天使のゆびきり 〜お話しましょう〜
御菜が俺の家に突然やってきてから、2日目の朝。
と言っても、正確にはまだ1日すら経ってないけど。
俺の頭の中にはいくつかの疑問点が浮かんできていた。
彼女が俺の婚約者ってのは分かった。
こんなに可愛い子だったらこちらからお願いしたいくらいだ。
でも、それはもう知ってる。
人間じゃなくて、天使、と言うこと。
これも知ってる。
それに、俺はそんな事気にしない。
あ……でも少しは関係してる事かもしれないな。
俺が気になっているもの、それはさっき御菜が使ったといっていた『力』についてだ。
「なぁ御菜、1つ聞いてもいいか?」
「なんですか?」
隣に座っている御菜が首をかしげた。
そう言えば、ご飯を食べるときやお茶を飲む時など、いつも隣に座ってるな。
もはや指定席か?
いや、それはいいんだ。一向に気にしてないし。
「さっき言ってた『力』とか言うやつだけど、あれって何なんだ?」
「あっそれはですね〜」
と言って話し出そうとしたが、急に止めた。
すると『言葉で伝えるより、実際に見ていただいたほうがいいですね』と言って立ち上がった。
ふわり
そのまま宙に浮かびだす。
な……なんとまぁ、これは。
「限定的なものではありませんが、こういったものです」
「は、はぁ……」
「こんな事もできますよ」
と言うがいなや、突然襲ってくる浮遊感。
同時に、先ほどまであった床に座っている感覚が無くなった。
テーブルが下方に流れてゆく……って、よく見ると俺浮いてる!?
「わっわわわわわ!」
「ふふっ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私が故意に落とさない限り、落下はしません」
「いや、で、ででもなぁ御菜。おっ俺浮いてるぞ!どうなってるんだ!?」
「これが、あなた方が言う『力』と呼ばれるものです。私たちにとっては日常的なものですけど」
俺から見れば、淡々と話す御菜がとても凄く見える。
未だにパニくっている自分がすこ〜しだけ恥かしい。
でも、浮遊感と言う事を除けばさっきまで座っていた時と何ら変わりは無かった。
しばらくすると、次第に俺も慣れていった。
「慣れてきましたか?」
「あ、あぁ。何とか。でもすげぇや、普通じゃ宙に浮くなんて芸当無理だからな」
言いながらクルッと前転。
「ちなみに、昨日来たお父さんとお母さんが帰る時に急にいなくなりましたよね?あれもこれと似たようなものです」
「瞬間移動か?」
「そうですね」
「御菜も出来るのか?」
「はい。出来ますよ」
瞬間、パッと御菜が消えた。
それから1秒も経たないうちに、俺の背後から声がした。
「そ〜たさん♪」
「え? わっ」
後ろから俺に抱き付いて、そのままもたれかかった。
反動で少し揺れたが、それでもバランスを崩すことなく普通に座っているときと同じ感じだった。
御菜の前髪の一部が頬に当たってくすぐったい。
それに……背中に当たる何とも柔らかな感触がね……はうぅ。
「わかりましたか?」
「あ、あぁ……分かった」
いろんな事も含めて、十二分にな。
そのまま少しの間も、2人して浮いたまま&そのままの姿勢でいた。
ここで1つ気が付いた事が。
浮いている状態でも歩く事は出来るか?
俺は、御菜を背負ったまま立ち上がった。
何ともない……
本当に何の抵抗も無かった。
まるで、空気を地面にして立っているかのような。
「何ていうか、あれだな?」
「あれ?」
「この状態を、もし他の人に見られたらただごとじゃ済まされないだろうな」
「……そうですね」
「降りるか?」
「おりましょうか」
ゆっくりと床に降下していく。
言っておくが、そんなに高いトコにいたわけじゃないぞ。
大体……うん、50cmくらいだ。
「あ〜、何だか一生に一度の体験をしたみたいだ」
床に足を伸ばす。
さっきのも良かったけど、やっぱり普段から触れている床に足をつけたほうが、何となくだが安心感があった。
んな俺を見て、御菜がふふふっと笑う。
ちなみに、まだ俺にもたれたままでいる。
「〜♪」
俺からすれば、何が楽しいのかは分からない。
でも、幸せそうな顔をしているので、特に何もいうことなくそのままでいた。
あ〜る意味、兄妹ってみられても不思議じゃない……かな?
「総太さん……私の事、そんな風に見てたんですか……?」
「えっ?」
「兄妹、なんですか?」
「え、えぇ?」
な、何で喋ってもいないのに俺が思ったことが分かるんだ?
それともあれか?実は口に出してたとか!?
「心、読めるんですよ。相手とこうやってくっ付いていると」
「そ、そうなのか?」
「はい……」
「ご、ごめん」
「ちょっと、悲しいなぁ〜」
「別に、本当にそう思ったわけじゃないんだ。ただ、そう見えるかもなって思っただけで……」
ふわっ……
「御菜?」
包み込まれるように、そっと抱きしめられた。
御菜の腕だけではない。俺の目の前にあるのは純白の羽……
そう、彼女の腕と羽の両方にくるまれているのだ。
そして、御菜が俺の背中に自分の顔をペタッとくっ付けると、
『本意じゃない事は分かってます。私、総太さんの事信じていますから……』と、脳に直接響いてきた。
昨日寝る前にやった、テレパシーみたいなやつだ。
「ごめん。俺が悪かったよ」
腰辺りに巻かれた手に、俺の手をそっと重ねて話し掛けた。
御菜は、きっと不安なんだな。
自分は信じているのに、相手の気持ちがわからない。
もしかしたら、自分は必要とされてないのかもしれない、と。
俺も少し軽薄だったかな……ゴメン、御菜。
「…………」
俺を抱きしめる力が強くなった。
それからしばらくして、俺はある考えのもと御菜に話し掛けた。
「なぁ、御菜」
「……なんですか?」
「買い物行かないか?」
「お買い物、ですか」
「うん。散歩ついでに行こうぜ。俺、こう見えても結構散歩好きなんだよ。
休みの日とかよくその辺歩いてるし。どうだ、行くか?」
御菜は、しばらく考えた後、うん、と頷いてくれた。
お互い立ち上がって、さっと準備を整えて家を出た。
6月の穏やかな午前中。
そろそろ本格的に半袖に腕を通そうかと考えるくらいの季節。
ちょっと気温が高いけど、俺と御菜はお互い手を繋ぎながら買い物までの道のりを
う〜んと遠回りして歩いていった。
「そう言えば、総太さん」
「ん?」
「さっきの、考えってなんですか?」
「……あっそうか。御菜には聞こえてるんだったな。俺が考えたってのはこの事だよ」
「この事?」
「散歩の事。こうやって、外をのんびりしならがら歩いてれば心もスッキリするだろ?」
「はぁ……」
イマイチどういったことか分からないのか、若干戸惑い気味だった。
つまり、俺が言いたいのはだな……
「俺も……」
「え?」
「俺も、御菜の事信じてるから。まだ会って2日しか経ってないけど、それでも俺は、信じてるぞ」
俺が言った後に見れた御菜の笑顔は、この日の太陽に負けないくらい輝いていた。
そして、その笑顔と同じくらいに元気よく、はいっ!、と言った。
「よしっ、それじゃあもうちょっと遠回りして川辺のほうまで歩いてみるか〜」
「はいっ♪」
つづくっ!
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