天使のゆびきり 〜彼女は天使〜
「約束、です♪およめさんになりに来ました。総太さん」
彼女はそう言って、とんっと跳ねたかと思うと、俺に向かって飛んできた。
まて、そんなことしたらまずいだろ! と、思っていたのだが……
ふわり
「えっ……?」
なんだろう?
はなッから慣性の法則を無視したかのような衝撃は……
俺の胸元に飛び込んできた彼女だったが、その衝撃は無いに等しかった。
まるで、風か何かが俺を撫でていったような、そんな柔らかいものだった。
「総太さん……」
彼女は、抱きしめながら俺の名を呟いた。
当の俺は訳のわからない事だらけで、すっかり頭の回転が鈍くなっている。
いや、むしろオーバーヒート状態でストップ。
パソコンで言うならフリーズ状態って言ったところか?
その一番の原因が、彼女の背中から見える『羽』だ。
「そ、その羽みたいなのは……?」
「これは、羽です」
……いや、そら分かってるんですってば。
俺が言いたいのは、どうして羽があるんですか?って事なんだが。
「キミは……」
「御菜、です」
「え?」
「御・菜・」
名前で呼んでって事、なんだろうなぁ。
「み、御菜は、一体?」
「総太さん」
「は、はい?」
「私の言う事、信じてもらえますか?」
「え?」
「私が言った事……全部、受け止めてもらえますか?」
「……う、うん」
よく分からないけど、頷く。
何かを話そうとしている御菜は、先ほど以上に真剣な顔つきになっていた。
これから言う事は嘘なんかじゃない、と目で言っている。
俺も、御菜の話をちゃんと聞くために深呼吸をしようとした。
が、よくよく考えてみると、俺は今御菜に抱きしめられている状態だ。
これはとてもではないが、真剣に話をする体勢じゃないだろう。
それを御菜に言うと、ちょっと寂しそうに唇を尖らせたが、しぶしぶながら隣に座った。
「私、本当は人間ではないんです」
「えっ?……人間じゃない?それは一体どういう事――」
「天使、なんです」
「天使?」
ふわっ
「あっ……」
――普通なら、こんな事は信じないだろう。
天使なんて、いる訳ないと一蹴して笑ってしまうかもしれない。
だが、事実俺の目の前には、大きな白い羽を広げて、頭に丸く輝く輪っかが浮いている御菜の姿が。
これ以上ないくらい、十分すぎるほどの説得力だった。
こんなに可愛くて、綺麗な羽を持った御菜が、昔助けた女の子で、その時にした約束を果たすためにやって来た。
俺のおよめさんになると言う……
それが昔彼女と交わした約束。
よく、覚えていたな。
俺なんかほとんど覚えてなかったのに。
あぁっどうしてこんな肝心な事を忘れていたんだろう!
でも、少しでも覚えていたと言う事は、自分でもそれを望んでいたのかもしれない。
それが急にはたされようとしていたけど、俺はそんなに取り乱してなかった。
「総太さん、信じて……もらえますか?」
不安そうな表情を浮かべる御菜。
両手を胸元の前に合わせているし、背中から見える白い羽も、何となく力が無く見える。
きっと、信じてないと思ったのだろう。
だから、そんな事は無いと言って彼女に笑いかけた。
「……信じるよ。御菜の話」
「総太さん……!」
「天使とか人間とか、そんなのは関係ないだろう?御菜は御菜、俺は俺、それでいいじゃないか。随分昔にした約束だったけど、覚えていてくれてありがとう。御菜。こんな俺だけど、よろしく頼む」
「……ぐすっ、ありがとう……ございます」
泣いているが、笑顔で返してくれた御菜。
俺は、そっと頭を撫でてあげた。
「あのさ、御菜」
「……はい」
「婚姻届の事なんだけど。あれ、もう少し後でもいいかな?」
「え?」
「まだお互いの事を全然知らなすぎだろ?ちゃんと知ってからでも考えるのは遅くないと思うんだ。あ……だからと言って、御菜を嫌いになるって事はなさそうだけどね」
「ふふっ……そうですね。私、総太さんに嫌われたらお嫁にいけなくなっちゃう」
ははは、と2人で一頻り笑う。
御菜とは初めて会ったも同然なのに、こんなにも早く打ち解けていた。
最初はどうなるかと思ったけど、とりあえずは1段落だ。
そのとき、安心して気が緩んだのか、俺の腹の虫がぐうぅぅ〜と音を立てた。
いや、これはお恥ずかしいところを………
「もうこんな時間なんですね」
「はは……そうだな。そろそろご飯にしないと」
「私が作ります」
「えっ?ホント」
「はい!お料理は得意ですから、任せてください」
トンっと胸をたたくと、御菜は台所へ行った。
しばらくすると、まな板で何かを刻む音や、油で揚げているような音が聞こえてきた。
いい匂いも漂ってくる〜。
なんだか、こうしていると婚姻届は別としても、本当の夫婦みたいだなぁ〜……
御菜が俺の婚約者(って言うのか?)ねぇ……
見た目も全然悪くない、むしろ凄くいい。
顔だってあどけない所は残ってるけど、それはそれで文句なし。
スタイルだって良さそうだし――ってどこを見てるんだ俺は。
いかんいかん、冷静に冷静に。
「はい、お待たせしました」
「うわ〜結構凄いな。家にこんなに食材あったっけ?」
「私が家から持ってきたものもありますよ」
「なるほど」
料理を全て並び終えると、御菜は俺の隣にちょこんと座った。
家には俺一人しか住んでいないから、普通の椅子やテーブルは必要ないから買ってない。
あるのは、足の低いテーブルのみだ。
なので、いつも床にクッションや座布団をしいてそこに座って食べている。
「それじゃ、頂きまーす」
「総太さん♪」
食べようとしたら呼ばれたので右を見ると、笑顔の御菜。
お箸には、ホカホカ炊き立てのご飯があり、その下には落ちないように左手が添えられている。
ん……まてよ、この体勢、そして俺を呼ぶ御菜、ご飯……って事はまさか!?
「はい、あ〜ん♪」
「!!」
まさかもまさかで大当たり!
そこには、笑顔とお箸を俺に向けた御菜が!
しかもその笑顔は満面ときている。
やっぱり、お約束なのか〜!?
「いっいやいいよ。自分で食べられるから……」
「そんな事いわないで、はいっあ〜んしてください」
ずいっと身を乗り出してくる。
「そ、そんな……は、恥かしいって」
「ふふっ、恥かしいのは最初だけですよ」
更に接近してきたので、後ろに体重を移動させると、バランスを崩してしまった。
「うわっ!?」
「あっ」
ドタッ
すぐ上には、左手を床について、右手でお箸を持ったままの御菜が俺の上に乗りかかっている。
お箸に載せたご飯が落ちていないのは、流石としか言いようがない。
「…………」
「…………」
この体勢はまずい。
絶対にまずい。
これを誰かに見られたら100%誤解され――
ガチャ
「御菜〜無事に総太君と会ったかね……え?」
「お母さん達つい来ちゃった……って、あら?」
――る展開になってしまった。
どうでもいいけど、頼むから人の家のドアを開けるときはノックくらいしてくれーッ!
つづくっ!
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