天使のゆびきり 〜お風呂場は大混乱〜
「ご馳走様でした」
お粗末さまでした、と言って御菜が食器を流しへ持っていく。
俺も手伝おうとしたのだが、大丈夫です♪と言って自分で全部持っていってしまった。
あれから、すっかり冷めてしまったおかずを温めなおして食べた。
御菜は、俺の隣に座ったものの普通に食べていた。
人の手料理を食べたのは随分と久しぶりだなぁ。
普段はコンビニの弁当とか、カップ麺ばかり食べてたし。
はぁ、小さな幸せを感じる。
と、もう洗い物が終わったのか、御菜がエプロンをはずしながら歩いてきた。
「もうすぐお風呂のお湯が溜まると思いますので、お先にどうぞ」
「そっか。なら御菜先に入っていいよ」
今まで料理とか、あとかたづけとかやってくれてたし、他にもいろいろあって疲れてそうだもんな。
そう思った俺は、先に入るようにすすめた。
「そんな。私はここに居させてもらっている身です。先に入るなんて事できませんよ」
居させてもらってるって……
これじゃまるでお手伝いさんみたいじゃないか。
「でもさぁ」
言葉を続けられなかった。
御菜は、俺の唇に人差し指を当ててクスッと笑うと、
「心配してくださってありがとうございます。やっぱり総太さんは優しいですね。だから私は……」
「…………」
「でも、私は大丈夫ですよ。総太さんの気持ちだけで十分です。ですから、先に入ってください」
と言って、俺を見つめた。
これも御菜なりの優しさなんだろうか?
だとしたら、それを踏みにじってはいけない。
御菜はきっと、俺の事を思って言ってくれてるんだ。
俺がそれに応えないと!
「わかった。それじゃ、先に入らせてもらうよ」
「はい。ゆっくりしてきて下さいね」
ザバーッ
そして今、俺はこうして風呂に入っている訳だ。
あ〜ぁ、わずか3、4時間くらいのあいだにいろんな事が起こったなぁ。
今までの事を、分かっているだけでまとめると、
御菜は、俺が小さい頃助けてあげた(大袈裟かもしれないけど)あの女の子。
しかも、彼女は人間ではなく天使だった。
そして、その時女の子が言った言葉というのがさっき御菜が言った、
『おおきくなったら、およめさんになってあげるね』で、
今年16歳になった御菜が、約束通り嫁に来た、と。
しかも、両親共にそれを容認って言うか絶賛してる。
んで、夫婦揃って俺の注意・危険人物リストに指定された、と。
――まぁ、こんな所だろうか。
「はぁ」
温まっているうちに緊張がほぐれたのか、どっと疲れが出てきた。
そりゃ、あれだけの事がいっぺんに起こればなぁ。
俺は、ふぅと一息湯気の昇る天井を見上げた。
「御菜、か」
御菜は、今時珍しいくらい、純粋で素直な少女だ。
しかも、家庭的で可愛いとまでくる。
その辺にいるコギャルとは雲泥の差がある。
いや、比べるだけ御菜に失礼か。
そんな彼女が、俺の……こっ婚約者って言うのか?
俺は世界一の幸せ者かもしれない……なんてな。
まだ恋人すらできた事のないのに、それを一気に飛び越えて結婚まで至っている。(まだしないけど)
結婚、か。
……ん? ちょっと待てよ。
今思ったんだが、人間と天使って結婚できるんだろうか?
国際結婚とかは聞いた事あるけど、どうなんだろう。
今度御菜に聞いてみようかな?
恥かしいけど……
あぁ! さっきから結婚結婚って何言ってるんだ俺は!
のぼせたか!?
きっとそうだろう、少し湯船から出るか。
火照った身体を冷やすために湯船から出て、頭や身体を洗うときに座る椅子に腰掛ける。
お湯に浸かってない分いくぶんかひんやりとした。
「さっさと頭と体洗って出るか」
そう言ってシャンプーに手をかけようとした時、後ろで扉の開く音。
外からのひんやりとした空気が入り込んでくる。
直後、また扉の閉まる音が聞こえた。
ちなみに、俺の家には現在二人の住人がいる。
俺と御菜。
で、俺が今こうやって風呂に入ってるんだから……
って事は……まさか!?
「……総太さん」
ビンゴ! 大当たり!!
背後から御菜の声がした。
俺は手を伸ばしたままの姿勢で固まっている。
そして、ギギギっと音を立てながら冷や汗ダラダラの顔を後ろへ向けると、
「お背中流します♪」
花のような笑みを浮かべる御菜がいた。
しかもその格好は、バスタオル1枚体に巻いてるだけ。
うわぁ、結構スタイルいいな……そうじゃないだろ!俺!!
「…………」
「…………?」
しばらくフリーズした後、御菜が「?」と首をかしげた瞬間俺の脳が再起動した。
「ぎゃあぁぁぁぁ〜ッ!! みっみなぁ!?」
「きゃあっ!」
ついこの狭い空間で大声を出してしまったので、風呂場中に声がこだました。
びっくりした御菜が小さく悲鳴をあげて耳を塞いでいる。
「総太さん……大きな声出さないでくださいよ〜。耳が痛いです」
むぅっとこっちを睨みつける。
あぁ、怒った顔もまたかわいいなぁ……じゃなくって。
「あっゴ、ゴメン」
「今度から気をつけてくださいね」
「あ、あぁ……そ、それよりも、なっなな何で御菜が風呂場に!?」
「一緒に入ろうと思いまして」
「い、いっしょに!?」
「はい♪ お背中流しますよ」
スポンジ片手にニッコリと笑っている御菜。
さっきからびっくりしたり怒ったり笑ったりと、コロコロ表情が変わっている。
俺がその返事にちゅうちょしていると、今度は今度は悲しそうな表情になった。
「ダメですか……?」
両手を前で重ねて、少し上目遣いにこちらを見てくる。
そ、そんな目で見られたら恥かしいからイヤって言えないじゃないか!(敗北)
俺が顔を赤くしながら、いいよと言うと、再び笑顔になった御菜に背中を流してもらった。
もう恥かしくて恥かしくて、これ以上話すことは出来ない!
うぅ、腰にタオルを巻いておいてよかった〜……
備えあれば憂いなしってことわざを、改めて実感した。
「ふぅ〜……」
俺は湯船に浸かっていて、御菜は体を洗っている。
もちろん俺は見てないぞ!
絶対見えないように後ろ向いて、ちゃんと目を瞑ってるんだからな!
ホンの少しだけ、ほんのちょこっとだけ見てみたいなぁと思ったが、そんな事したら御菜が悲しむだろうから、
無理やり欲求を消し去った。
「総太さん、もういいですよ」
俺が心の中で必死に格闘している間に、いつの間にかシャワーの音がやんでいた。
一応警戒しながら恐る恐る振り返ると、ちゃんと体にタオルを巻いてあった。
ふぃ〜、一安心。
そう言えば、いままで気づかなかったけど、御菜の髪の毛って以外と長いんだなぁ。
さっき部屋にいたときは、リボンか何かで結わってたからそんなに気にしなかったけど。
ただ自然に下ろしてる御菜の髪型も似合うな〜。
「イヤですぅ、そんなにじろじろ見ないでください……恥かしいです」
「あっごめん、そんなつもりじゃ。ただ、御菜って髪の毛が長いな〜と」
「そうだったんですか。でも……」
「でも?」
「み、見たいなら、ちゃんと言ってくだされば……イヤって言いませんから……」
「へ!? いや、そういうわけじゃあ」
多分体を隠そうとしているのだが、それが逆に色っぽく体をくねらせるように見えたので、ますます真っ赤になった。
恥かしさに耐え切れなくなった俺は、一声かけると逃げるように風呂場を飛び出す。
にしても、さっき言った御菜の言葉、言えば本当に……
「…………」
はぁ〜。
またヘンな事を考え始めそうになったので、俺は近くにあったテレビのリモコンで自分の頭を思いっきり叩いた。
当然というか、その考えは消え去り、痛みだけが余計に残った。
うぅ、痛い。
つづくっ!
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