなんて、考えられませんもの」
御菜も納得している。
……最初から気がついてほしいものだけど、そこは常識の違い。ここじゃ動くわけもないんだし。
さて、ここまでしたその理由とは―――。
「う〜んと、理由と言うよりは……」
「………………」
「ただ、遊んでみたくなっただけ、かな?」
ダンッ!
「きゃっ。そ、総太さん!?」
痛い……痛すぎる。
そこまでしてやった理由が、遊んでみたくなっただけ、とは……ぶつけた額が痛いぜ……
「あ、嘘うそ。そんな軽い理由じゃないよ。確かに、御菜の夫の顔を見にきたって言うのは嘘じゃないけど…… ほら、気になるじゃない。ずっと小さい頃から話していた人物がどんな人か」
「小さい頃?」
「うん。御菜ってこの約束の事をずっと言い続けてきたのよ。この人は私の王子様だって」
ちらりと御菜の方を見ると、頬が赤く染まっていた。
小さい頃からずっとって、すごいと言うかなんと言うか。
もう一方はすっかり忘れてたのに……言ってて自分が情けなくなってきた。
あぁ!俺のバカバカッ!!
「それで……磯原さんはどう思ってるの?御菜の事」
「ど、どうって?」
「好き?」
……んな直球で聞くな。
会って2日なのに早すぎって思われるかもしれないけど、俺は御菜の事は―――。
「もちろん」
隣の御菜は、更に頬を赤く染めていた。
聞いた本人である彩音ちゃんも、わおっ、と言いたげな表情をしてる。
い、いいじゃないか。《好き》に日数は関係ないだろ。
それに……俺だって今恥かしいんだぞぅ。
「……まぁ、確かにそうなんだけどね」
「……ひょっとして、また?」
「うん。覗かせてもらいました」
今日の俺は隠し事はできそうにありません。
「だから、そんなやたらむやみにはしないから〜」
「言ってる側からやってんじゃん!」
「あ……あはは……」
「えぇ、そうだったの?」
「はい。ね、彩音」
「うん」
それは知らなかった。と言うか、言われるまで全然考えもしなかった。
御菜と彩音ちゃんって、双子!?
「でも、結果的には違うんだよねぇ〜。お母さんが私達を産んだ時間が時間だったのかもしれないけど……」
「時間?それはまたどういう事で?」
「私が生まれたのが、4/1が終わる少し前で、彩音が生まれたのが……」
「4/2って事なのよ。だから、一応は双子なんだけどたった数分の違いで一学年差が出来ちゃったのよね」
「そうだったのか〜」
「磯原さんは誕生日何月なの?」
「ん……彩音ちゃんが生まれる一年前に16を足した日」
「えぇっと、4/18ですか?」
先に御菜が答えて、すぐ後に彩音ちゃんが頷いていた。
「当たり。そんなお陰で俺は今まで出席番号が一番から動いた事なかったさ。あかさたな順だと“い”でトップ。 誕生日順だと俺より前の人がこれまでいないから自然に最初――ってね」
「ふぅ〜ん……あっ、よく考えたら私達3人いても誕生日が4月しかないんだ。固まってるなぁ」
「偶然だろ?こればっかりは俺たちに決められない事だし」
「それもそうだね」
ずっと話してて少し喉が渇いたから、それを潤す為にお茶を口に含んだ。
……ぬるい。
と言うか、時間が経って渋くなってる。
そんなに話してたか?
時計に目をやってみれば短い針が真ん中からずれていて、右斜め下を向いてる。
ようするに、今の時間はというと。
「もう3時過ぎてらぁ……」
「えっもうそんな時間ですか!?」
御菜がビックリしてる。
買い物行って帰ってきたのが昼前だから、タップリ2時間は話してたのか〜。
どうりでお茶も冷めてるわけだ。
どうりでお腹も空くわけだ。
「お昼ご飯にしないと……でも、今食べちゃうとお夕飯が食べられなくなっちゃうし、食べないのも体に良くないし……」
台所で御菜がエプロンを装備しつつもどうしようかと動き回っていた。
さて、本当に昼どうしよう?
俺的には今食べても問題はないと思うけど、2人はやっぱ女の子だし無理かなぁ?
と……。
「そうだ♪」
ニッコリと笑って手を合わせたかと思うと、鍋を取り出してお湯を沸かし始めた。
一体何を作るんだ?
「お昼はうどんにしましょう。腹持ちも良いですし、消化も早いですから少しお夕飯を遅らせればちゃんと食べられますよ」
「うどんかぁ。あ〜今日買ってきたな」
「はい。急いで作りますね♪」
「あっそれなら私も手伝おうっと」
彩音ちゃんがピンッと指を弾くと何もない空間からエプロンが現れた。
これ見てもうなんとも思わなくなってる俺はすでに一般人ではないですね。
まだ一日経ってもいないのに、なんて適応力やら。
いや、ただ何とも思わないだけか。
気にしない気にしない〜っと。
結局、お昼は3人で味噌煮込みうどんを食べたとさ。
つづくッ!
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